坂本真綾 連載 「おんがくto わたし〜everywhere」 - Chapter.4 武道館<15周年記念ライブ Gift>レポート
掲載日:2010年4月14日
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 3月31日、坂本真綾の誕生日に行なわれた武道館ライヴ<15周年記念ライブ Gift>。豪華なサプライズ・ゲストあり、アットホームなMCあり、初のチャレンジあり、白熱のクライマックスあり……と見どころ満載のこの公演をレポートします。
 30歳の誕生日であり、ベスト・アルバム『everywhere』のリリース日でもある2010年3月31日、坂本真綾が初の武道館ライヴ<15周年記念ライブ Gift>を行なった。さまざまなタイミングが重なったこのライヴで彼女は、15歳から30歳までの音楽活動のなかで経験したこと、そこで獲得したアーティストとしてのアイデンティティを強く、まっすぐに表現してみせた。

 彼女のシンガーとしての魅力は、オープニング・ナンバーの「Gift」からしっかりと伝わってきた。“贈り物”をモチーフにしたキュートなドレスに身を包んだ(ライヴ中盤のMCで「“私がギフト”的な?」とコメント。かわいい彼女は、会場中に広がる祝福ムードのなかで、じつに魅力的なヴォーカルを響かせる。イノセントな少女性、凛とした強さを共存させた声質、正確なピッチ。その奥深いヴォーカリゼーションにいきなり圧倒されてしまう。

 「みなさん、こんばんは。坂本真綾、30歳です! 今日3月31日は30回目の誕生であり、ベスト・アルバム『everywhere』の発売日。この特別な日にみなさんと一緒にすごせること、すごく幸せです」というMCのあとは、豊かな色彩をたたえた楽曲を次々と披露。洗練された旋律とクラシカルな雰囲気を併せ持つ「blind summer fish」、ドラムンベース系のリズムを取り入れた「ヘミソフィア」、90年代のUKロックを想起させる「ユッカ」、心地よい疾走感をもたらすビートのなかで浮遊感のあるメロディが広がっていく「30minutes night flight」。「人との出会いに恵まれて、そこでいろんなことを教わって。大切な人に囲まれている喜びをかみ締めながら歌います」というMCに導かれた「Remedy」、“恋の終わり”を切なく、叙情的に歌い上げる「紅茶」、“想いをかたちに変えるんだ”というメッセージに胸を打たれるアップ・チューン「SONIC BOOM」、そして、佐野康夫(ds)、三沢泉(perc)のソロのあとに演奏された「奇跡の海」――南米の雰囲気を感じさせるメロディが印象的なバラード・ナンバー――における、あまりにも美しいヴォーカルと言ったら……。これほどまでに多彩な表現力を持ったシンガーは本当に稀だと思う。
 ライヴ中盤では「gravity」「カザミドリ」「ダニエル」、そして“アコースティック・ギターと歌”による「ダニエル」など、しっとりと落ち着いた楽曲を中心に構成。さらに菅野よう子が登場(会場中から凄まじいばかりの拍手と歓声が沸き起こる)、菅野のピアノと坂本の歌によるメドレーが披露される。96年から2003年まで坂本のプロデュースを担当していた菅野は言うまでもなく、“シンガー・坂本真綾”にとってきわめて大きな存在。「約束はいらない」のイントロから始まり、「指輪―23カラット―」〜「Active heart」〜「アルカロイド」〜「夜明けのオクターブ」〜「Tell me what the rain knows」〜「tune the rainbow」〜「チョコと勇気」(チロルチョコのCMソング。最後は“誕生日には武道館”と替え歌)〜「トライアングラー」〜「約束はいらない」と繋がれたメドレーは、このライヴのハイライトであると同時に、ふたりが築き上げてきた作品の質の高さを示していた。

 坂本自身が赤いテレキャスターを持ち、“ジャキーン!”という大音量とともにスタートした「Get No Satisfaction!」からは「マメシバ」「Private Sky」とアッパー系のナンバーを連発、オーディエンスのテンションもグイグイと上がっていく。孤独と向き合いながらも、“愛を忘れないで生きていきたい”という思いを響かせる「光あれ」も強く印象に残った。

 そして、本編ラストの「I.D.」を歌う前、彼女はこの15年間の思いをゆっくりと語り始めた。16歳のとき、何の前触れもなくCDデビューが決まったこと。何の特徴もなく、つまらない子だと思ってた自分にも何かが出来て、それをほめてもらえるのが嬉しかったこと。その後さまざまなメディアに“坂本真綾”が広まっていき、自分の知らないところでイメージが作られていくことに怖さを感じたこと。アルバム『DIVE』から歌詞を書き始め、自分自身と向き合いながら、モヤモヤした気持ちを何とか言葉にしようと格闘したこと。いま、10代のときの自分に向かって「大丈夫、怖くないよ」と言ってあげたいと思っていること――。

 彼女はデビューからの15年間、「自分とは何か?」というテーマに対峙してきた。そして30歳になったいま、彼女はシンガーとしての存在証明を手に入れ、大勢のオーディエンスの前でまさに普遍的と呼ぶにふさわしい歌を届けている。「I.D.」から始まった表現者としての軌跡が、武道館という舞台のなかでしっかりと結実しようとしている――そこに生まれる豊かな感動は、今後の彼女にとっても大きな糧になるはずだ。

 アンコールでも印象的なシーンが続く。「風待ちジェット」では作曲者の鈴木祥子が登場、「ハッピーバースデー」を観客と一緒に歌ったあと(“サプライズはナシって言ったじゃん!!”と楽しそうに驚く坂本)ドラマーとして演奏に参加。さらにベスト盤に収録された新曲「everywhere」ではピアノの弾き語りを披露、“人は愛されるために生まれてきたんだ”という切実なメッセージを伝えていく。そして最後は、菅野よう子、鈴木祥子を交えて「ポケットを空にして」。会場中に広がっていくオーディエンスの大合唱、「明日から普通の毎日がはじまります。自分の命を喜ばせて、生きて、また必ず会いましょう」という彼女の言葉とともに、この貴重なライヴは幕を閉じた。
 デビューから15年の間に積み重ねてきたことを、豊かな奥行きを持つ音楽へと昇華してみせた坂本真綾。記念すべき武道館ライヴを経て、彼女はまた新しい旅に出る。「これからはもっと自分の人生を楽しみたい」という彼女はこれから、どんな歌を届けてくれるのか……? それが楽しみでしょうがない。
取材・文/森 朋之(2010年3月31日)
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