自由なアートフォームとしてのヒップホップ精神を全開にアニソンの名曲を再構築した、かせきさいだぁのニュー・アルバム!

かせきさいだぁ   2013/08/22掲載
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 かせきさいだぁのニュー・アルバム『かせきさいだぁのアニソング!!バケイション!』が素晴らしい! いち音楽ジャンルとしてのヒップホップではなく、自由なアートフォームであるヒップホップの精神を全開に、アニソンの名曲をフレッシュに再構築した今作は “アニソンカバー集”の域を遥かに超えた革新的な作品に仕上がっている。そして何よりも素晴らしいのは、このアルバムが純然たるポップ・ソング集としての輝きを放っていることだ。アニソン・ファンのみならず、多くの音楽ファンに聴かれるべき快心の一枚を作り上げた、かせきさいだぁに話を訊いた。
――最初にアニソンをカヴァーしようと思ったきっかけを教えてください。
 「最初は劇場版マクロス(『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』)のエンディング・テーマだった飯島真理さんの〈天使の絵の具〉をカヴァーしたかったんです。でも、こういう言い方をしちゃうと飯島さんに失礼かもしれないですけど、〈天使の絵の具〉って、アニソンとしてはそんなに認知されていない、ちょっとマニアックな楽曲なのかなと思って。それで最初はアニソンとして有名な曲をやった方がいいなと思って、〈ときめきトゥナイト〉をカヴァーすることにしたんです」
――曲を持っていった時、ハグトーンズのメンバーはどんな反応を?
 「爆笑してました(笑)。僕がどういう意図でこの曲を持ってきたか伝わっていなかったんで。それで、冒頭のところはちょっと中華風のサウンドを取り入れて、木琴の音でやってほしいとかアレンジのアイディア伝えたら、みんな“へー”ってなって。『SOUND BURGER PLANET』を作ってた頃は、ティン・パン・アレー周辺のサウンドとか、シュガー・ベイブを聴かせて、こういうサウンドをやりたいと、みんなに伝えていたので、〈ときめきトゥナイト〉のアレンジも自然とそっちの方向に向かっていった感じです」
――シュガー・ベイブのフォーマットでアニソンをカヴァーするのって、すごい発明だなと思いました。
 「僕もそう思いました(笑)。これはちょっとした発明だなって。最初ライヴで〈ときめきトゥナイト〉を演奏した時は、お客さんにすげー笑われたんですけど、自分の中で、このコンセプトはきっと分かってもらえるという自信があったんですよ。そしたら、ある時期から、“次の曲は〈ときめきトゥナイト〉です”って言ったら、お客さんが、うわーって喜ぶようになって。コンセプトがちゃんと伝わっているかは分からないけど、ちゃんと身体で理解してくれてるんだろうなって」
――純粋に良い曲として。
 「そうですね。その反応を見て、これはいけるんじゃないかって。で、『ミスターシティポップ』のときに、〈恋の呪文はスキトキメキトキス〉をカヴァーしたんですけど、毎回、シュガー・ベイブでいくわけにもいかないし、メンバーとツアーの車中でどうしようかってアレンジを考えてたとき、僕のiPodからドゥービーブラザーズの〈What a Fool Believes〉が流れて、“これ、もしかしたら合うんじゃないか?”って、その後、練習のときに合わせてみたら、ばっちりハマって。そこで、アニソンをいろんな風に料理できるぞと思ったんです」
――アニソンのカヴァー集を出したいというのは、前作のインタビュー時に、すでにお話しされてましたよね。
 「最初は丸々1枚じゃなくて、アニソン半分、ユーミン半分とか、そんな感じでカヴァー集を作れたらいいよね、なんてメンバーと話してたんですけど、それをディレクターさんに話したら、どうせだったら全部アニソンの方が面白いんじゃないですかということになって。それでメンバーと一緒に選曲を進めていって、これはいけるんじゃないかという感じでスタートしました」
――今回もアレンジのアイディアはいつもと同じく、かせきさんのiPodに入ってるアルバム用のネタ楽曲から拾っていった感じですか?
 「今回はそんなでもなかったですね。AORとかシティポップみたいな特別なテーマがあったわけじゃなくて、なんていうか、いろんな楽曲の要素をマッシュアップしていくような感じというか。マッシュアップ的な感覚で作っていくと、ちょっと無理が出てくるところがあって、そこを押し切ると、すごく変で気持ちいいんですよ。どう考えても重ならないだろうみたいなところを無理矢理重ねるっていう」
――ちょっとモーフィングぽい感じで。
 「気持ち悪いんだけど、その気持ち悪さが気持ちいいというか。ヒップホップのトラックをサンプリングで作るときって、結構そういうことがあるんです。こことここが相性悪いけど、俺たち演奏もできないしゴリ押しでいくしかないだろうって。そうやって押し切ると、その部分が妙に気持ち良くなったりして。でも、ハグトーンズのメンバーって、基本みんなバンド畑の人なので、あまりそういう感覚がなかったみたいで」
――その感覚をかせきさんがバンドに持ち込んだわけですね。
 「アレンジを組み立ててるとき、“ここがうまく繋がらないんですよ”って言うから、ちょっとやってみてって演奏してもらって、それに乗せて僕が歌うと、みんな“なんで今、歌えたんですか?”って。そういうことが何回かありましたね。僕はラップの人だから、そのへん自然にやれちゃうんですよね」
――多少、無理めな箇所も、かせきさんが歌えば。
 「丸く収まっちゃうというね。ヒップホップの無理やり押し切る気持ち良さみたいなものを今回は結構大事にしましたね。そんなに正確にコードを追っていかなくていいから、みたいな。変なのが気持ちいいんだよ、つって」
――たとえば「恋のB級アクション」でいえば、スタイル・カウンシルの「My Ever Changing Moods」を思わせるアレンジで、途中に鈴木 茂の「砂の女」のギターリフがサンプリングっぽく入ってきて、しかも、そこで歌われてるのがアニソンっていう。さまざまな音楽的要素がジャンルや時代軸を超えて並列に組み込まれていて、これって完全にヒップホップの発想ですよね。
 「それを分かっていただけて、ありがたいです。ほとんどの人は、“なんでラップしてたヤツが、アニソンのカヴァーを歌ってるんだ!?”ってなると思うんですけど。自分の中では完全にヒップホップの感覚で作ってるんですよね」
――アレンジに関して苦戦した曲はありますか。
 「〈残酷な天使のテーゼ〉です。どうしても上手くできなくて実は1回選曲から外したんですよ。“♪少年よ神話になれ”っていう歌詞の“神話になれ”の部分が、どうアレンジしても恥ずかしくて(笑)。あのキメっぽい感じが」
――B'zの“♪ウルトラソウル!”的な(笑)。
 「そうそう(笑)。最初はそこを薄めるようなアレンジをしちゃってたんですよね。でも、こうなったら“神話になれ”の部分を活かすくらいバカバカしいアレンジにしたほうがいいんじゃないかという話になって。それで、そこまでバカバカしいのって何だろうと思ったら、ディスコとかファンクとかを演奏してる黒人のバンドが思い浮かんで。あの人たちって、すごいバカバカしいことを、全身ラメの衣装とか着てノリノリでやってるじゃないですか。あの感じがすごくいいよねって、ディスコぽいアレンジで演奏したら、うまくいったんですよ。全員ラメの衣装着たつもりで演奏して(笑)」
――オープニングのトークボックスもZAPPぽくてカッコよかったです。
 「最初に僕が“♪残酷な”って歌いだすのもおかしいだろうという話しになって、そこはトークボックスを使ってやろうという話になって。音もディスコっぽいからハマるんじゃないかということで」
――「ルージュの伝言」のアレンジも、ある意味、原曲が大ネタだから難しかったんじゃないですか。
 「この曲も、どうやってアレンジしたらいいのか悩みましたね。原曲はティン・パン・アレーが演奏してて、ティン・パン以上のアレンジなんかできないよっつって。それで原曲を何度も繰り返し聴いてくうちに、モータウンっぽい感じだったらいけるんじゃないかという話になって。それで、モータウンっぽいイメージでアレンジを始めたら、スティーヴィー・ワンダーっぽくなっていって。そういえば、スティーヴィー・ワンダーにクラッシュがマッシュアップされている曲がYoutubeで観れるぞってことで観てみたら、クラッシュの〈ROCK THE CASBAH〉が使われてて。それで〈ROCK THE CASBAH〉のコーラスを入れたんです。さすがにそのまま入れるわけにいかないんで、〈パッシュパッパ〉って変えて入れたんですけど」
――柴田聡子さんのコーラスもいいですね。
 「柴田さんとは前から一緒にやりたかったんですよ。Youtubeでライヴを観たんだけど、すごくハジけて歌っていて。それで、この曲だったら柴田さんに合うんじゃないかと思ったんです」
――声ネタでいえば、「星間飛行」の途中で入ってくる、夢眠ねむさん(でんぱ組.inc)の“キラッ!”って声もハマってますね。
 「僕とカジ(ヒデキ)くんが“キラッ!”って言っても、僕は喜ぶけど、普通の人は“なんで、おっさんが言ってんだ”ってなると思って、それで、ねむきゅんにお願いしたんです。しかも、でんぱ組のレコーディングにお邪魔して、プロデューサーぶって偉そうに(笑)。ねむちゃんの“キラッ!”はレコーディングのとき、聴いてて照れましたよね(笑)」
――個人的には「UNLUCKY GIRL!!」がめちゃくちゃイイ曲だなと思いました。まったく原曲を知らなかったんですけど。
 「ああ、これね、いい曲なんです。『戦国コレクション』という最近のアニメの曲で。スカパーでやってて、またやってんなと思いつつ、いつもエンディングになるとこの曲が流れるんですよ。ずっと気になってたし、今回カヴァーしようって。で、最初は、全部、僕が歌ってたんですけど、誰かにコーラスを頼みたいということになって、小島麻由美さんを呼んだんですけど、あまりにも良すぎて、せっかくだったらということで2番を丸々歌ってもらうことになったんです」
――非常に細かいところですが、アルバムの最後が細野晴臣さんのアルバム『はらいそ』のエンディングのオマージュになってますよね。タッタッタって走り寄ってくる足音に続けて、夢眠さんの“この次はモアベター、モアベター”って台詞が入って終わるっていう。
 「あれは途中から絶対に入れたほうがいいなということになって。“モアベター、モアベター”って繰り返すのは、『エヴァンゲリオン』の次回予告の“サービス、サービス”を意識してるんですよ」
――そこもマッシュアップで(笑)。
 「わかりづらいんですけどね(笑)。細野さんとエヴァをくっ付けてみたくて」
――そもそもタイトルからして大瀧詠一さんのアルバム『A Long Vacation』とのマッシュアップですもんね。
 「タイトルもそうです。最初どういうタイトルにしようかなと思ったんですけど、すぐに思いついて。マッシュアップっていうか、ダジャレみたいなタイトルなんですけど」
――アニソン・カヴァーというスタイルでアルバムを1枚作ってみていかがですか。
 「だいぶ満足したところもあるし、思ったとおりにいかなかったところもあるし。でも、それは今後の課題だなという感じですね」
――偶然かもしれないですけど、今回収録されてる曲って、圧倒的に女性ヴォーカルものが多いですね。
 「男性ヴォーカルの曲って、アニメの主題歌として、すごい主題歌っぽいやつが多いんですよね。そのまま“♪マクロス”って歌ってたり。前提としてポップスっぽくカヴァーしたいというのがあるので、さすがにそういう曲を歌うのは違うかなと思って。そうなってくると女性ヴォーカルものの曲の方がポップスっぽい作りになってるんですよね。なんでか知らないんですけど。たとえば今回収録された曲でいえば〈10%の雨予報〉のH2Oは男性デュオですけど、どこか中性的な雰囲気があるし」
――そういう意味で、今回のアルバムって、いわゆる水木一郎的な要素が皆無ですよね(笑)。
 「完全に対極にあるでしょうね(笑)。『マジンガーZ』とか、第2弾がそういう曲ばっかりだったら、ゾッとするでしょ。でも、このシリーズが売れに売れて、第5弾くらいになったらあるかもしれないですけど(笑)」
――段々手が尽きてきて(笑)。
 「Vol.5を作ってる頃には、かなりジジイですよ(笑)。その頃には、もう何のこだわりもなく、“次はマジンガーZの曲やるよ!”っつって、クロムハーツとか付けて革ジャン着てやりますよ(笑)。若作りして、髪も盛った茶髪で。そのためにも、まずは第2弾が作れるぐらい、このアルバムが売れてくれるといいんですけど(笑)」
取材・文 / 望月 哲(2013年7月)
写真 / 川島小鳥
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