忘れ去られた日本の時代や風景を音として再構築する「失日本」シリーズで知られる音楽家の
冥丁が、現代の生活の中でひっそりと息づく「憧憬の残る場」を探求する新章「失日本百景」を始動。その幕開けとして、アルバム『泉涌(センニュウ)』が8月8日(金)にCD、LPでリリースされます。
2024年11月末、彼は、別府市制100周年記念事業の一環として、温泉文化をテーマにした滞在制作に招かれ、別府を訪れました。今回の制作では、海辺に佇む築100年の旅館「山田別荘」の蔵に約1週間半滞在。雨水が火山岩に染み込み、癒しの湯となって地上に戻る循環に耳を澄ませ、その結果生まれた『泉涌』は、温泉文化の内なる精神をたどる作品となりました。
冥丁は、竹瓦温泉、坊主地獄、へびん湯、そして山田別荘の内湯や貸切湯など別府の象徴的な温泉地を訪れ、泉源の音、泥の泡立ち、噴気孔の響き、竹林を渡る風、湯を楽しむ人々の会話などの環境音を丁寧に録音。これらのフィールドレコーディングとその深い聴取体験を楽曲の音の土台とし、立ちのぼる湯気や体感した湯加減の塩梅までも音として描き出そうと試みています。
『泉涌』では、一連の楽曲として展開し、硫黄と火山岩の風景の中を湯気のように漂っていきます。坊主地獄に潜む狂気、山田別荘の
内湯に響く幽玄な残響、苔むした竹瓦温泉の風情の中で交わされる日常の語らい。そうした断片が静かに織り込まれ、水の静けさや土地に宿る記憶、そして代々ここで湯に親しんできた人々への深い敬意が込められています。
『泉涌』は、失われた日本の記憶を主題とする冥丁の探求を継承しつつ、新たな領域に踏み込んだもの。別府の風土や記憶を音で巡礼するかのように、リスナーを深い没入体験へと誘います。マスタリングはStephan Mathieuが担当しています。
なお、本作品の制作過程や別府での滞在を記録した、冥丁初の写真集も同時リリース。これまで音のみで紡がれてきた冥丁の世界に、視覚という新たな次元が加わっています。