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MBV来日ロスを癒す 揺れるギター・ノイズの処方箋【前編】

2026/02/20掲載
マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの来日公演が終わり気抜けしています。ケヴィンのグライド奏法を感じさせる名曲が知りたいです。
 フィードバック・ノイズの壁と囁くような甘いメロディが共存する“轟音と浮遊感”の音楽、シューゲイザー。足元を見つめて演奏する姿から名付けられたこのスタイルは、今では多くのアーティストに広く浸透しています。中でもマイ・ブラッディ・ヴァレンタインラヴレス』(90)は金字塔で、ケヴィン・シールズが生み出したトレモロ・アームで音程を揺らす「グライド・ギター」は、平衡感覚を狂わせるような浮遊感でトリップ感を増幅させる奏法です。

 今回は、2月9日に幕を閉じたMBVの来日公演の余韻に浸りつつ、その揺らぎを持つシューゲイザーの名曲をご紹介します。

ライド「Dreams Burn Down」
 MBV、スローダイヴと並ぶシューゲイザー御三家のライドは、ギターロックならではのダイナミズムと幅広い音楽性が魅力です。デビュー作『ノーホエア』(90)はサイケ寄りの楽曲が多い中、「Dreams Burn Down」は最もシューゲイズらしいナンバー。マーク・ガードナーとアンディ・ベルのツインギターはトレモロ・アームで揺らぎを生み、白昼夢のような美しい音像を描きます。叶わぬ願いを歌う、後半の2人の切ないハーモニーも印象的で、ライド屈指の美しい名曲といえます。



スワーリーズ「Two Girls Kissing」
 90年代UKでシューゲイザーが盛り上がる中、アメリカではその回答ともいえる存在として1990年にボストンでスワーリーズが誕生しました。粗野で凶暴なギターノイズはUSシューゲイザーならではで、1st『Blonder Tongue Audio Baton』はグライド・ギターが炸裂しています。さらに、不協和音や実験的エレクトロニクスを取り入れた2nd『They Spent Their Wild Youthful Days In The Glittering World Of The Salons』は、彼らの個性がより明確に表れたマスターピース。収録曲「Two Girls Kissing」では、中盤に登場するヘヴィメタル的な低音リフがトレモロ・アームで大きく揺らされ、圧倒的なサウンド体験を味わうことができます。



ドロップ・ナインティーンズ「Delaware」
 2023年に再結成し、30年ぶりのアルバム『ハード・ライト』を発表したことでファンを驚かせた90年結成の米ボストンのバンド。92年のデビュー・アルバム『デラウェア』には「Winona」やマドンナのカヴァー「Angel」など、アンセムが並びますが、トレモロ・アームが効果的に使われているのが表題曲「Delaware」。切ない曲調ながら、ギターリフの揺らぎが郊外に住む若者の日常をメランコリックに演出しています。



メディシン「'Til I Die」
 エレクトロニカ作品も手掛けたブラッド・レナーを中心に91年米ロサンゼルスで結成。シークレット・サーキットが初期に在籍していたことでも知られます。当時のシューゲイザーの中でも特に耳に刺さる激しいノイズが特徴で、同時にビーチ・ボーイズの影響を感じるメロディも魅力。1stアルバムと2ndアルバムが名盤として語られる一方、3rdアルバム『Her Highness』収録の「'Til I Die」はビーチ・ボーイズ『サーフズ・アップ』収録曲のカヴァーで、トレモロ・アームの使用は断定できませんが、陰鬱な歌詞の痛みを和らげるように、ギターが優しく波打っています。



アストロブライト「Lollipop」
 2000年以降のネオ・シューゲイザー・ムーヴメントの旗頭であるスコット・コルテスのユニット、アストロブライトが2002年に発表したアルバム『ピンクシャイニーウルトラブラスト』の収録曲。ジャケットを体現した、ピンクとパープルに輝くようなギター・ノイズが揺れ続けるサウンドはまさに至福で、2025年配信のライヴ版ではさらに分厚い音像を楽しめます。なお、本アルバムは、交流の深いCOALTAR OF THE DEEPERSNARASAKIがマスタリングを担当しています。



ピンクシャイニーウルトラブラスト「Umi」
 アストロブライト『ピンクシャイニーウルトラブラスト』をバンド名で体現してしまった、ロシア発のネオ・シューゲイザー・バンド。力強いドラミングや、万華鏡のようにカラフルなエレクトロニクスが魅力ですが、初期はトレモロ・アームを駆使した王道シューゲイズ・サウンドを展開していました。2014年のデビュー・アルバム『エヴリシング・エルス・マターズ』で現在のスタイルが確立し、シングル「Umi」では高揚感あふれるドラミングとうねるギターが激しくぶつかり合うサウンドを楽しめます。



リンゴ・デススター「DEAR FUTURE」
 2009年に初来日したリンゴ・デススターは、2000年代以降のシューゲイザーを代表する存在として日本でも親しまれています。TVアニメ『輪るピングドラム』EDテーマのカヴァーは、COALTAR OF THE DEEPERSによる原曲をさらにノイジーに歪ませた幻惑的なサウンドが魅力で、作品の謎めいた世界観にもよく合っています。2011年のCOALTAR OF THE DEEPERSのシングルに収録されていますが、同年リンゴ・デススターが発表したミニ・アルバム『シャドウ』ではアレックス・ゲーリングが日本語詞でキュートに歌うヴァージョンも楽しめます。



セレーナ・マニーシュ「I Just Want To See Your Face」
 ノルウェーのシューゲイザー・バンドが4AD移籍後に発表した『NO 2: ABYSS IN B MINOR』収録曲です。グライド奏法ではありませんが、ワウペダルを駆使した揺れが曲のアグレッシブさと緊張感を一層高めています。



フリーティング・ジョイズ「Kiss a Girl In Black」
 揺らめく轟音と甘美なメロディで“マイブラの正統後継者”と称されるのが、米カリフォルニアのジョン&ロリカ夫妻によるデュオです。2006年のデビュー作『デスポンデント・トランスポンダ』は少数プレスながら“マイブラよりマイブラ”と話題を呼びました。2019年、約10年ぶりの新作『スピーディング・アウェイ・トゥ・サムデイ』の収録曲「キス・ア・ガール・イン・ブラック」ではグライド奏法が炸裂。激しく上下するピッチの揺らぎが酩酊感を生み、轟音と溶け合うロリカのウィスパー・ヴォイスが至福の世界へ誘います。昨年ロリカの訃報が伝えられましたが、彼女が遺した名曲と神聖さすら宿る歌声は、これからも色褪せることはありません。



 ■ブラッシング「Clocked In」
 米オースティン発の4人組で、ミッシェルとクリスティーナによるツイン・ヴォーカルはラッシュのエマ&ミキを思わせます。2022年の2nd『Possessions』にはミキ・ベレーニも参加し話題になりました。2024年には「Tamagotchi」を収めた3rd『シュガーコート』を発表。公式YouTubeにはブラック・フラッグのカヴァーも公開されており、労働者の憂鬱を叫んだ原曲の高速パンクを、ミドル・テンポで揺らぐギターが“日常から逃れたい気分”へと変換しているようです。



ジョージ・クラントン「Never Late Again」
 オマケとはなりますが、ギターではなくシンセが揺れています。シューゲイザーをルーツ荷物、2010年代チルウェイヴ~ヴェイパーウェイヴの代表的アーティストによる2017年作『100パーセント・エレクトロニカ』の収録曲。



 後編では、シーンが活発化しているアジアと、日本のバンドを中心にご紹介します。
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