e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活 - [こちらハイレゾ商會] 第34回 現代音楽でハイレゾ
掲載日:2016年07月12日
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こちらハイレゾ商會

第34回 現代音楽でハイレゾ
絵と文 / 牧野良幸
 今回は現代音楽のハイレゾについて書いてみる。一口に現代音楽といってもさまざまで、第二次世界大戦のあたりに作曲された現代音楽は、もう古典の部類に入ると思う。武満 徹の作品がそうで、生前からかなりの作品が録音されていた。それらの録音と、新録音もハイレゾで出てきている。
 代表作「ノヴェンバー・ステップス」が収録されている『武満徹: ノヴェンバー ステップス〜管弦楽作品集1』若杉 弘指揮東京都交響楽団の演奏。ハイレゾで聴く「ノヴェンバー・ステップス」はたしかに良かったけれど、僕としては一緒に収録されている「弦楽のためのレクイエム」のほうが迫ってくるものがあった。やはり作曲の直後から世界中で演奏された、若き武満が早すぎる死を予感して筆をすすめた渾身の曲は、ハイレゾでより鬼気迫るものがあった。
 このハイレゾはオリジナルの16bitのデジタル録音を、“ORTマスタリング”技術を使って24bitのハイレゾにしたものである。そこに一抹の不安を感じるオーディオ・ファイルの方は、同じ若杉 弘指揮で『武満徹: 管弦楽作品集』のハイレゾがあるのでそちらを聴いてみてはいかがか。こちらは1966年のアナログ録音のハイレゾ化だ。


若杉弘指揮東京都交響楽団
『武満徹: ノヴェンバー ステップス〜管弦楽作品集1』


(1991年録音)



若杉弘指揮読売日本交響楽団
『武満徹: 管弦楽作品集』


(1966年録音)

 しかし“ORTマスタリング”技術はたいしたものだと思う。というのも同じ“ORTマスタリング”技術を使ってハイレゾ化された高橋悠治『ジョン・ケージ: プリペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード』を聴いて感心したからだ。これも16bitの録音を24bit化したものであるが、その音はCDよりずいぶん生々しいものになっていると思った。
 ここでプリペアド・ピアノについて説明すると、ピアノの弦にボルトやねじ、ゴム、木などを挟み込んで、ピアノ本来の音ではなく、まったく異質な音を出す楽器にしてしまうやり方だ。いかにもジョン・ケージらしい“ブッ飛んだ”現代音楽である。しかしガムランを思わせる音が印象的で、これがかなり聴けるのである。
 80年代にこのCDが発売されたとき、僕はけっこう聴いていたので、懐かしくてハイレゾを聴いたのであるが、プリペアド・ピアノが出す即物的な音が、ハイレゾではゴツンゴツンと身体にあたってくる生々しさである。そりゃあ当時はCDラジカセで鳴らすか、ヘッドフォンで聴くぐらいだから、現在のトールボーイ・スピーカーでたっぷりと鳴らす環境とは違いがあるかもしれない。しかし、それを差し引いてもハイレゾで聴くプリペアド・ピアノの威力はすごいと思った。ハイレゾの登場で再び愛聴盤になりそうである。


高橋悠治(p)
『ジョン・ケージ: プリペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード』


(1975年録音)

 さてジョン・ケージや武満 徹のあとの現代音楽としてはミニマル・ミュージックがある。その代表的なスティーヴ・ライヒでさえいまや古典になってしまって、新しい世代による演奏も活発だ。ハイレゾでもサード・コースト・パーカッションという若手アンサンブルによる『Reich: Mallet Quartet, Sextet, Nagoya Marimbas & Music for Pieces of Wood』が配信されている。
 その中の「六重奏曲(SEXTET)」は定番ともいえるスティーヴ・ライヒと音楽家たちによる80年代のCDを、当時これまたよく聴いたものであるが、この曲もハイレゾで聴くとかなり印象が違ったものになる。
 ここでも一音一音に生命力を感じるのがハイレゾである。かつては人間が叩いていると知っていながらも、まるでコンピュータ演奏のように感じて、そこにミニマル・ミュージックの真骨頂のひとつが含まれると思っていたのであるが、ハイレゾではピアノやマリンバの連打を“人間が演奏している”と強く意識することになる。音も肉厚だ。ミニマル・ミュージックの観賞もハイレゾで新たな段階に入りそうである。


サード・コースト・パーカッション
『Reich: Mallet Quartet, Sextet, Nagoya Marimbas & Music for Pieces of Wood』


(2014年録音)

 ミニマル・ミュージックの話が出たところで環境音楽のハイレゾについても触れておこう。ブライアン・イーノの新作『ザ・シップ』もハイレゾで出ている。イーノもかつて『サーズデイ・アフタヌーン』や『アポロ』などのCDを80年代に聴いたくちである。しかし新作『ザ・シップ』はハイレゾのせいか、長い音や減衰系の音が細かやだ。昔のイーノのスタイルは健在ながらも、より雄大で深みがあるサウンドに思えた。語りのようなヴォーカルも目の前にくっきりと現れる。


ブライアン・イーノ
『ザ・シップ』


(2016年)

 今回は現代音楽というなじみがない音楽ということで、ここまで読んできて眠たくなってきた方もいるかもしれない。そんな時にピッタリの現代音楽のハイレゾがある。それは最近活躍しているマックス・リヒター『Sleep』。なんと夜中に眠りながら聴くことを前提に作られた音楽なのだそうだ。ふだんブルックナーやワーグナーを聴きながら居眠りをする僕には耳が痛い話であるが(笑)、配信のみのリリースで8時間という長さはハイレゾ時代らしい現代音楽と言える。その長さゆえ、一部分しか聴いていないが、ゆったりとした流れが大河の中に身を任せた気分になる。スピーカーとにらめっこするよりも、ハイレゾに対応したポータブル・オーディオに入れて寝床で聴くのがベストかと思う。


マックス・リヒター
『Sleep』


(2015年)

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