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男子修道院のドキュメンタリー映画『大いなる沈黙へ』 フィリップ・グレーニング監督が語る“音”

2014/07/09 15:09掲載
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男子修道院のドキュメンタリー映画『大いなる沈黙へ』 フィリップ・グレーニング監督が語る“音”
 今週末7月12日(土)より「岩波ホール」ほか全国での順次公開が決定しているドキュメンタリー映画、『大いなる沈黙へ −グランド・シャルトルーズ修道院』。本作は、その映像に音楽やナレーション、効果音を一切付けず、修道院内部と修道院を取り囲むフランス・アルプスの“自然音だけ”で構成。音の存在感の強さが話題を呼んでいます。

 公開に先駆け到着した本作の監督、フィリップ・グレーニング(写真)のコメントでは“音”の在り方について、「話される言葉が無い世界では、鳴り響く全ての“音”が激しく聞こえます。私たちは言葉の無い世界を“静寂”と表現しますが、この世に完全なる“静寂”は存在しません。現代を生きる私たちが言う“静寂”とは、いわゆる電子音から解放された“アコースティックな場”の事であり、その世界で鳴り響く“音”とその意味合いは“音”としてより本質的で正確なものであると言っても良いでしょう。その空間で鳴り響く全ての“音”には意味があるのです」とコメント。

 また、本作について、「この映画で視聴者は、いつの間にか“音”に対する集中力が増していきます。そして、一つ一つの音に意味があることに気が付き、その“音”の美しさを意識の深い部分で認知することができるのです。そして初めて、修道院の内部を体験していることに気が付くのです」と、語っています。

 映画『大いなる沈黙へ』は、構想から21年の歳月を費やして製作され、長らく日本公開が待たれていた異色のドキュメンタリー作品。舞台はフランス・アルプス山脈に建つ、カトリック教会の中でも厳しい戒律で知られるカルトジオ会の男子修道院として知られる、グランド・シャルトルーズ修道院。――修道士たちは毎日を祈りに捧げ、一生を清貧のうちに生きるという――。

 申し込みから16年後のある日、突然撮影の許可を得たドイツ人監督フィリップ・グレーニングは、修道会との約束に従い、ただ一人カメラを携えて6ヵ月間を修道士と共に暮らし、礼拝の聖歌のほかに音楽をつけず、ナレーションもつけず、照明も使わず、あるがままを自然光だけで撮影し、これまで誰も体験したことない映画を作り上げています。


『大いなる沈黙へ −グランド・シャルトルーズ修道院』
フィリップ・グレーニング監督 Interview


――映画にとっての音楽は、映像をより演出するものと認識していましたが、この映画では、そういった音楽はありません。しかし、修道士たちの生活音、その場の空気(の音)が、BGM以上に、映像を際立たせていると感じました。そういった観点から、どういった集音方法(マイキング)で収録をしたのか教えて下さい。

「私は集音に6トラック・レコーダーとHD CAMカメラの内臓の4トラックで音を収録しました。収録する対象となる音が中心に来る様に四隅にラジオ・マイクを立て、さらにステレオ・マイクとより深い周波数の音を拾うために境界層マイク(バウンダリーマイクロホン)のGrenzflachenmikroの2本を導入しました。この収録方法によって私は修道院に“咲き乱れる音”を立体的に収録することが出来ました。そして、その音は全て修道士たちの肉体とその動作によって生まれる音でした。ようするに、修道院内部には意味を持たない音が存在しなかったのです。多数の異なるマイクを駆使したことで、私はレイヤーを持った“ハイパー・リアリスティック”な音を収録することに成功しました。“音こそを空間とした”と言っても過言ではないのかもしれない」

――また、その音をどの位のボリューム、映像と合わせた際の長さで聴かせるのか、そういった音楽ではない音の編集について教えて下さい。

「音の編集には本当に多くの注意を払いました。特にミキシングでは、無意識に聞き取った微量の音への気がつきを大切に編集しました。視聴者の意識の中に無意識に感じられる音やそれらを考えさせる余白を創るような編集だったと言っても良いでしょう」

――ミサではどのような聖歌が歌われていたのでしょうか? 譜面は古典から伝わるものと思いますがどのような物なのでしょうか?

「ミサで歌われる聖歌の文章は主に旧約聖書からとられています。この文章はとても古いものです。映画の中で映っていた譜面は旧約聖書からとられた文章です。ミサで歌われていた聖歌の中でも最も私が感動をしたのは、ヴィクティマエ・パスカリ・ラウデス (〈復活のいけにえに〉)です。中世に多く書かれたセクエンツィアの一つで、復活祭のミサのためのものです。ブルゴーニュ出身で神聖ローマ皇帝コンラート2世のシャプラン(宮廷付き聖歌隊長)であったヴィポ (活動: 1020頃〜1040頃)の作とされています。この聖歌は神が創造した全ての世界に深い感謝の念が歌われています。私にとってこの聖歌は全ての美しき自然とその自然の源をたたえる歌でした」

――また、唯一の音楽と言える、その祈りのメロディは、映画にどんな効果をもたらしたと思いますか?

「注意深く聞いているとそこには多数のメロディが存在します。そのメロディは視聴者の意識の奥深くで鳴り響きます。そのメロディに深く心を集中させることで、視聴者は観想や深い瞑想を経験することができます。映画では、その繰り返されるメロディがそれら経験と作品への理解を深化させます」

大いなる沈黙へ


『大いなる沈黙へ −グランド・シャルトルーズ修道院』
2014年7月12日(土)より岩波ホールほか全国順次公開
配給: ミモザフィルムズ
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