西恵利香、2018年へ “いつでもそこで歌ってる人でありたい”

西恵利香   2018/01/12掲載
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 2011年にアイドル・グループAeLL.(エール)のリーダーとしてデビュー、2015年にソロになって以来、ミニ・アルバム4枚とリミックス・アルバム1枚をリリースしてきた西恵利香。確かな歌唱力で着実な活動を続けてきた彼女にとって、昨年12月は大切な出来事が相次いだ。ひとつはCICADAAFRO PARKERが所属するレーベルpara de casaに移籍し、13日に初めてのフル・アルバム『soirée』をリリースしたこと。もうひとつは18日に初めてのワンマン・ライヴ〈NISHI ERIKA 1st Oneman SHOW〉(東京・渋谷WWW)を成功裡に終えたことだ。二つの大イベントを乗り切り、29歳の誕生日(1月11日)を経て2018年を走り始めるタイミングで、話を聞くことができた。
――『soirée』はこれまでの作品とどう違いますか?
 「これまではほとんど音楽を知らずにやってたんです。移籍する少し前ぐらいからすっごく勉強を始めて――遅いんですけど――ちょうど、わたしは何を歌いたいのか、みたいな自分の意志が生まれてきたときだったので、やりたいことをやるために移籍したんですよね。なので今回のアルバムは本当にやりたいことをつぎ込みました。頼んだ作家さんから曲調から、ジャケットのデザインや衣装に至るまで。今わたしがやりたいことを体現できたアルバムかなと思ってます」
――G.RINADE DE MOUSE、ひろせひろせ(フレンズ)、BAOBAB MC、the oto factory、CICADA、AFRO PARKER……知らない人が選んだ作家陣とは思えません(笑)。
 「いえいえ、とんでもないです。本当にいまも勉強中なので。ライヴに足を運ぶようになって知った方もいるし、共演させていただいた方、前からわたしがファンだった方……ありがたいことに全員“ぜひぜひ”って引き受けてくださいました。G.RINAさんは自主企画のイベントにDJとしてお呼びしたのがきっかけでした。本当に素敵な女性で、こんな大人になりたいな、って思える方です。DE DE MOUSEさんは私自身もともとファンみたいなもので、CICADAはレーベル移籍のきっかけと言ってもいいぐらい昔からずっと好きだったバンド。オトファクも好きでよく聴いていて、移籍第1弾でシングルを出そうって話になったときに出してくれたのが〈LAST SUMMER DRESS〉で、これは絶対に歌いたいって思いました。ひろせくんは、わたしがフレンズのファンで、ツイッターでつぶやいたらフォローしてくれて、そしたらわたしの音源を聴いててくれたらしくて“ぜひやらせてほしい”って連絡をいただいたのが、ちょうどアルバムを作るタイミングだったんです。出会い方はいろいろなんですけど、今回は“かわいい”よりも“大人”なところも見せたいと思っていたので、アダルトなアルバムになったかなと思います」
――タイトルの『soirée』もアダルトですね。
 「曲が出揃ってから決めました。各作家さんに“こういう感じの曲で”ってオーダーはしてるんですけど、並べて聴いてみると、ちょっと夜っぽい大人な感じで、ほろ苦いところがあったので、それに相応しいタイトルを調べたときに、夜会とか夜のパーティという意味があるこの言葉に出会いました」
――発注の段階から西さん自身のイメージがあったんですね。
 「そうです。わたしは本当に言葉が拙いので、この曲のこういうところが好きなんだけどどう言えばいいかな、ってマツナガさん(レーベル主宰A&R)に相談して“だったらこの人にこう伝えたらいいんじゃない?”って助言をもらうみたいな。本当にいろんな作家さんにお願いしたので、ジャンル的にはバラバラなんですけど、通して聴いてみると意外にそこまでかけ離れてはいないものが出来上がったかなと」
――たしかにジャンルは違うけど、ムード的に統一感がありますね。
 「わたしが歌えば、っていうところなのかもしれませんけど。今回はいろんな作家さんに染めてもらったなっていう感じが強いです。ひろせくんやRINAさんはレコーディングにも立ち会ってくださって、その場で指導していただきました。RINAさんの〈街へいこう〉はめちゃくちゃ苦労したんですよ。“今までとは違う西恵利香を出したい”って言ってくれて、歌い方からマイクとの距離まで。マイクに口がつくぐらいの位置で歌ってたら“もっと離れてフェイクしたほうがいいよ”とか」
――そういうエピソードってほかにもありますか?
 「ひろせくんが作ってくれた〈誰よりも素敵な〉は、わたしが作詞をしてるんですけど、男の子の歌なんですね。最初歌ったときに“ちょっと女の子っぽい”って言われて。“そんなかわいい感じいらないから、もっと自然に”って。彼に限らず、音源はシンプルでいい、ライヴは好きにやっていいけど、ってすっごく言われたんです。“あんまり変なクセつけなくていいから、ストレートに歌って”って。すごく勉強になりました」
――2曲で作詞も担当されていますよね。
 「初めてではないんですけど、〈誰よりも素敵な〉は本当に大変でした。最初、メロがキャッチーなので歌詞もキャッチーにしようと思ったときに、べつに歌詞が残らなくてもいいなと思ったんですよ。それで、ただきれいごとを並べたみたいな歌詞を書いたら、ひろせくんに“もっとちゃんと歌詞に意味を持たせなきゃいけないし、そんなに物事きれいにいかないでしょ?”みたいに言われて、そりゃそうだ、きれいなことばっかりじゃ刺さらないよな、と思って、何度もやりとりしながら苦い部分も足していきました。対照的に〈Lonely Night〉は好き勝手に書いた感じですね。DE DEさんは歌詞に関して特に指示がなく終えたので、この歌詞でよかったのかいまだに不安ですけど(笑)、〈誰よりも素敵な〉を書いた後なので、その経験が生きたかなとは思ってます」
――“シネマライズだったあの場所が ライブハウスになっていたりさ 変わらないものなんてないかもね”(〈誰よりも素敵な〉)っていうくだりがいいですね。
 「憧れのステージだったWWWでワンマンをやることになったときに、思い出に残るようなことじゃないですけど、何かやりたいなと思って。そういうのって聴き手側からするとけっこうグッときません?」
――“あ、このフレーズはあのときの”って。
 「そういうのがみんなの中にも残るといいなと思って。あそこで“シネマライズだったあの場所が ライブハウスになっていたりさ”って絶対に歌いたかったんです。ワーッて会場が沸いたときは、してやったりって感じでしたね(笑)」
NISHI ERIKA 1st Oneman SHOW / Photo by tsugumi
――産みの苦しみも味わったアルバムだったんですね。
 「苦労したぶん完成したときの喜びも大きくて、こういうことなんだな、ものを作るっていうのは……って思いました。今までは作家さんが作ってくれたものにわたしが歌を乗せて完成だったので、あんまり一緒にやってる感覚がなかったけど、作家さんに頼むところから一制作者として携われたということに感動したというか。だから我が子の巣立ちじゃないですけど、みんなに聴かせたいけど、聴かせるのがもったいないくらいいいのができちゃった、みたいな(笑)。それくらいの気持ちがありますね」
――曲のイメージを作家さんに伝えて、それが形になっていって、アルバムタイトルをつけ、ジャケットのデザインにも関わっていく。その作業を通して、はっきりしていなかったイメージがだんだんと自分でもわかっていくような体験でもあったのでは?
 「ほんとにそうでした。移籍してきたときに“とりあえず好きなことをやってみよう”って言ってもらえたので、ジャケに関しても衣装に関しても、相談はしますけど、すべて自分の発案を採用してもらえたので。ジャケは真夜中に豊洲で撮影しました。パーティに行く前のワクワク感なのか、終わった後の寂しさなのか、どっちでもいいんですけど、そういうイメージを抱いてもらえたらいいなって」
NISHI ERIKA 1st Oneman SHOW / Photo by tsugumi
――なるほど。アルバムあるいはライヴがパーティ本編みたいな?
 「ダンス・アルバムなので。わたし、ライヴハウスに行ってお客さんが踊ってるのを見るのがすごく好きで、なんていい光景だろうって思うんです。だから自分のライヴもそんなふうに体を揺らして好きに楽しんでもらえる場にしたいと思って、このアルバムを作ったんですよ。この曲たちで踊ってもらいたいな、っていう思いを込めたジャケですね。最後〈sugar me〉で終わるのが自分では気に入ってます。あー終わっちゃった、10曲ってなんて短いんだろ、もう一回頭から聴こうかな、って思ってもらいたい」
――余韻が残りますよね。その素敵なアルバムをひっさげて、ついに実現した初めてのワンマン・ライヴには感慨深いものがあったでしょう。
 「終わったとき“まだ全然できる!”と思ったんですよ。すごくいいライヴにできたなとは思うんですけど、終わった途端に反省点がバーッと出てきて、満足は全然してないです。わたしはまだこんなもんじゃない、もっと行ける、と自分で思えました。バンドで歌った経験もないわけじゃないけど、主にトラックで歌ってきたし、フロントでバンドを背負うのは今までとは勝手が違うので、どうしたらいいかすごく悩んで、ライヴをやるのが怖くなったんです。それでステージングの先生についてもらおうと」
――竹森徳芳さんですね。
 「そうです! 竹森さんがいなければわたしはあの日ステージに立てなかった。わずか2週間でしたけど、すべてが変わったと思います」
――竹森さんのステージングについて、ちょっとだけ教えてください。
 「まず曲の解釈から始まるんですよ。この曲はこういう曲だと。次に、それをどう表現していくかという段階に進むんですけど、スタンド・マイクを使うと両手が空くじゃないですか。片手をマイクに乗せて片手で表現するんだったらハンド・マイクでもいい、両手が使えるのが利点なんだから両手で表現するんだよ、と。わたしが鏡に向かってやってるのを見ながら具体的にアドバイスしてくれるんですけど、あくまでわたしがやることを受けて、もっとこうしたほうがいいよ、って導いてくれるんです。わたしは昔アイドルをやってたのにダンスが苦手で、リズム感がないとかリズムの取り方がダサいってすごく言われてきたんですけど、竹森さんはそういう言い方は絶対にしないんですよね。できないならできないなりの見せ方を考えてくれる。だからステージが全然怖くなかったし、なんだか余裕があって、終わった後も“わたし、ちゃんとやれたのかな?”みたいな。でも、いろんな方が“すごくよかった”って言ってくださったのは、冷静にやれてたからだと思います。今までみたいに無我夢中じゃなくて、ちゃんと意識的に表現できてた。だから今回は初めて、終わっても泣かなかったんですよ。唯一、竹森さんの顔を見たときだけ泣きそうになりました。人柄も含め、すべてにおいて彼がいなければやり遂げられなかったと思います」
――すごい。いつか彼にもじっくりお話を聞いてみたいです。
 「竹森さんにお願いしたのは、Shiggy Jr.のステージングがすごく変わったってツイートをいっぱい見たからなんです。ワンマンにしてもアルバムにしても、変わりたいっていう気持ちがすごく大きくて。次のステップに行きたいというか。続けることって難しいじゃないですか。まわりを見てても解散や引退が多いけど、わたしは安心してもらえる存在になりたいんです。やめたい気持ちなんて全然ないし、この先も歌っていきたい。そのためには変わっていかなきゃいけない、先を見せたいと思ってのアルバムとワンマンでした」
NISHI ERIKA 1st Oneman SHOW / Photo by tsugumi
――昨年1月の生誕イベントで「わたしは絶対に歌をやめない」と宣言したそうですね。
 「やめるのはひとつの選択だからもちろん否定はしませんけど、ファンを悲しませてるのは事実ですよね。わたしもグループの活動休止を経験して、ファンの方たちが泣く姿を目の前で見てるので、そういう思いをさせたくない、わたしに関しては安心してほしい、と伝えたくて。やっぱり言われるんですよ。大事なお知らせがあるとか言うと“引退ですか?”とか。でも、そういうことをわたしはしないということを知ってほしい。いつか見れなくなる人じゃなくて、いつでもそこで歌ってる人でありたいし、いつ行ってもかっこいいね、って言ってもらえる人になりたい。そう思ってあの発言をしたんだと思います」
――覚悟があっての発言だったんですね。
 「やりたいことをやらせてもらえてる環境をありがたく思いながらも、まわりを引っ張れるくらいにならないといけないなぁと。例えばいま一緒にやってるバンドにしても、わたしはミュージシャンってすごいなぁって思ってるから、特に何も言うことがないんですけど、彼ら的にはもっと言ってほしいらしいんですよ。だから今年はもっとバンドにも口を出せるようになりたいですね」
――そこは遠慮しないで言っていいと思います。言われないと彼らもどうしたらいいかわからないですからね。
 「そう言われるんですけど、なかなか言えないので、そこが今年の目標ですね。バンドも“西さんがかっこよくなきゃ意味がないんだからもっと言って”って言ってくれる人たちなので、じゃあ伝えていこうかなって。いままたやりたいことが次々と見えてきてるので、2018年はもっともっと尖りたいなって」
――かっこいい。具体的にはどんなことを?
 「いま本当にいろんな音楽をたくさん聴いてるんですよ。最近ハウスにはまってて、メロディはR&Bなんだけど、ちょっとチルっぽい感じをやりたくて。いろいろ計画してます。なるべく歩みを止めずに行きたいですね」
――もともと西さんは歌手になりたかったんですよね。
 「なりたかった、ずっと。ピアノも幼稚園からずっと習ってましたし。小さいころに歌を歌ってみたとき“うまいね”とか“いい声だね”とか言われたんですよ。合唱団の代表に選ばれたりして、そうか、わたしって歌うまいのかな、って。歌もピアノも好きだったので、小学校4年生くらいのとき七夕の短冊に“シンガー・ソングライターになりたい”って書いたのをよく覚えてます。でも、いざ芸能の仕事を始めてもなかなか歌にたどり着けなくて、スチルとか映像の仕事ばっかりで、今の事務所に入ってアイドル・グループの話をもらって、22歳のときにアイドルになって。もうほんとに最後のチャンスだと思って、そこからつながって、いまこんなふうになっているので、歌ってる期間より“歌をやりたい”って思ってた期間のほうが長いんですよ(笑)」
――アイドルを経て念願のソロ歌手デビューを果たし、さらにアーティストへと変化していく西恵利香から目が離せませんね。
 「20代最後の年だから、勝負だなって思いつつも、好きなことをやっていきたいですね。もちろん歳はとりたくないけど、実は30歳を過ぎてからがけっこう楽しみなんですよ。20代だとやっぱり周囲の目も“若い女の子”って感じだけど、より大人になって渋さが加われば、女性としてランクが上がっていくような気がして。“かわいい”“きれい”より“渋い”“かっこいい”って見られ方をしたいですね。もうちょっとかかるかもしれませんけど」
取材・文 / 高岡洋詞(2017年12月)
ERK -電影港湾地区-
www.nishierika.com/
2018年1月20日(土)
福岡 Factory Unvelashu
開演 19:30 / 終演 24:00
2,500円(+ 1D)

出演
西恵利香(groovy trio) / 彼女のエース / DJありがとう / moneYNomura


西恵利香 presents
Talk&Acoustic show“Livin'you”room2.

www.nishierika.com/
2018年2月12日(月・祝)
東京 代官山 晴れたら空に豆まいて
開場 12:00 / 開演 12:30
前売 3,800円 / 当日 4,300円(+ 1D / ランチプレート付き)

チケット取り扱い
ライヴ会場手売り / メール予約: erikashining@gmail.com

※入場は手売り→メール予約の順となります。

出演
西恵利香(acoustic set)
一戸祐介(g) / 井上惇志-showmore-(pf) / AMI-Chelsy-(perc)


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