10月10日は「銭湯の日」。仕事帰りにふらっと寄る人も、休日にゆっくり汗を流す人も、みんなの“リセットの場所”になってくれる銭湯。立ち昇る湯気の向こうには、懐かしさや人の温もりを感じられます。
そして、お湯に浸かるように心までほぐしてくれるのが銭湯を舞台にした作品たち。今回は、見終わったあとに思わず「お風呂、行こうかな」と思うような、銭湯をめぐるドラマ・映画を紹介します。
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ドラマ『9ボーダー』 2024年4月19日〜2024年6月21日にTBS系にて放送された金曜ドラマ。“9ボーダー”とは19歳、29歳、39歳という各年代のラストイヤーを指す言葉として使われ、主演の
川口春奈、姉役の
木南晴夏,妹役の
畑芽育の3姉妹が“9ボーダー世代”として自分の“3L”(「LOVE」「LIFE」「LIMIT」)を模索する姿が描かれています。この3姉妹が生まれた大庭家が営む老舗の銭湯「おおば湯」は、古いながらもカラフルでポップな雰囲気が印象的。3姉妹が過ごす居住スペースは、かつて洗い場やサウナだった部分をリフォームした設定とのこと。洗い場のタイルがテレビ台になっていたり、サウナ室を八海(畑芽育)の部屋にリメイクするなど、可愛らしい銭湯のセットにも注目です。
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ドラマ『でっけぇ風呂場で待ってます』 2021年1月25日〜2021年4月5日に日本テレビ系深夜ドラマ枠「シンドラ」にて放送された、
北山宏光&
佐藤勝利ダブル主演×最強コント師による銭湯コメディ。下町の銭湯「鵬(おおとり)の湯」を恩人である先代から引き継いだ松見(北山宏光)と梅ヶ丘(佐藤勝利)。クセの強い個性的な客が次々やってきて、事件、トラブル、ハプニングが毎日起こります。お笑い芸人の
じろう(
シソンヌ)、秋山寛貴(
ハナコ)、
賀屋壮也(
かが屋)、
水川かたまり(
空気階段)が脚本を担当したシチュエーション・コメディ形式の銭湯ドラマで、銭湯という公共空間ならではの“人が集まる面白さ”が垣間見えます。
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ドラマ『のの湯』 2019年4月14日〜6月23日にBS12 トゥエルビにて放送された本作は、浅草で人力車夫をしている銭湯好きの主人公・野乃(
奈緒)が、下宿「湯毛荘」で暮らすことになり、岫子(
都丸紗也華)、アリッサ(
高橋ユウ)と女子3人の生活が始まります。3人で銭湯を巡りながら互いに少しずつ心を開いていき、“本音で交わる場”として、実際に東京近郊にある銭湯が登場します。女性の視点で銭湯文化の魅力を描いたヒューマン・ドラマです。
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ドラマ『昼のセント酒』 2016年4月9日〜6月25日にテレビ東京にて放送された
戸次重幸主演ドラマ『昼のセント酒』は、銭湯×酒をテーマに、人々が働いている平日の昼間から銭湯で汗を流し、明るいうちから一杯飲むという大人ならではの道楽を描いています。銭湯という空間が少しの背徳感を生み出し、心地良い午後の時間を映し出しています。誰もが心の中に持っている「ちょっと休みたい瞬間」を代弁するようなドラマです。こちらも実際にある銭湯や飲食店が登場するので思わず行きたくなること間違いないしです。
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ドラマ『時間ですよ』 1965年から1990年までTBS系で放送されていた本作は、日本の銭湯ドラマの原点とも言える名作。舞台となっているのは、東京・五反田の銭湯「松の湯」。常連客や下宿人、そして銭湯を営む家族の日常が、笑いと涙を交えて描かれています。
森光子、
船越英一郎、
堺正章、
樹木希林ら豪華キャストが集結し、当時の世相や人々の暮らしがリアルに映し出され、“お茶の間の銭湯”として多くの視聴者に愛されました。銭湯が地域の社交場となっていた昭和時代の温もりが感じられる作品です。
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映画『ババンババンバンバンパイア』 2025年7月4日に公開された、奥嶋ひろまさの人気コミック『ババンババンバンバンパイア』を
浜崎慎治監督が実写化した本作。銭湯で働く美青年・森蘭丸(
吉沢亮)。その正体は450歳のバンパイア。究極の味わいである“18歳童貞の血”を求める蘭丸は、銭湯の一人息子であるピュアボーイ・立野李仁(
板垣李光人)の純潔を見守る日々でしたが、ある日李仁がクラスメイトの篠塚葵(
原菜乃華)にひと目惚れ。蘭丸による決死の大作戦が始まります。老舗銭湯という舞台で450年の時を生きるバンパイアという非日常を持ち込んだことで、ギャップとスリル、そしてユーモアが生まれ、異質な銭湯作品に。主題歌には
imaseが歌う「いい湯だな」のアレンジカヴァーが起用されています。
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映画『アンダーカレント』 2023年10月6日に公開された本作は、夫の失踪をきっかけに、銭湯を営む女性の心の喪失と再生を描いています。
今泉力哉監督らしい静けさの中にある熱を、
真木よう子、
井浦新らが繊細に演じています。そして、
細野晴臣の音楽が登場人物の心の揺らぎを優しく包み込んでいます。銭湯という空間を、人の心の深層を映す“水面”として描いた、余韻の深い一本です。なお本作は、第42回バンクーバー国際映画祭のパノラマ部門に正式出品されました。
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映画『湯道』 2023年2月23日に公開された、あの「くまモン」を生み出した小山薫堂が提唱する「湯道」の世界を映画化した本作は、銭湯「まるきん温泉」に集う人々の心模様を描き、“お風呂の持つ力”を改めて感じさせる温かな群青劇。湯を媒介に、人と人との距離をほどき、過去や葛藤をも溶かしていきます。コミカルなやり取りの中に、現代社会が忘れかけている“癒し”や“繋がり”の温もりがじんわりと広がります。
生田斗真、
濱田岳、
橋本環奈らが共演。
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映画『湯を沸かすほどの熱い愛』 宮沢りえ主演で贈る、涙と希望に満ちた、2016年10月29日公開の『湯を沸かすほどの熱い愛』は、銭湯「幸の湯」を営む一家を舞台に、“母の愛”の強さを描いた感動作。余命わずかと宣告された母・双葉(宮沢りえ)は、しばらく休業していた銭湯をもう一度再開。物語が進むにつれて、母が抱えてきた“秘密”と“覚悟”が明らかになり、涙なしでは観られない、心が熱く揺さぶられる作品です。なお、第40回日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞(宮沢りえ)、最優秀助演女優賞(
杉咲花)などを受賞しています。
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映画『テルマエ・ロマエ』 古代ローマの浴場設計士・ルシウス(
阿部寛)が、ある日突然現代日本の銭湯にタイムスリップし、ユニークな物語が繰り広げられる『テルマエ・ロマエ』シリーズ。2012年4月28日に1作目が公開、2014年4月26日に2作目『
テルマエ・ロマエII』が公開され大ヒットを記録。日本の銭湯文化や温泉文化に触れることで、ルシウスは斬新な浴場アイデアを次々と思いつきます。古代ローマと日本の文化の対比をコミカルに描き、“時空を超えた入浴ギャグ”が、原作漫画の持つ面白さを見事に映像化しています。
日常の中でほっと息をつける場所として、友情を育む場所として、人の心の深層や再生を映す場所として、笑いや奇想で日常を彩る舞台として、様々な在り方を見せてくれる銭湯。どの作品も、湯けむりの向こうにあるのは「人と人の繋がり」や「心をととのえる時間」。きっと銭湯の暖簾をくぐりたくなるはずです。湯船に浸かり、湯気に包まれながら今日の自分をそっと労わってみてください。
(写真は2017年4月26日リリースのDVD『湯を沸かすほどの熱い愛』)