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英国ロック界デザイナー・シリーズ第3弾・キーフとは?

2007/09/14掲載
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ストーム・トーガソン(ヒプノシス)、ロジャー・ディーンと、好評をいただいた英国ロック・シーンの名デザイナー・シリーズ。この2人を取り上げたなら、この人に触れないわけにはいきません。そうです、今回はキーフの登場です。
キーフの素性に関しては、未だに謎とされる部分が多く、その人物像ははっきりしていません。本名はマーカス・キーフという説が有力とされていたのですが、現在ではキース・マクミランであることが判明しています。フォトグラファー及びデザイナーとしてのキャリアは60年代後半(68年ごろ)にスタート。Vertigo、Neonといった、ブリティッシュ・ロック・マニア御用達であるレーベルの作品を数多く手掛けました。




 彼がデザインを担当した作品で最初期のものとされているのが、ジャズ・ロックのスーパー・グループとして名を馳せたコロシアムの2ndアルバム『ヴァレンタイン組曲』。この作品のリリースは69年です。生身のようにも、石像のようにも見える女性をあしらった印象的なジャケットで、同様のデザインはニルヴァーナ(UK)『局部麻酔』(71年)にも見られます。

 多数の名作を残しているキーフのジャケットの中でも特に有名なのが、アフィニティーが70年に残した唯一のアルバム『アフィニティー』。和傘を差した女性が、水辺に座り佇んでいるという、寂しげでいながらも美しいデザインが目を惹きます。また、これも有名なのがブラック・サバスのデビュー作『黒い安息日』(70年)のジャケット。バンドの音楽性と絶妙にマッチした、なんとも言えない不気味な雰囲気を持つ傑作です。そのほか、デヴィッド・ボウイが71年に発表した『世界を売った男』の英国盤オリジナル・ジャケットでは、“マンズ・ドレス”を身に付けたボウイの、中性的な魅力を見事に伝える写真を撮影しています。




 キーフの作品は、写真を用いたものばかり。その多くに見られる特徴は、“どことなく不気味なのに美しい”という奇妙な感覚ではないでしょうか。先述したブラック・サバスの作品でも見られますが、一見コミカルなベガーズ・オペラ『アクト・ワン』(70年)も、ジャケットの登場人物は不思議な仮面と衣装を身に纏っていますし、クレシダ『アサイラム』(71年)では、石像(マネキン?)の首だけを何体も並べるという非現実的な空間を作り出しています。マンフレッド・マン・チャプター・スリー『ボリューム・ツゥー』も同様のコンセプトで、こちらは子供用玩具と思われる人形の首が、隙間なく敷き詰められたデザイン。スプリング『スプリング』(71年)に至っては、川岸に仰向けに倒れた兵士が流血、その血で川が赤く染まるという、悲惨ともいえる情景を三面見開きジャケットで表現しました。しかし、そのどれもが目を背けたくなるようなものではなく、それどころか、一度見たら引き込まれてしまう美しさを持っているのがキーフの魅力です。

 また、これも作風のひとつに挙げられるのが、“不思議な人物”の存在。コロシアムの『ライヴ』(71年)における、完全にブレた写真に収められたジャンプする男、フェア・ウェザー『ビギニング・フロム・アン・エンド』(71年)のオリジナル・ジャケットに写された、透明カプセルに入ったヌードの女性、これもオリジナル・ジャケットのみながら、ロッド・スチュワート『アン・オールド・レインコート・ウォント・エヴァー・レット・ユー・ダウン』(70年)に登場する、帽子に眼鏡、ヒゲ面にコート姿で子供と戯れる怪しげな男、といった作品が知られています。


 ブリティッシュ・ロックがその勢いを弱めていった70年代半ば以降、キーフの手掛けたレコード・ジャケットは徐々に減っていきました。この時期から彼はビデオ・ディレクターへの道を進むようになり、ケイト・ブッシュのデビュー曲「嵐が丘」(78年)などを手掛けます。近年はその名を目にする機会もあまりありませんが、彼のデザインは紙ジャケットでも触れることが可能。ジャケットを担当したバンド/アーティストの中にはアルバム1枚で消えてしまった、という存在も多く、そんなマニア度の高さもまた、現在でもカルト的な支持を誇っている要因と言えるでしょう。


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