中村 中 連載「『少年少女』の世界」 - Chapter.1 中村 中、New Album『少年少女』インタビュー
掲載日:2010年9月15日
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 レコード会社を移籍し、新環境での活動をスタートさせた中村 中。9月22日にリリースされる4thアルバム『少年少女』は、中村 中の稀有な才能を鮮やかに示す1枚だ。本作は“家出少女”“不良少年”という登場人物を主軸に物語が展開する。描かれる題材の多くは青春の一風景だが、人間としての普遍的なテーマへと、リスナーは生々しく直面することになる。孤独、愛情、憎しみ、不安、希望、優しさ……さまざまな感情を浮き彫りにする中で、“確かなものなんて何もない日々をどう生きるのか?”と、我々に問いかけてくる作品だ。中村 中の言葉を交えつつ、『少年少女』の世界を探る。
 4thアルバム『少年少女』には、2人の主人公“家出少女”“不良少年”が登場する。6曲目「人間失格」を中心軸とし、1曲目「家出少女」〜5曲目「秘密」が少女にまつわる物語、7曲目「旅人だもの」〜11曲目「不良少年」が少年にまつわる物語という構成になっているのではないか?と、誰もがすぐに察すると思う。しかし、全体像に関しては、さまざまな解釈が成り立ち得るのだ。“全曲が少年、もしくは少女を描いている”と捉えることもできるし、“少年、少女が出会った人物を描いた曲も、織り交ぜられている”と解釈することもできる。また、“少年”と“少女”が登場しつつも、描かれているのは必ずしも少年や少女特有の事柄ではないということにも、多くの人が思い到るはずだ。自我が芽生える思春期に出会う悩みや不安を描きつつも、人間として一生をかけて直面しなければならない課題が、全ての曲で浮き彫りになっている。
 「わたし自身も、どの曲が誰の曲であるとかは、とくにカッチリとは決めてないんです。それは聴いてくださる方々に無限に広げていっていただきたいです。“少年”と“少女”を設定した理由は、記号を作りたかったから。誰しも少年、少女であった時期を経て大人になって行くじゃないですか。必ず誰もが通ることの記号としての、“少年”“少女”なんです。だから、『少年少女』が聴くためのアルバムと限定したつもりはないんです。もっと言うならば“中村 中”って名前を外してもいい。ただ“音楽”として受け取ってもらえたら嬉しいです」(中村 中)
 例えば「家出少女」という曲。この少女が家出をする理由は、親との喧嘩や、何かからの逃走ではない。彼女を駆り立てるのは“たとえ厳しい現実に打ちのめされることになろうとも、自分の足で歩んで人生を感じたい!”という切なる願いだ。これは現実と理想の狭間で揺れざるを得ない人生の普遍的なテーマではないだろうか? あるいは、「不良少年」。行く宛てもなく彷徨い、泣き叫んでも誰にも悟られない暴走行為に慰めを見出し、“踏みつけにされても生きること諦めない!”と負けん気を滲ませる彼の気持ちは、もしかしたら理不尽な現実を経験している大人であればあるほど、激しく感情移入できるのかもしれない。
 「今回のアルバムは3本柱があると思っていて。1曲目の<家出少女>、最後の<不良少年>、真ん中の<人間失格>。これってパッと見ると少女のことよりも家出のこと、少年のことよりも不良だということ、人間だってことよりも失格だということの方に目が向いてしまうんですよ。でも、聴いていく内に“家出”とか“不良”とか“失格”とかいうことは意外と飾りでしかなくて。“少年も少女もみんな同じ人間なんだ”という風に最終的に行き着く。いろんな飾りが取れていった時に、一番いろんなことが見つかると思うんですね」(中村 中)
 そして、本作には“旅”のイメージが脈打っている点も興味深い。各曲の主人公たちは今まさに旅をしていたり、これから旅立つ。しかし、具体的な目的地を持っている者は誰もいない。全員が“ここではない何処かへ”と夢見るが、“何処へ向かうのかは分からない”という旅人なのだ。
 「何処へ行くかよりも、むしろ歩くことに意味がある。曲の彼や彼女は、そう考えていると思います。“旅に出るか、出ないか?”の段階ですでに悩んじゃっている人が最近多い気がするんです。でも、ただ立ち止まっていると、悪い人になっちゃうきっかけが一杯広がっている現代。“○○へ行くべきだ”とは言えないけど、“立ち止まっていると悪循環だぞ”ということは言えると思うし、リアルに響くと思うんです。それを伝えたかった」(中村 中)
 互いに監視し合い、誰かを吊るし上げては、また次の獲物を探す学校生活を“まるで戦争ではないか?”と描く「戦争を知らない僕らの戦争」。器用に立ち回れないがゆえに傷つく自分の性質に歯軋りしつつも、生きることを諦められない魂の様を描いた「人間失格」……心を揺さぶる曲は尽きない。シアトリカルなモノローグが駆け抜ける「独白」は、舞台役者としても活動を続けてきた中村 中の一面が垣間見える印象的な曲だ。女性が別れた恋人についてなどを語る中で、我々リスナーは血生ぐさい何かが起きつつあることを予感する。
 「“今回は一言で言うならばどういうアルバムか?”と説明する時に、<家出少女>のサビの部分の≪街では何が起こるかわからない≫っていう部分で、わたしの中では全てがまとめられちゃうんです。“何が起こるか分からない今、どう生きるか?”ってことが言えれば大成功だったので。でも、アルバムが物語だとしたら、どこかに事件性というか、まさに何が起こるか分からない部分を作っておきたかった。≪何が起こるかわからない≫というからには、何に怯えているのかを明らかにしておきたかったんです」(中村 中)
 これらの楽曲群が並ぶ中で、瑞々しいラブ・ソングがふと飛び出すのが素敵だ。“君”が“僕”を置いて先に大人になってしまうことの寂しさが美しく滲む「初恋」。人との関係を結ぶのが苦手な主人公の抱える真っ直ぐな愛情が溢れ返る「ともだちになりたい」。現実が如何に非情であったとしても、誰かを一途に想い、心を通わし合いたいと願う人間の気持ちは息絶えたりしない……そんな救いを、この2曲は静かに感じさせてくれる。
 「この取材でお話をしていて思ったんですけど、“生きる理由は見つけるものであって、最初から存在するものではない”ってことなのかもしれない。だから<家出少女>で、≪命をもらえた意味を見つけたい≫と唄ったんだと思います。だから、答えなんてこのアルバムには一つもないんですよね。それってキツいことなのかもしれないですけど。でも、それが一番タフで人間らしい。不安定なのがまさに人間である気がします」(中村 中)
 現実世界が不条理と理不尽、訳の分からなさで満ちている以上、その中で暮らす人間の営みと心の揺れを描いた音楽も、“答えなんてよく分からないんです”というものになってゆくのが自然だろう。そういう点で『少年少女』は、とても素直で正直で自然なアルバムだと思う。中村 中が言う通り、この作品に答えは一つもない。しかし、だからこそ日々の暮らしの中で複雑に揺れ動く我々の心の形に、あるがままにフィットしてくれるアルバムとなっている。中村 中の傑作の内の一つとして、後々まで挙げられ続けると思う。
取材・文/田中 大(2010年8月)
NEW ALBUM
『少年少女』楽曲解説
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■家出少女
 少女が家を出る理由は親との喧嘩でも、何らかのトラブルでもない。自分の足で歩いて、自分の人生をあるがままに感じたいという切なる願いが、彼女を外の世界へと駆り立てる。清々しい躍動感の中に、ヒリヒリしたエモーションが滲む。旅立つ少女の胸中で複雑に渦巻く決意、希望、不安、寂しさを体感させてくれる曲だ。
■ここは、風の街
 希望を抱いてやってきた者を容易く幸福にするほど、街はお人好しではない。さまざまな悪意が跋扈する都会のカラッ風が、低音の利いたサウンドからも醸し出されている。歌詞の中に登場する≪その女≫とは、家出少女が街で出会った人物? あるいは家出少女の成れの果てなのか? さまざまな解釈が成り立ち得ると思う。
■独白
 シャープなビートに乗りながらモノローグが展開する。語り手の女性が日々の雑感、別れた恋人との話などを一方的に言い散らす。饒舌で蓮っ葉なトーンであるがゆえに、却って寒々しさと孤独が浮かび上がるのが不思議だ。血生臭い何らかの事件が起こりつつあることをリスナーに予感させて、曲は突然に幕切れる。
■初恋
 “君”と“僕”の世界が全てであり、ただ静かに2人だけの時間が流れてゆく初恋。しかし、そんな世界もいつかは終わってしまう。“君”が“僕”を置いて、どんどん大人になってゆくことへの寂しさが唄われている。想いだけでは現実の非情さに立ち向かうことができないことを悟りつつある“僕”のラブ・ソング。
■秘密
 鍵盤を効果的に活かしたサウンドが美しい。温かさの中に、どこか寂しげな雰囲気を感じさせる歌謡曲テイスト。登場する“君”と“僕”の関係性がどういうものなのかは明確に語られないが、秘密の恋をしている2人であることが窺われる。幸福の向こう側にどうしても見えてしまう別れに怯える“僕”の姿が切ない。
■人間失格
 器用に周囲に合わせて生きられず、あるがままの自分を曝け出すとハミ出してしまう。生きることの難しさが切々と吐露される。自分を偽り続けることが上手な生き方だとすれば、そんな人生に意味はあるのか? 悩みながらも生きることを諦められない主人公。ここで描かれる想いは、多くのリスナーの共感を呼び得ると思う。
■旅人だもの
 本作が第2章に入ったことを感じさせる曲。元野狐禅の竹原ピストルとの共作。ロードムービーのように、路上の旅の風景が流れてゆく。“君”と共に旅をしている“僕”。“僕”とは誰で“君”とは誰か? 想像が膨らむ。“君”に“家出少女”、“僕”に“不良少年”を当てはめてみる聴き方も面白いのではないかと思う。
■戦争を知らない僕らの戦争
 互いに監視し合い、誰かを吊るし上げ、また新たな獲物を探す。そんな学校生活は、ある意味、戦争なのではないか? 目に見える爆弾や弾丸とはまた別の脅威=人間の悪意を描く。終盤でやってくる卒業式は解放の時。しかし、晴れやかなサウンドは、決して明るい未来を予感させない。外の世界も学校と地続きなのだから。
■青春でした。
 痛みや傷の中に、どういうわけか深い思い出が宿る青春。いろいろとひどくて面倒くさいやつだったけど、なぜか忘れられない“あいつ”への気持ちが描かれる。“わたし”と“あいつ”とは誰なのか? この曲も想像が膨らむ。リスナー各々で、自由な物語を作り上げることができるのが、『少年少女』の魅力の一つだ。
■ともだちになりたい
 ピアノの瑞々しい演奏とともに、一途な愛情が唄われる。透明感溢れる愛情表現の中に、不器用な苛立ちが時折滲むのが生々しい。持て余してしまうくらいに溢れ返る愛情は、往々にしてその持ち主に甘美な想いよりも、苦しさを強いる。純粋な愛情の中に確実に宿る危うさ、脆さも感じさせるラブ・ソング。
■不良少年
 行く宛てもなく彷徨う不良少年。生きることはいつでもやめられるからこそ諦めず、ボロボロになっても胸を張って生きようとする不良少年。泣き叫んでいることを誰にも悟られないスピードで夜の街を走る不良少年。彼が抱える気持ちは、決して不良少年特有のものでないのでは? 自分の心を重ね合わせずにはいられない曲。
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