ジョン・ハッセルの『Music Is Invisible』は、「Pentimento Trilogy」を締めくくる第3作であり、彼が生前最後に行なったライヴ・パフォーマンスを収録した特別な作品。2015年5月23日にロンドンのSt John at Hackney教会で行なわれた、リック・コックス、ジョン・フォン・ゼーゲルンとのトリオ演奏を、ジェフ・ロナが緻密な編集・ミックスによって再構築し、単なるライヴ盤の枠を超えた音響作品へと昇華しています。現在アルバムからの先行配信曲として「Blue Ba-Ya (Excerpt)」がビジュアライザーとともに公開中です。
2018年の『Listening To Pictures』、2020年の『Seeing Through Sound』に続く本作では、両作に登場したテーマ、モチーフ、リフが半即興的な演奏の中に姿を現します。Pentimentoとは、絵画の上から塗り重ねられた過去のイメージや筆跡が浮かび上がる現象を指す言葉。ハッセルはこの概念を音楽に応用し、過去のライヴやリハーサルの録音を素材として新たな演奏を重ねたり、ループや編集によって別の楽曲へと変容させてきました。その手法には、ジャマイカのダブにおける「ヴァージョン」文化や、テオ・マセロによるマイルス・デイヴィスの大胆なテープ編集からの影響も色濃く反映されています。
『Music Is Invisible』もまた、過去の演奏をサウンドベッドとして活用し、編集、サンプリング、オーバーダビングを施すことで、ライヴとスタジオの境界を曖昧にしています。アルバム・タイトルは、ハッセルが『Seeing Through Sound』制作時に考えていた候補のひとつであり、ライナーノーツには彼自身による「On The Invisibility Of Music」を収録。アートワークには、彼の親友マティ・クラーワインによる1976年の絵画『Leh C'est Beau』が使われています。リック・コックス、ジョン・フォン・ゼーゲルや、長年のエンジニア、アルノー・メルシエらの協力のもと完成された本作は、ハッセルが追求した「見えない音楽」の思想を受け継ぐ、静かで壮大なラスト・ステートメントと言えるでしょう。