仏教と音楽が私の楽しみであり、人生のともしび――三浦明利『いのちのともしび』

三浦明利   2019/03/08掲載
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 浄土真宗の僧侶であり、シンガー・ソングライターでもある三浦明利が通算5タイトル目となるアルバム『いのちのともしび』をリリースした。仏教のこころを伝えながらポップスとしても魅力的な楽曲群に驚かされたが、袈裟姿でアコースティック・ギターを抱く姿はまるで江の島の弁財天像を思わせる。柔らかな関西弁を聴く取材を進めるにつれて、この表現と美しさの源は力強さと繊細さによるものと実感した。

 ミュージシャン、僧侶、さらには二児の母として、日々の暮らしから見出した数々の“美しいともしび”が表現されたアルバムについてはもちろん、彼女自身の音楽遍歴についても訊いた。
――『いのちのともしび』は仏教的な要素がとても強い一方で、普遍的なポップスとしても楽しんで聴くことができる作品でした。アルバム冒頭を飾る「Namo Amida Butsu」は“南無阿弥陀仏”の英語表記でしょうか?
 「普遍的な音楽としても聴いていただけて、嬉しいです。ブラジルやハワイに移民された日本人をはじめ、世界中に仏教のファンがいらっしゃって、お念仏は海外では“Namo Amida Butsu”として唱えられているんです。6歳のころにハワイのお寺を訪れたことがあって、現地ではお寺のことを“ブッディスト・チャーチ”と表現するんですが、白くて清らかで、とても美しかったことを覚えています。“仏教がこんな風に世界中にあるの?!”と一番最初に気が付いた瞬間でしたね」
――幼い三浦さんと同じように、仏教が世界にも根付いていることがうかがえました。続く「いきとしいけるもの」は歌い方のアプローチがほかの曲と違っていますね。
 「やっぱりこの曲は仏教の心を子どもたちに届けたかったので、歌いあげるというよりは語りかけるような、口ずさめるような歌い方に自然となりましたね。感じとっていただけたならとてもうれしいです」
――歌詞カードのお写真は三浦さんのお子さんですね。一緒に歌って、この曲を楽しんでいらっしゃる姿も目に浮かびました。
 「こういう日常の光景の中で生まれてきた曲でもあるので、そのままの空気感も感じていただきたくて写真を載せました。〈いきとしいけるもの〉では初めて保育士さんに振り付けをしてもらって、子どもたちと一緒に身体を動かして、楽しかったなあ。いままでとは違うアプローチで作った曲ですし、新しい体験になりました。ぜひ配信動画をみなさんに観ていただいて、お子さんたちと楽しんでいただきたいです」
――「こころ〜同朋(ともがら)のうた〜」のセルフ・ライナーノーツでは“ギータ・デゥータ”というコーラス・グループのことを書かれていますが、より詳しく教えていただけますか?
 「いわゆる檀家様が集まられて、歌うことで仏教を味わったり、楽しんだりするグループです。施設へ訪問演奏を行なったり、このように楽曲を作ることもその活動のひとつ。この曲はみなさんに作詞をしていただきました。和讃(わさん)の形式で、みんなで書いたものを私がパズルのように組み合わせて完成した曲です。読経をすることや法話を聞いてその思想を勉強することも仏教の味わい方でなんですが、こんな風に音楽的な活動もするんです。“仏教ってこんなに楽しかったんだ”っておっしゃる方がたくさんいます。わからなかったことも歌詞として歌うことでスッと心に入ってきた、と喜んでいただいています。もちろん、私自身も歌って味わうことが楽しくて楽しくて(笑)。多くの気付きを得ています」
――仏教では音楽も大きな役割を担っているんですか?
 「はい、全国に仏教讃歌を歌うコーラス隊がたくさんいるんですよ。和讃や仏教讃歌は各時代の音楽とともに生まれてきました。私が歌っているポップスの手法もそのひとつです。いまの時代の音楽で仏教のよろこびを伝えようとしているだけで、実はこれまでもその時代に即した表現がとられてきているので、個人的には新しいことをしているという意識はありません。常にその時の新しい音楽にのせて仏教の心が歌われてきたのは伝統なんです」
――「ともしび〜A chama〜」はついつい鼻歌を口ずさんでしまいました。“アシャマ”とはどういう意味ですか?
 「アシャマはポルトガル語でそのまま“ともしび”という意味です。どちらかの言語がわかれば、だいたいの意味がわかるように対の歌詞になっています」
――ブラジルでのライヴ・ヴァージョンも収録されていて、観客の方が一緒に口ずさんでいるのがとても感動的でした。実際の客席で聴くものに近い音なのもあって、情熱がとてもつたわりますね。
 「ブラジルの方は……ハートフルでした。実はわたしもブラジルの熱狂的な観客に感動してしまって、この曲をどうしても収録したかったんです。アルバムのレコーディングはすでに終えていたんですが、あらためて録音しました」
――どんなライヴだったんでしょうか?
 「首都のブラジリアにあるお寺で、初めて海外で行なった公演でのライヴ録音です。そのお寺には日系人の方がいらっしゃらず、ブラジルの方ばかりでした。本当に仏教を情熱的に心に抱かれて、ダンスや音楽と信心を楽しんでいらして。8月に行なわれる盆踊り“ボンダンス”には1万人近い人が集まるそうです。実際に公演が始まるまでは、英語も挨拶くらいしかできないし、ポルトガル語もまったく出来ないので“わたしに伝えられるのかな?”と不安もありました。日本で、私は法話をしてから歌唱をすることが多くて、どちらかというと言葉に頼る公演をしていますから。……けれど始まってみたら通じ合えたんです。もちろん仏教の力もありますが、音楽で通じあうことができた開放感はとても大きいものでした」
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――ミュージシャンでありご住職でもある三浦さんならではの経験ですね。
 「〈秋の夕べ〉もぜひ聴いていただきたいですね。お寺で生活する中で、初めて書いた曲なんです。“ここで歌うことができて幸せ”という想いがこもっています。11年前に“もう音楽はできない”と覚悟して、私はお寺に戻ってきたんですが、“お経も音楽のひとつだな”“仏教賛歌にも素敵な曲がいっぱいあるんだ”と感じるなかで、〈ともしびの集い〉というお彼岸の行事のために作った曲です。ロウソクを持ったみなさんに歌っていただけるようにとてもシンプルで素朴なんですが、いまのわたしのスタート地点です」
――“音楽はやらない”と決心されて、お寺の生活に戻られたんですか?
 「はい。当時、寺を継いだタイミングでは母ががんを患っていて、手術後まだ伝い歩きをしていたような状態だったんです。急なお参り、お通夜やご葬儀があった場合、音楽の予定をキャンセルせざるを得ない。ライヴをキャンセルするような無責任なことはできませんので、音楽をあきらめました。その後、ありがたいことに母は再発もなく回復しましたし、私は結婚もして。……夫もお坊さんなんです。家族みんなでお寺を守ることができるようになりました。いま、ありえないほど恵まれた環境をいただいて、また音楽ができる。とてもありがたいと思っています」
――ご住職になられる以前と現在、違うことはありますか?
 「お寺に戻る前と違って、同じチャンスは二度とないと感じますね。仏教の考えでも、今日はたまたま命があるけれども、明日はないかもしれない、今日生かされている一瞬を大切にしたいと思えますし、仏教と日々の暮らしから教わったことを楽曲に“いまの私”と一緒に閉じ込めて、伝えていきたいと考えるようになりました。仏教と音楽がこれまでもこれからも私の歩んでいく楽しみであり、人生を灯してくれています。子供たちとの時間、お寺の時間、どちらかが欠けても私の音楽は成立しないし、どちらもないがしろにはできない大切なものです。お寺の中でのふれあいや子どもたちからいろんな刺激を受けるおかげでメロディが聴こえてくるようになりました」
――アルバムのレコーディングはどんな雰囲気で進みましたか?
 「レコーディングはいつもリラックスして、こたつを囲んでいるような空気になります。仲もいいですし、ポジティヴに作ることができています。バンド時代はたしかに張り詰めるような、緊張するようなレコーディングもあったんですが、いまは違いますね。エンジニアさんにしても、自由にうたえばいい、音に導いてもらえると信頼していて、みなさんのおかげで引き出していただいていると思います。ピアノは、バンド時代からのお付き合いがある押谷沙樹さんにお願いしました。今回は特にコーラスでも使ってもらえるよう、シンプルなピアノ・アレンジにしました。息をするようにお互いに通じ合える、何も言わなくても伝わる方ですし、また一緒に音楽制作活動ができることがとてもうれしい。みなさん、私が尊敬するミュージシャン、音を信頼しあえる方にお願いしています。私の名前が前に出ていますが、ひとつのチームの作品として作り上げたものですね」
――なるほど。ちなみに中学生の時にギターを始められたそうですが、どんな音楽遍歴でしたか?
 「家にあったクラシック・ギターを弾いてみたらきれいな音に驚いたのと……“弾けるんじゃない?!”って思ったんです。偉大なる勘違い(笑)。中学生の私の手にはクラシック・ギターは大きかったし、当時はバンド・ブームだったこともあって、その後エレキ・ギターを手に入れました。日本のアーティストでは黒夢GLAYが好きで、難しさもわからない状態でチャレンジしてました(笑)。高校時代は洋楽を聴くようになっていたので、“助六”っていうギャル・バンドでドゥービー・ブラザーズのコピーや世良公則さんのカヴァーを演奏していました」
――助六!……個性的な名前ですね。
 「顧問の先生がいつも助六寿司を食べていて、そこから(笑)。メンバーみんなおじさんくさい趣味で、“あなたのギターは泥臭い”って言われてました(笑)。その当時に作曲も始めたことで、どんどん音楽にのめりこんでいきましたね。母に歌舞伎へ連れて行ってもらっていたから、お寿司ではない助六の本当の意味も知っていて、男らしいギターを弾こうという心意気もあったんですよ」
――ギター・ヒーローはいらっしゃいましたか?
 「わたしのヒーローは、THE SAVOY TRUFFLEというサザン・ロックのバンドのみなさん。10分も15分も果てしなくギター・ソロを弾くような……バンドです。ツイン・ドラムで音圧がすごくて、ギタリストの方は顔でもギターを弾いておられるような。憧れて私も変顔をして、“男の子も蹴散らすようなギターを弾く!”と自負しておりました(笑)」
――近ごろはだいぶたおやかになられたんですね(笑)。
 「はい(笑)。THE SAVOY TRUFFLEのみなさんとはその後に縁あって、ミュージシャンとして繋がることができました。前作のアルバムではドラマーの方に参加していただいて。ダメ元で“わたし、おっかけしてました……”とカミングアウト付きでオファーしました(笑)」
――最後にこのアルバム、特に「いきとしいけるもの」で三浦さんと出会うリスナーの方にメッセージをいただけますか?
 「お子さんと一緒に歌ってお遊戯してくださるだろうお母さん方にお伝えしたいこと、とても重大で、難しいですね(笑)。子どもを育てていると、親である私たちもつたないことばかりしてしまうんですね。たとえばついつい子どもたちに“もっとこうしてほしい”とか、私自身も期待をしてしまうんです。一方、仏教では、大人の期待や思惑の通りに子供が育つことは大切ではないと教えてくれます。仏さまが伝えてくれる“心”は私たちのものよりももっと大きく広い視野で命を育んでくださって、子どもだけではなく、親であるわたしたちをも育ててくれる。私もその心をともしびに歩いていきますし、生涯をかけてみなさんにお伝えしていこうと思っています」
取材・文 / 服部真由子(2019年2月)
Live Schedule
光明寺第8回法話コンサート
「いのちのともしび」発売記念コンサート

miuraakari.com/liveschedule/

2019年4月28日(日)
奈良 光明寺
出演: 三浦明利(vo, g) / 峠ひろみ(vn) / 押谷沙樹(p) / 福田尚生(b) / 池田安友子(perc)
ゲスト: 光明寺コーラス“ギータ・デゥータ”

開場 13:30 / 開演 14:00 / 終演予定 16:00
※予約不要 / カンパ制

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