第3回 藤井洋平とプリンス『1999』を1位にして考える未来のザ・ベストテン
チャンチャカチャーン(古いタイプのファンファーレ)。『CDジャーナル』本誌で連載中の『未来のザ・ベストテン』。「この名盤を1位に置いて、いま、そして未来に聴いてもらいたいザ・ベストテン(2位から下)を考えよう!」というこの企画。Web版第3回は本誌2020年夏号に掲載された、藤井洋平を迎えてプリンス『1999』から決めたザ・ベストテンです!

藤井洋平
――『1999』がナンバーワンなんですね。
「年に一回は(このアルバムを)聴く儀式を行なってますね。いちばん最初のプリンスがこれです。当時『パープル・レイン』(84年)も耳にはしてたと思うんですが、こちらのほうにぐっときました」
――『1999』って、アナログLPだと2枚組だし、一曲一曲も長いです。まだこの時点ではバック・バンドのザ・レヴォリューションは結成されてなくて全曲プリンスの多重録音なんですけど、バンドっぽさもあるし、宅録っぽさもある。プリンスがブレイクした大ヒット・アルバムで、ごちゃまぜな要素も強い。
「普通にポップな曲、かっこいいギター・ソロ、そして珍妙な曲が一緒に入っていて(笑)。〈レディ・キャブ・ドライヴァー〉から始まるサイド4の流れがすごく好きです。ファンクで始まって、わけわかんない曲があって、最後はバラードの〈インターナショナル・ラヴァー〉で終わるという」
――聴いたのはいつ頃ですか?
「ちょうど99年くらいです。その年号の影響はかなりデカいですね。黙示録的な数字の並びに僕自身もソワソワしていましたし。音質がまさしく80年代!というテクスチャーなので耳が慣れるまでは若干時間がかかりましたが。この自粛期間中にもあらためて聴いてたんですけど、ほとんどの曲がリン・ドラムで始まるパターンなんですよ。プリンスが曲を作ってる過程が再現されてるのかなとも思いました。そういう、思いつきでどんどん音を乗っけていいんだと思わされた部分での影響はあるかもしれないですね。自分の作り方もそういう感じが多いですし」
――プリンスも90年代以降はワーナーとの闘争や、迷走と言われた時期もありました。
「プリンスを知ったのがちょうどそのへんです。“記号に改名したヤバい奴”という印象です」
――なるほど。そんな藤井洋平視点から選ぶ『1999』からのベストテン、気になります。
「プリンスから考えるとしたら、やっぱりマイケル・ジャクソンを出さないといけないですよね。『スリラー』(82年)は本当にすごいアルバムだなとあらためて思います。マイケルは音楽家というより芸能人とおもっていたので彼が亡くなるまではずっと食わず嫌いでした。そんで彼がこの世のカルマから解き放たれた後に“聴いてみるか”と思ってエサ箱からひとつかみしてみたら、作品の隅々に多幸感があふれてて、すごかったです。でも、一流ミュージシャンを従えて一大絵巻を作り上げるマイケルより、宅録的にボッチで奮闘するプリンスに自分を重ね合わせてしまうので、マイケル対プリンスではやっぱりプリンスですね」
――その流れでの3位はどうなりますか?
「ディアンジェロですね。『ブードゥー』(00年)の凄さは最初はわからなくて。でも、バラードを聴いてたら、ファルセットの感じに“あ、おまえもプリンスが好きなんだな!”ってプリンス・チルドレンとしての親近感を抱いたんです。だから、理解できたきっかけはプリンス。サンキュー、プリンス。スタンダード・ナンバーを想起させるコード進行の上で漂いながらファルセットで悶える感じは、『1999』でいうと〈フリー〉とか〈インターナショナル・ラヴァー〉に近い」
――4位は?
「マーヴィン・ゲイ『ミッドナイト・ラヴ』(82年)です。プリンスがリン・ドラムなら、マーヴィン・ゲイはヤオヤ(TR-808)。『1999』もそうですけど、リズムの出してるうさん臭さが最高ですね。いかがわしさという点ではマーヴィンのほかの名作より『ミッドナイト・ラヴ』が『1999』に直結してると思います」
――ここまでソウルのビッグ・ネームが揃い踏みですね。5位は?
「『1999』の、ブラック・ミュージックなのか何なのかわけわからない要素をピックアップしたら、マイルス・デイヴィスの『ビッチェズ・ブリュー』(70年)かな。この自粛期間中に引っ張り出して聴いたんですけど、やっぱりよくわからないし具合が悪くなっちゃった(笑)。でも、“何かあるかもしれない”という聴いてしまいたくなる要素があって、そこをプリンスの変態性と無理矢理に結びつけてもいいですか(笑)」
――いいですとも! でも、プリンスにもエレクトリック・マイルス的な混沌作品があってよさそうだけど、ポップに完結するんですよね。
「やっぱり根がエンタテイナーだからかな。倉庫にわけわかんない音源もいっぱい眠ってそうですけど(笑)。けれど混沌の行きつく先は虚無というか。マイルスは途中で一旦引退したけど、プリンスがずっと作品作り続けれたのはそういうことかもしれないですね。『1999』にも〈サムシング・イン・ザ・ウォーター〉や〈ニューヨークの反響〉にちょっとだけそういう要素が出てますけど、かわいいもんですよね」
――さて、ここからベストテンの後半です。
「変態つながりで、フランク・ザッパの『ジャズ・フロム・ヘル』(86年)です」
――あれって、シンクラヴィアを使った人力では演奏不可能な打ち込み曲のアルバムですよ。
「情報の洪水で気が狂いそうになる感じが堪らなくエクスタシーです」
――スティーヴ・ヴァイとジャムったギター曲「セント・エティエンヌ」が入ってますね。
「プリンスもザッパもギタリストとして好きだし、ヴァイとプリンスもギターのトーンが似てますよね」
――言われてみれば、スティーヴ・ヴァイのファースト・ソロ『フレクサブル』(84年)は、プリンスっぽいかも。
「あ、やばいアルバムを忘れてた!ランキングに入れましょう(笑)」
――メタルを入り口にヴァイを知った人を仰天させた変態アルバムですが、大好きです! じゃあこれを7位に(笑)。では8位は?
「男性ソロ・変態アーティストつながりでピーター・ガブリエルのセカンド・アルバム(78年)を」
――ロバート・フリップと一緒にやってるやつですね。
「ポップな音楽性と身体に刻まれた変態というカルマの同居にプリンスに近いものを感じてしまいます」
――ちなみに、ほかのプリンスの作品が入るなら?
「『LOVESEXY』(88年)ですね。『1999』のバンド・ヴァージョンみたいなアルバム。〈グラム・スラム〉という〈リトル・レッド・コルヴェット〉の二番煎じみたいな感じもあるけど、ちょっとスピってるようなスペーシーな雰囲気とヘビーなリズムが混在してて最高ですね」
――いいですね。いまのこのコロナ期を抜けて藤井くんのニュー・アルバムができるときは、ぜひ『LOVESEXY』なジャケでお願いします!
「え……ええ(動揺)、まあ、これからリリースされる音楽はすべてこの状況に対する返答ならざる負えない気がするので、僕なりの返答としてそれはそれで大アリなのかもしれないです(笑)」
――では最後に10位は?
「僕のセカンド・アルバム『Banana Games』と迷いますが、最新シングル〈i wanna be your star〉が僕個人のプリンスへの鎮魂歌なのでこれにします」
取材・文/松永良平
| 今回の未来のザ・ベストテン |
|---|
| 1位 | | 1999 プリンス |
| 2位 | | スリラー マイケル・ジャクソン |
| 3位 | | ブードゥー ディアンジェロ |
| 4位 | | ミッドナイト・ラヴ マーヴィン・ゲイ |
| 5位 | | ビッチェズ・ブリュー マイルス・デイヴィス |
| 6位 | | ジャズ・フロム・ヘル フランク・ザッパ |
| 7位 | | フレクサブル スティーヴ・ヴァイ |
| 8位 | | 2 ピーター・ガブリエル |
| 9位 | | LOVESEXY プリンス |
| 10位 | | i wanna be your star 藤井洋平 |
| 次点 | | スニーカーダンサー 井上陽水 |
| 次点 | | 魔法使いは真実のスター トッド・ラングレン |
| 次点 | | カレイドスコープ・ドリーム ミゲル |