e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活 - [こちらハイレゾ商會] 第33回 顔が似ているフルトヴェングラー(モノラル)とフリッチャイ(ステレオ)のハイレゾ
掲載日:2016年06月15日
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第33回 顔が似ているフルトヴェングラー(モノラル)とフリッチャイ(ステレオ)のハイレゾ
絵と文 / 牧野良幸
 つくづくハイレゾも一般的になったものだと思う。クラシックの名録音、いわゆるヒストリカル・レコーディングのハイレゾも珍しくなくなった。ということで今回はヒストリカル・レコーディングのハイレゾの中から2人の指揮者フルトヴェングラーフリッチャイについて書いてみたい。
 まず誰もが知っている、大指揮者フルトヴェングラーである。
 CDやSACDなど、新しいメディアの普及にはいつも一役買っていたフルトヴェングラーであるが、ハイレゾでもやはりフルトヴェングラーのタイトルが出ると“おおっ”と思ってしまう。
 最近もドイツ・グラモフォン録音が5点ハイレゾで配信された。そのなかでも、とりわけオリジナルの音質がいいと言われるのがシューマンの交響曲第4番とシューベルトの交響曲第9番「ザ・グレイト」だろう。当然モノラルではあるけれど、巨匠の残した戦後のEMIの録音と比べても勝っていると思う。いわばフルトヴェングラーの全録音の中で“松”の音質なのだ。
 この2曲、どちらも素晴らしが、個人的にはシューベルトの交響曲第9番「ザ・グレイト」のほうがよりオーディオ的な喜びが大きい。ハイレゾで聴くと、第1楽章の冒頭、ホルンの導入部からいきなり柔らかな音場にビックリ。「これはステレオ録音ではないか……」と疑いたくなるほど自然な広がりだ。もちろんオーケストラ全員でトゥッティを鳴らせば、ダイナミックレンジが飽和してモノラルの音場があからさまになるが、弱音の部分での音場はステレオ録音なみのクオリティと言ってもいいかもしれない。
 もうひとつのシューマンの交響曲第4番のハイレゾも聴いてみよう。これはCDでも聴いてきた名演である。ハイレゾはオリジナルの録音が良好なせいか、CDと比べてそれほど極端に音質が変わった感触は持たないのであるが、やっぱりハイレゾは微細な音の解像度が増した気がする。トランペットの輝きも艶っぽい。こういった小レベルの音質改善はちょっとしたことかもしれないが、それが積み重なるわけだから、結局オーディオ好き、フルヴェン好きにはたまらないハイレゾと言える。
 それにしてもフルトヴェングラーとベルリン・フィルのすさまじい演奏はライヴのような熱気で圧倒される。僕も初めて聴いた時から、この演奏の虜になったくちだから、今後はこのハイレゾを一生の宝物のように聴いていくことになるだろう。このシューマンの交響曲第4番が録音されたのが1953年だ。巨匠は翌1954年にこの世を去る。


ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
『シューマン: 交響曲第4番, 「マンフレッド」序曲』


(1953年録音)



ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
『シューベルト: 交響曲第9番「ザ・グレイト」, ハイドン: 交響曲第88番「V字」』


(1951年録音)

 フルトヴェングラーの死の3年後、1957年から1958年にかけて、ハンガリーの指揮者フェレンツ・フリッチャイが同じベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を振って、ドイツ・グラモフォンにベートーヴェンの交響曲第9番を録音した。
 これがステレオ録音なのである。フルトヴェングラーの死からたった3年の間にステレオ録音が普及したのだから、“巨匠がもう少し長生きしてくれていたら”と思わずにはいられない。
 というのも、このフリッチャイの“第九”もハイレゾ化されていて、ステレオ感たっぷりに広がる音場、豊かでコクのある音を聴くにつけ、“これがフルトヴェングラーの振っていたベルリン・フィルの音かも”という、嬉しいような惜しいような、複雑な思いにとらわれるからだ。
 しかし誤解しないでもらいたい。フルトヴェングラーは抜きにして、僕はこのフリッチャイの“第九”が大好きなのだ。じつを言うと僕が生まれて始めて聴いた“第九”はこのフリッチャイのLPなのである。高校生の時に買った廉価盤で、むさぼるように何度も何度も聴いた。以後今日まで、いろいろな“第九”を聴いているが、やっぱりフリッチャイの“第九”がいちばん落ち着く。正直に言えば、フルトヴェングラーの有名な“バイロイトの第九”よりも好きなのである。
 その高校生の時に買ったフリッチャイのLPは手許において、ずっと聴き続けてきたけれど、ハイレゾの音は先に書いたようにとても素晴らしく、LPより格段にクリアだ。そして格段に豊かな音になっている。ハイレゾで“ステレオ録音の素晴らしさ”をより堪能している。
 なかでもハッとするのは第4楽章だ。「歓喜の歌」の冒頭をディートリヒ・フィッシャー=ディースカウが歌い始めるところ。一瞬の静寂から浮かび上がるディースカウの声の柔らかく清らかなこと。これは(オーディオ的には)美しい響きだと思った。さらに曲が進み、合唱が奥の方から聴こえる空気感にもビックリ。LPではこんな感触は持たなかったけどなあと感心するばかり。ハイレゾだとヒストリカル・レコーディングも新たな発見があって嬉しい。
 フリッチャイは1963年、白血病のため48歳の若さで惜しくも亡くなった。ハイレゾのジャケットでは写真がないから分からないだろうけれど、フリッチャイはフルトヴェングラーとどこか顔が似ている。僕がLPを買った頃は、フリッチャイが“小フルトヴェングラー”と呼ばれていると聞いた記憶があるが、今はどうだろうか。
 でもフリッチャイは全然“小さい”指揮者ではない。偉大な指揮者だと思う。フリッチャイはドイツ・グラモフォンに決して少なくはない録音を残している。今のところハイレゾ化されているのはこの“第九”とドヴォルザークの「新世界より」だけなのが寂しいけれど、「新世界より」も昔からとびっきりの名盤で、ドイツ的な「新世界より」を堪能できるのでよかったら聴いてみてほしい。


フェレンツ・フリッチャイ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
『ベートーヴェン: 交響曲第9番, 「エグモント」序曲, 「レオノーレ」序曲』


(1957年, 1958年録音)



フェレンツ・フリッチャイ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団, ベルリン放送交響楽団
『ドヴォルザーク: 交響曲第9番「新世界より」, スメタナ「モルダウ」, リスト「前奏曲」』


(1959年, 1960年録音)

 今回はフルトヴェングラーとフリッチャイにスポットをあてて書いたが、ヒストリカル・レコーディングのハイレゾは、e-onkyoからたくさんリリースされている。ユーディ・メニューイン『ウォルトン: ヴァイオリン協奏曲 / ヴィオラ協奏曲 / ルティータ』でのヴィオラ協奏曲のハイレゾも感心したひとつ。カール・リヒターバッハ4大宗教曲のハイレゾ配信も記憶に新しい。ほかにもいろいろあるから吟味してみてはいかがか。
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