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ウィーン・フィル〈シェーンブルン・サマーナイト・コンサート2026〉のライヴ・レポートが到着

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団   2026/06/26 13:01掲載
ウィーン・フィル〈シェーンブルン・サマーナイト・コンサート2026〉のライヴ・レポートが到着
 ウィーンの初夏の風物詩、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の〈シェーンブルン・サマーナイト・コンサート〉が、6月19日(金)オーストリア・ウィーンのシェーンブルン宮殿内の広大な敷地の会場を埋めた5万人を超える観客が見守るなか開催されました。今年の指揮者はロレンツォ・ヴィオッティ。ゲストに英・ウェールズ生まれのオペラ歌手ブリン・ターフェルを迎えました。

 当日の模様を収録するアルバム『ウィーン・フィル・シェーンブルン・サマーナイト・コンサート2026』は、7月17日(金)に配信開始。輸入盤に日本語解説・歌詞対訳が付いたCDは8月5日(水)、Blu-rayは8月19日(水)に発売予定。このアルバムから、マスネ:「タイスの瞑想曲」が先行配信されています。

 また、スイス在住のピアニスト・佐々木梨央によるライヴ・レポートが公開されています。

[ライヴ・レポート]
分断の時代に響く「多様性の架け橋」

 少し雲はあるもののほぼ快晴に恵まれ、日陰に入ると心地よい涼しさが感じられる初夏のウィーン・シェーンブルン宮殿にて、ニューイヤー・コンサートと並ぶウィーン・フィルの名物行事「サマーナイト・コンサート」が開催された。

 昨今、右傾化の潮流が強まるヨーロッパ各国であるが、今回の指揮者ロレンツォ・ヴィオッティの出身国でもあるスイスでは、先日の国民投票で外国人制限案が否決されたばかりである。このように、分断のなかでも多様性を受け入れ、共生しようとする動きも根強く支持されている。

 今年のプログラムは、まさにその社会のあり方を映し出すものだった。多様性は社会的理念であると同時に、この夜のプログラムと観客の構成そのものとして、舞台上で表現されていた。イタリア・オペラやウィーンの伝統曲を軸としつつ、黒人女性作曲家プライスの「アドレーション」、ユダヤ系亡命作曲家コルンゴルトの作品、さらにはアメリカのミュージカルまで、国境やジャンルを越えた選曲が並列されている。

 かつて特権階級のものであった伝統ある庭園を「万人のため」に無料開放するこの夜、会場には言葉通り老若男女、様々な国籍の人々が溢れていた。開演前の会場内では、過去の演奏映像とともに美しい音源が流れ、まるでテーマパークに来たかのようなワクワク感に包まれている。ビールやソフトドリンクの売り子が行き交う賑やかな空間は、クラシック音楽が完全に市民の娯楽として開放されていることを物語っていた。国境なきステージとその客席のダイナミクスは、音楽が社会の多様性をつなぐ確かな「架け橋」であることを美しく証明する。

 エリアを区切るゲートが閉まり、会場内の前後の行き来ができなくなったその時、客席から突然拍手が沸き起こった。スクリーンに指揮者やアーティストの姿が映し出され、前のエリアから後ろへ、後ろのエリアから前へと移動したい人々がゲートに押しかける。ちょっとした混乱と高揚感に包まれるなか、あっという間にコンサートの幕が上がった。


 最初の一曲は、開幕にふさわしい華やかなスッペのオペレッタ『軽騎兵』序曲。ザワザワとした熱気のなかに響き渡る金管楽器群の輝かしい音色と弦楽器群の厚い波は、会場を一気にその世界観へと引き込んでいく。その波のなか、ブリン・ターフェルが黒い布を持って登場。一瞬布で顔を隠し、役になりきり、ボーイトの歌劇『メフィストーフェレ』よりアリア「俺はすべてを否定する悪魔だ」が始まる。悪魔になりきるターフェル。演技もさすがのもので、カメラを意識した動きもちょこちょこありつつ、曲中で器用に指笛を吹く。曲の最後には、オーケストラの中から指笛による応答が。それに乗っかるように、ターフェルが客席へもユーモアたっぷりに(指笛を)促す。そんなウィットに富んだ演出が大好きな観客は、指笛と割れんばかりの拍手で応え、会場は大盛り上がりとなった。

 次曲開始とほぼ同時にゲートが開き、その瞬間、観客たちは一斉に動き出した。エリア間の行き来が可能になったのである。歌劇『マノン・レスコー』間奏曲は捕縛されたマノンの護送の音楽だが、曲で語られている護送の描写と観客の行動が重なり、面白い瞬間だった。ここまでの緊張が一気に緩んだ。

 ターフェルが今度は腹に詰め物をして再登場。ヴェルディの歌劇『ファルスタッフ』より「おい!小僧!……ぬすっとめ!」では、同じような悪役でも、声や表情を使い分けることで全く違う世界を創り出す。歌い分け、演じ分けに定評のあるブリン・ターフェルならではの、説得力に満ちた空気感であった。

 その流れのままチャイコフスキーの『くるみ割り人形』より「トレパーク」へ。華やかな曲にふさわしく会場の雰囲気も一気に明るくなる。

 盛り上がってきたところでプライスの「アドレーション」。人々は静かに聴き入り、一呼吸置いてからの拍手。プライスのオーケストラ曲は今年のニューイヤー・コンサートでも取り上げられたばかり。ここ数年ウィーン・フィルが力を入れている女性作曲家の作品を紹介する積極的な姿勢が見て取れる。

 コルンゴルト「シュトラウシアーナ」は軽やかに弾ける水滴のようなピッチカートで始まり、一転してウィーン風の優雅なマズルカ。音に合わせて身体を揺らすカップルも。一振り単位のワルツを経て最後、観客も大いに盛り上がる。ワルツの国ウィーンならではの一体感を味わった。

 初演150年を記念して取り上げられたワーグナーの楽劇『ラインの黄金』よりヴォータンのモノローグ「夕日があたりを照らし出す」で、ターフェルの再登場。今回はこれまでの2曲とは違いふくよかで豊かな声色、それと相対するような輝かしいウィーン・フィル独自の伝統的な構造を持つ金管楽器群!曲が終わると同時にブラヴォーの応酬。

 盛り上がった後の「タイスの瞑想曲」ほど心に響くものはない。陽は落ちてもまだ空が暗くない、そんな絶妙なタイミングでアルベナ・ダナイローヴァのソロによって奏でられる。皆が聴き惚れる、涙が出るような瞬間であった。

 気づけば空は暗く、『ダフニスとクロエ』第2組曲へ。フランス人作曲家であるラヴェルの作品を、フランスのシステムとは異なるウィーンのドイツ管セクションが奏でる。聴き馴染みのあるフランス管の響きとは一味違う、内側から溢れるようなツヤと高貴な輝きに魅了された。エノ・ペチ振り付けによるウィーン国立バレエの若手ダンサーが影によって登場。彼らの踊りが青いライトで照らされるシェーンブルン宮殿の壁面に映し出される。「パントマイム」では見事なフルートのソロに聴き惚れ、「全員の踊り」に。ウィーン伝統の管楽器が炸裂する、重厚かつ色彩豊かなラヴェル。非常に盛り上がり、曲の終わりと同時に指笛、ブラヴォー、拍手の嵐。

 プログラム最後の一曲は、ボックのミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』より「もし私が金持ちだったなら」。ウィーン・フィルにとっては初演奏となるこの異色のミュージカル・ナンバーだが、ターフェルは持ち前の圧倒的な声量と豊かな表現力で、たちまち会場を自身の世界観へと塗り替えていく。曲中での拍手の催促、もちろん観客は大盛り上がりで応える。


 全11曲が幕を閉じ、名残惜しそうに帰路に就こうとする観客たち。しかしここで終わるはずもなく、聞こえてくる軽快な打楽器と旋律楽器のトリル。そして、金管楽器のコールが鳴り響いた。

 アンコール1曲目はアブルーの「ティコ・ティコ・ノ・フバー」。荒々しいトランペットに踊るように指揮をするヴィオッティ。肩を組んで踊り出す観客にこれまた踊り出すかのようなサーチライト。

 本年のサマーナイト・コンサートを締めくくる2曲目のアンコール曲は、定番のヨハン・シュトラウス2世のワルツ「ウィーン気質」。本場で聴く優雅な一曲、サーチライトも落ち着き、大勢の観客が音楽に合わせて身体を揺らし、中には夢を見るように踊るカップルも。(老夫婦、女の子たち……)だんだんと高揚してくる音楽、会場に響き渡るホルン、盛り上がって、最後の音が消える前に万雷の拍手。

 あっという間に過ぎた時間。もっと聴いていたいと思いつつも、全身に音楽を浴びた充実感に包まれて帰路に就いた。


――佐々木梨央

©Wiener Philharmoniker / Niklas Schnaubelt

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