観客を巻きこむカオスなライヴも話題を呼んでいるサウス・ロンドンの5人組、ファット・ドッグ(Fat Dog)による新作アルバム『WOOF.』を携えた東京・LIQUIDROOMでの初来日公演が12月4日(水)に迫る中、これに先駆けて11月23日、英・ロンドン「Kentish Town Forum」でのライヴ・レポートが到着。その“クレイジー”なパフォーマンスの模様を伝えています。
哀愁漂う「アヴェ・マリア」が会場全体に流れると、期待の高まるオーディエンスからは唸り声があがる。嵐の前の静けさとはこのことか。今回も特別ゲストのニール・ベルがマイクスタンドに立ち、「Vigilante」イントロのスポークン・ワードを朗読する。シングル「All The Same」MVにも出演している同氏だが、くたびれたスーツと疲れ果てた表情に似つかわぬ力強いスピーチが逆に憐れみを増し、奇妙にシュールだ。「我々は皆、ただの犬なのだ!」。ベルがオーディエンスを不吉なトランス状態へと導くと、テクノのストンプ・スウィングが響き渡り、激しいストロボが、宙に鮮やかな線を描く。ファット・ドッグのライブを一言で表すとしたら、“クレイジー”だ。ジョー・ラヴはおなじみとなった白の空手着にカウボーイハットだが、クリス(k)は謎の兵士帽にミリタリー風ジャケットを着ている。そしてそのクリスが、2曲目の「Boomtown」で早くもクラウドに飛び込み、しゃがんでカニ・ダンスを始めると、オーディエンスは完全カオスとなった。ファット・ドッグのファンは「ザ・ケンネル」と呼ばれているらしいが、彼らは自分たちの役割を心得ている。メンバーがオーディエンスに交わればそれを囲み拳を掲げ、時に突き上げた両手を嘴のようにスナップする。まるでイマーシブなシアターにいるような参加型のライブは、バンドとの強い連帯感に繋がる。
「King of the Slugs」は、アルバムで聴くだけでも様々な表情を持つ、7分もの大曲だが、これがライブとなると、まるでローラーコースターに乗っているようだ。曲中でジャンルが目まぐるしく移行し、変調したかと思うと、激しいジョーのシャウトからスローなロンドに変転する。モーガン・ウォレス (k,sax) のサックス先導でクラウドを湧き上がらせ、伝染性のあるバック・ビートで会場全体に制御不能な狂気をもたらすとクラウドは一斉にモッシュに突入する。ギグ慣れを自負している筆者は、ある程度のモッシュやポゴを想定して、その半径を計算し、巻き込まれないちょうど外側に陣を取るのを得意とするが、今回はその計算が見事に外れた。というのも、半径も何もスタンディングのストール全体が押し合いとなり、逃げ場を失ってしまったからだ。しかし、ヴェニュー全体が揺れに揺れ、天井が落ちてくるのではないかと思うほどの熱気は、爽快かつジョイフルだ。そしてこの「King of the Slugs」の後半以降、ジョーはステージに戻ることはほぼなく、残りのショーをオーディエンスと共に過ごすことになる。疾走感のある、ニューシングル「Peace Song」では、クリスがギターを担当し、ジョーはフロントバリアから聴衆を煽る。続く「Bad Dog」では、軽快なパーカッションと重厚なベースラインが一定のリズムを刻むのに合わせ、クリスがステージで体操と腕立て伏せを始めた。さらに「俺は王様だ」と宣う、妄想と傲慢さが交じり合った失恋アンセム「I am the King」でジョーは、クラウドに完全に紛れ込んだ。オーディエンスの間を闊歩し、「You are F**king Animals!」と叫びつつも、丁寧に何度も「Thank you」を連発するから面白い。そして、待ちに待った「Wither」!クリスとモーガンの二人は楽器を離れて互いに握手をし、コレオグラフのシンクロナイズド・ダンスを始める。馬鹿馬鹿しいほどダサいが、二人の息はピッタリ。本編を締めくくる最高の演出だった。