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『プルリブス』主演レイ・シーホーンの出世作 『ベター・コール・ソウル』のほろ苦い劇中歌たち【前編】

2025/11/20掲載
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『ベター・コール・ソウル』の名シーンを彩った劇中歌が知りたいです。
 伝説的ドラマ『ブレイキング・バッド』のヴィンス・ギリガンの最新ドラマ『プルリブス』。突然、人類が意識を共有する“集合体”のような存在に変異し、取り残された主人公キャロルにひたすら優しくする奇妙なSF展開と、あくまで同調に抵抗するキャロルのひねくれた魅力に、毎週の新エピソード配信を心待ちにする人も多いのではないでしょうか?

 キャロルを演じるレイ・シーホーンは、1998年に映画『A Case Against Karen』で女優デビューして以降、数々の映画やドラマに出演し、『アメリカン・ダッド』や『ファミリー・ガイ』でアニメ声優もこなしてきた演技派。クセの強い脇役を演じてきた彼女が、“遅咲きのヒロイン”としてブレイクを果たしたのが『ブレイキング・バッド』の前日譚を描いたスピンオフ作品『ベター・コール・ソウル』です。ボブ・オデンカーク演じる駆け出しの弁護士ジミー・マッギルが、意図せず周囲の人々を傷つけながら悪徳弁護士“ソウル・グッドマン”になっていく過程を描いた本作で、主人公を支える女性弁護士キム・ウェクスラーを演じ、エミー賞助演女優賞に2度ノミネートされています。

 『ベター・コール・ソウル』は、本家から続投して登場する名脇役たちの背景も掘り下げながら、大人の滑稽さや不器用さを描き出した物語。そして、キムとジミーによるほろ苦い大人の恋も見どころのひとつです。今回は、本ドラマを彩った劇中歌を、キムとジミーの場面にフォーカスしてご紹介します。

リトル・バーリー「ベター・コール・ソウル・メイン・タイトル・テーマ」
オープニング・テーマ / サウンドトラック『Better Call Saul (Music from the Television Series)』収録
 後の悪徳弁護士ソウル・グッドマンにしてみれば、『ベター・コール・ソウル』で描かれるジミーの物語は、基本的には苦い過去。しかし、一緒に事務所を立ち上げ同棲もしたキムとの日々には、甘い感傷も残っているのではないでしょうか。英国のロック・トリオ、リトル・バーリーが書き下ろしたテーマ・ソングは、ヴィンテージなギター・サウンドが奏でる甘く、怠惰な旋律が印象的で、各回を追うごとに、画質が荒れていく(演出上)タイトルバックを切なく彩りました。ドラマではイントロしか流れませんが、歌詞付きのフル・ヴァージョンはサウンドトラックに収録されています。

ジプシー・キングス「A Mi Manera」
シーズン2 ep.5 / ジプシー・キングス『ジプシー・キングス』収録
 有能な弁護士にも関わらず、資料室送りにされてしまったキムが、膨大な資料整理をこなしつつ、顧客獲得で逆転しようと奮闘する場面で流れます。ジミーが助けようとするも、きっぱり拒み自力で這い上がろうとするキムの強さと、カラリと明るいスペイン語版「マイ・ウェイ」は爽快な組み合わせ。顧客を獲得したキムのガッツポーズはキュートでした。レイ・シーホーンは、頑固な女性をチャーミングに演じるのが本当に上手です。

リチャード・ロジャースオスカー・ハマースタインII「バリ・ハイ」
シーズン2 ep.6 / 『南太平洋』オリジナル・サウンドトラック収録
 ジミーが、ラジオDJを気取って、出勤前のキムに電話口から自分の歌声で届けるナンバー。1958年の映画『南太平洋』の劇中で歌われる往年のハリウッド名曲を、調子っぱずれに歌うジミーに、温かく微笑むキムが印象的なシーンです。



トッド・テリエ「アルフォンソ・ムスケドゥンデル」
シーズン3 ep.3 / トッド・テリエ『イッツ・アルバム・タイム』収録
 キムのモーニング・ルーティーンを描いた場面を彩るのは、ノルウェーのエレクトロニック・プロデューサー、トッド・テリエのデビュー・アルバムからの1曲。ヨーロピアンな洒脱さのあるダンス・チューンが、キビキビと物事をこなす彼女のタフネスをクールに演出していました。



■ローラ・マーシュ「恋のひとこと」
シーズン4 ep.7 / デジタル・シングル Lola Marsh「Something Stupid (From "Better Call Saul") 」収録
 別々の未来を見はじめ、すれ違っていくキムとジミーを分割画面で表現したオープニングは、ドラマ屈指の名シーンとして挙げる人も多いはず。一緒に暮らす仲なのに、仕事上の相棒のような距離感に、逆にときめきを感じていた視聴者としては、オールディーズ名曲「恋のひとこと」の歌詞は胸に痛いほど沁みました。「僕は台無しにしてしまうのさ 何か馬鹿げたことを言って そう“愛している”のような」という歌詞は、2人の不器用な関係性を見事に象徴しています。

 歌唱しているのは、ノスタルジックな作風が特徴的なイスラエルの男女2人組ローラ・マーシュ。劇中歌の多くでジミーを彩る古き良き歌と、キムらしい現代的なサウンドを足して2で割ったような選曲も見事です。




ステレオラブ「テンプター」収録
シーズン4 ep.8 / ステレオラブ『スウィッチド・オンVol.2〜リフライド・エクトプラズム』『リトル・ピーシズ・オブ・ステレオラブ[ア・スウィッチド・オン・サンプラー]』収録
 キムが仕事をしながら、ヘッドフォンで聴いていた、英国のアヴァンポップ・バンドによる楽曲。前話でも、キムは自身が運転する車でブリーダーズ「ノー・アロハ」を聴いていました。「ノー・アロハ」は女性の怒りと自立を、「テンプター」は静かに復活の準備をする歌。どちらも別れを想起させ、2人の行く末を暗示しているようです。



ジャッキー・グリーソン「酒とバラの日々」
シーズン6 ep.1 / ジャッキー・グリーソン『バット・ビューティフル〜ジャッキー・グリーソン・ベスト』収録
 正しい行ないをしたいのに、どうしても“悪さ”をしてしまうジミーの性分。そして、有能で気丈な反面、実は屈折を抱えたキムもジミー以上に“悪さ”にのめり込んでいきます。最終シーズンの初回のタイトルは「酒とバラ」。アルコールに溺れていく夫婦を描いた名画『酒とバラの日々』からきているのは、多くの考察サイトでも指摘されているところ。映画では、破滅するのは妻の方ですが、ジミーとキムは果たして……。ヘンリー・マンシーニによる名映画主題歌“酒バラ”が彩るオープニングのシーンには、大人なら誰もが持つ悪癖との葛藤と後悔を描いた物語の魅力が凝縮されています。ドラマ本編ではジャッキー・グリーソン率いるオーケストラ版が使われていますが、トレイラーで流れるアンディ・ウィリアムスが歌うヴァージョンも切ないです。



 振り返ると、ジミーとキムを彩った音楽は後半に行くにつれ切ないものが多いですね。後編では、ジャンカルロ・エスポジートやジョナサン・バンクスらベテランが演じる濃いキャラクター達を彩った楽曲もリサーチします。
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