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ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、ララージをゲストに迎えた東京公演ライヴ・レポート公開

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー   2026/04/06 12:02掲載
ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、ララージをゲストに迎えた東京公演ライヴ・レポート公開
 ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(Oneohtrix Point Never)が、昨年11月発表のニュー・アルバム『Tranquilizer』を携え4月1日に大阪・Gorilla Hall、4月2日に東京・Zepp DiverCityにて来日公演を開催。

 現在公開中の映画『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』のスコアをダニエル・ロパティン名義で担当し注目を浴びる中、映画のサウンドトラックにも参加したララージがスペシャル・ゲストに迎えた本ツアーのうち、東京公演のレポートが公開されています。

 なお、会場で販売されていたツアーTシャツが4月12日(日)まで受注販売受付中です。詳細は、Beat Recordsのホームページをご確認ください。

[ライヴ・レポート]
 今夜の主役に先立ち、ダニエル・ロパティンがスコアを担当した映画『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』にも参加したアンビエント/ニューエイジの巨匠ララージがスペシャル・ゲストとして登場。ツィター、カリンバ、ムビラのたおやかな音色で瞑想的な世界をZepp DiverCityに満たした。セットチェンジを終え照明が落ちると、フロアにTake 6の「A Quiet Place」(その後の展開を思えば皮肉にも思える選曲だが)が静かに鳴り響き、ロパティンと映像作家フリーカ・テットがステージに現れた。

 オープニングは凄まじい重低音とともにデジタルノイズの狂気がほとばしる「Nil Admirari」。続いて最新アルバム『Tranquilizer』収録の「Vestigel」へとなだれ込む。彼のトレードマークとも言える熱帯雨林の気配を帯びたSEを散りばめながら「Cryo」「Measuring Ruins」「Still Life」「Americans」と、初期作の楽曲群、さらには『R Plus Seven』に収録される予定だった彼の楽曲のなかでは比較的ストレートにダンサブルな「Rush」も披露された。原点回帰とも言えるこの序盤は、ロパティンという作家の電子音響的な核を、改めて剥き出しにしてみせるようだった。

 フリーカ・テットのビジュアルは、ステージ上にジオラマを設置する点は前回のツアーと変わらないものの、今回はステージ後方の大スクリーンとステージ上の正方形スクリーン、そしてカーペットが敷き詰められたジオラマの部屋の中にもモニターとスクリーンが据えられ、複数の窓が入れ子状に連動し、互いを映し合いながら変化していく構造を全面に押し出すスタイルをさらに推し進めていた。楽曲に合わせてフリーカ・テットはそこにスモークを注入したり、ドアの隙間からこぼれる光を演出したり、細やかな変化を加えていく。主観と客観、没入と俯瞰を絶え間なく往復する、中毒性の高いビジュアル体験だった。後半にわずかだけロパティンを模した人形も登場するのだが、それがミニチュアのステージ上で倒れていただけ(?)、というのもなんとも彼ららしいユーモアでもあった。

 「Modern Lust」ではオレンジ色に海面のように揺らめく映像が広がり、ミュート・トランペットの断片がラウンジ・ジャズを彷彿とさせる。フラクタル状の模様、記録映像など断片的なイメージがめくるめく「Lifeworld」へ。そして「Cherry Blue」ではステージ全体が群青色に染め上げられた。このあたりのシンプルながら効果的なライティングも目を見張るものがあった。「Bumpy」の心地よいメロディー、「Storm Show」では雷雲や稲妻の映像からダイナミックに展開していく。

 この夜はOPNの狂騒にオーディエンスもぴったりと呼応していて、激しいビートにヘッドバンギングしている人、美しいライティングに手をかざす人など、それぞれのスタイルで没入していたが、凶暴さとうっとりする美しさの振り幅という点でも、この中盤の『Tranquilizer』パートがもっとも反応が大きかったと思う。

 終盤に差し掛かると、『Tranquilizer』との近似性が指摘されるアルバム『Replica』から「Power of Persuasion」のフレーズが聞こえたかと思うと、マジカルな旋律を持つ「Imago」へと滑らかにつながっていく。前半の「Measuring Ruins」の後にも、セットリストには記載されていない「Along」の一節が差し挟まれるなど、自己をマッシュアップする手法が随所で試みられていた。

 本編ラストは『Tranquilizer』収録の「Rodl Glide」。手描きのスケッチが突然変貌し、あのジャケットのアブナー・ハーシュバーガーによるアートワークが動き出す。R&Bのスロー・ジャムのような泣きの旋律がループからハードコア・テクノな爆発へと昇華していく。このうえないカタルシスを生み出し、ロパティンはヘッドフォンを外し、一礼してステージを後にした。

 アンコールに登場したロパティンは「こんなにクレイジーな音楽をやっているのに、これだけ素晴らしい人たちが集まってくれるなんて信じられない」と感慨深げに語り、会場は笑いと万感の拍手に包まれた。

 最初に演奏されたのは「Replica」。あのメランコリックなピアノの一節が鳴った瞬間、フロアから歓声が上がる。しかしそのピアノはチョップされ新たなグルーヴを生み出し、2026年バージョンとしてよりアグレッシブに甦っていた。続く「Where Does Time Go」では、ジャーマン・プログレを想起させるキーボードが、部屋の奥へと吸い込まれていく映像とともに催眠的な空間を立ち上げる。ロパティンが映画のスコアワークで見せるタンジェリン・ドリームに通じるシンセワーク、あるいはヤン・ハマーを彷彿とさせる80'sな音響美の源泉が、まさにここにあることを再認識させられた。

 そして驚くほどストレートなダンス・トラック「Mutant Standard」がフロアを揺らせた後、ラストは「Chrome Country」。星の誕生を思わせる映像の中、オルガン、ピアノ、幽玄なオペラ的ヴォーカルが渾然一体となり、会場全体を圧倒的な高揚感で満たした。Zepp DiverCityの2,500人というキャパシティが、ひどく小さく感じられるほどの密度だった。テクノロジーとエモーションという言葉では陳腐に聞こえてしまうが、まさに抽象度の高い音楽がこれほどのカタルシスで締めくくられることの悦楽―メランコリーとセンチメントが溶け合う余韻が、長く尾を引いた。

 新旧楽曲を織り交ぜた今回のセットは、最新アルバム『Tranquilizer』を中心に据えつつ、それを補強・拡張する構成だった。アルバムリリース時にロパティン自身がピンク・フロイドの『狂気』(1973年)を引き合いに「最初から最後まで通して体験するアルバム」と語っていたが、今回のライブもまさにその言葉通り、まるごとで受け取ることではじめて完成するパフォーマンスだった。原点回帰を感じさせる電子音響の序盤、主観と客観を行き来する入れ子構造の映像が冴えわたる中盤、そしてベスト・ヒット的な興奮に満ちたアンコール―ネットの広大な海から拾い上げたサンプル音源をもとにまとめあげるロパティンのデジタル・アーキビストとしての手腕と、フリーカ・テットの手作業の跡をあえて残すクラフトマンシップの融合によって生まれた、音響と映像が有機的に連動し、ひとつの体験として立ち上がる唯一無二のパフォーマンスだった。


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Photo by Taro Mizutani
Photo by Yukitaka Amemiya
Text by 駒井憲嗣


Tranquilizer Japan Tour Tee (Faded Black)受注販売
beatink.com/products/detail.php
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