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“スリーピースガールズバンド”はなぜ“魅惑的”なのか 代表的なバンドとおすすめの若手スリーピースガールズバンド

Conton Candy   2023/12/11 14:21掲載
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“スリーピースガールズバンド”はなぜ“魅惑的”なのか 代表的なバンドとおすすめの若手スリーピースガールズバンド
 “スリーピースガールズバンド”という、魅惑的な響きのカテゴリーが存在する。言うまでもないが、それは3人組バンドを意味する“スリーピースバンド”と女性メンバーのみで構成されたバンドを表す“ガールズバンド”の2要件を兼ね備えた、3人組女性バンドのことを指す。昨今の日本の音楽シーンにおいてスリーピースガールズバンドはかつてないほどの激戦区となっており、注目に値する潮流を形作っている。

――スリーピースガールズバンドはなぜ魅惑的なのか

 お急ぎの方はこの節は読み飛ばしていただいてもまったく問題ないが、そもそもスリーピースガールズバンドはなぜ“魅惑的”なのだろうか? 結論から言ってしまえば、まず3人だけでバンドを編成するということ自体がまあまあ特殊な概念であり、さらにそれが全員女性となるとより特殊性を増すからだと説明することができる。つまり存在そのものに圧倒的なロマンが内包されているのだ。

 一般論として、合奏で音楽を表現する際に最低限必要とされるパートは4つある。旋律楽器または歌(ボーカルなど)、和音楽器(ギターやピアノなど)、低音楽器(ベースギターやコントラバスなど)、打楽器(ドラムスやパーカッションなど)だ。ほとんどのロック/ポップス系バンドがボーカル、ギター(キーボード)、ベース、ドラムスを軸に編成されているという事実がそれを裏付けてもいるが、たとえば打ち込み主体のデジタルミュージックであっても、その4パートに相当する役割をなんらかの音源に置き換えたものが構造上の中核を担っているケースが大半であることもその傍証となる。この4パートを超える編成については、多くの場合において装飾的な意味合いにとどまるものと理解して基本的には差し支えない。

 普通に考えれば、これを人力で実現するためには最低でも4人の人員が必要となる。だがスリーピースバンドにおいてはそれを1人少ない人数でまかなうことになるため、ある意味では誰かが“無理をする”必要が生じるわけだ(大抵の場合は誰かがボーカルを兼任する、つまり2人分の仕事をすることで成立している)。当たり前の話だが、4人分の仕事は4人でやったほうが合理的である。なんなら5人や6人、それ以上の人数で分担したところでべつに誰からも文句は言われない。しかも現代においてはシンセサイザーやパソコンなどを駆使することで人数をかけずともリッチかつ緻密なサウンドを無制限に鳴らすことが容易にできるわけで、どの側面から考えてもスリーピースという形態に合理性を見いだすことは非常に困難なのである。

 とはいえ、そうした数々のデメリットを抱えているからこそ生まれる魔法のような何かがそこに存在していることも、これまた事実である。そうでなければ、そんな不利な演奏形態をわざわざ選ぶ人間がいるはずもない。

 そうした不合理で求道的な編成を女性メンバーのみで構成しているのが、本稿のテーマたるスリーピースガールズバンドというわけだ。ことギターやベース、ドラムスといったベーシックなバンド楽器に関しては、昔からどういうわけか女性プレイヤーが比較的希少であり、バンドの全メンバーを女性のみで固めることは意外にも至難の業だったりするのである。昔ほどではないにせよ、今なお「本当はガールズバンドを組みたかったけど、どうしてもドラマーだけは男性にせざるを得なかった」という羊文学のようなケースは“あるある”として非常によく耳にする話だ。

 つまり、“スリーピースバンド”という条件も“ガールズバンド”という条件も、どちらも共通して本人たちの類いまれな意志の強さと心意気がなければ確立し得ないものだと考えることができる。そんな2条件が奇跡的に重なった“スリーピースガールズバンド”という呼称がどうしても魅惑的に響いてしまうのは、これはもう仕方ないと言うほかない。

――代表的なスリーピースガールズバンド

 そんな奇跡の存在たるスリーピースガールズバンドだが、その歴史は意外と長く、日本においては少なくとも1980年代にまでさかのぼる。アマチュアを除く日本最古のスリーピースガールズバンドはおそらく81年結成の少年ナイフであると考えられ、海外で絶大な支持を得るなどさまざまな意味で後年の音楽シーンに多大な影響を及ぼした。しかも恐ろしいことに、今なお現役バリバリのバンドである(2023年現在)。



 80年代にはほかにも、硬派なメッセージを叩きつける社会派バンド・THE NEWSや、さほどスリーピース編成にこだわった売り出し方ではなかったもののお茶の間レベルにまで親しまれたGO-BANG'Sなども活躍。とくにGO-BANG'Sの「あいにきてI・NEED・YOU!」(89年)は、サウンド感はさておきおそらくスリーピースガールズバンド史上初のヒット曲であると考えられ、歴史的にも大きな意味を持つ1曲だ。スリーピースに限定しなければ、80年代はSHOW-YAPRINCESS PRINCESSといったレジェンドたちが当時未開だったガールズバンドの土壌を開拓して全国区へ押し上げた時代。つまりスリーピースを含むガールズバンド全体が徐々に市民権を得ていったタイミングでもあった。


 しかし90年代に入ると、Nav Katzeなどのわずかな例を除きスリーピースガールズバンドはメジャーシーンからほぼ姿を消してしまう。それどころか4ピース以上のガールズバンドさえもほとんど見かけなくなるほどの衰退期へと突入するのだが、どういうわけか2000年前後を境に急激なV字回復を見せ始めることとなる。スリーピースバンドのみに限定しても、このあたりの時期にはつしまみれステレオポニーStrawberry JAMSOFTBALLといった優れたガールズバンドが相次いで登場しており、厳密にはガールズバンドではないが大きな存在感を示したGO!GO!7188や、先鋭的なインストゥルメンタルバンド・にせんねんもんだいなども活躍。00年代のスリーピースガールズバンドは、その絶対数においても音楽性の幅においても指数関数的なまでにその勢力を急拡大していった。

 中でもとくに大きなインパクトを残したのがチャットモンチーだ。スリーピース編成ならではのソリッドでスリリングなサウンド感を前面に出しながら、それでいて楽曲は脱力感を伴うポップさを備えており、しかもそれを普通っぽいビジュアルの女子3人がキュートな歌声とともに演奏する姿は当時の感覚からすると実に斬新なもので、それまでの常識を覆すほどの衝撃を広く世の中に与えた。その結果、現代ではもはやチャットモンチーっぽい佇まいのバンドなど珍しくもなんともなくなっているのは周知の通りだ。


 そしてスリーピースガールズバンドの勢力拡大は、2010年前後からさらに加速していく。THE LET'S GO's住所不定無職The Wisely BrothersHump Backthe peggiesCRUNCHSaToAリーガルリリーといった個性的な音を奏でる優れたバンドが次々に誕生し、群雄割拠の様相を呈していく。09年の『けいおん!』に端を発するガールズバンドアニメの流行も追い風となって、ガールズバンド自体の総数が飛躍的に増加したことも奏功したものと思われる。当時、女性アイドルシーンでは“アイドル戦国時代”という言葉が広く使われていたが、ガールズバンドシーンだってまあまあ戦国時代だったのである。

 そんな10年代にもっとも成功したスリーピースガールズバンドといえば、やはりSHISHAMOということになるだろう。SHISHAMOのユニークなところは、「君と夏フェス」や「明日も」などの楽曲が国民レベルで浸透するほどのポピュラリティを持ち合わせながらも、“広く浅く”な音作りを一切していない点だ。ストイックなまでに武骨なバンドサウンドにこだわった録音作品を愚直に作り続けながら、楽曲の肌触りはあくまでポップかつキュート。そのアンビバレンスが彼女たちの存在を唯一無二のものにしている。



――おすすめの若手スリーピースガールズバンド3選

 20年代に入ってからも、もちろん新たなスリーピースガールズバンドは続々と登場し続けている。最後に、筆者が個人的に注目するバンドを3組ほど挙げて本稿の締めとさせていただきたい。

Conton Candy(写真)
SNSを中心に「ファジーネーブル」が大ヒット、『ミュージックステーション』にも出演を果たした、紬衣(つむぎ / Vo, G)、楓華(ふうか / B, Cho)、彩楓(さやか / Dr, Cho)からなる正統派ロックバンド。フォーキーな味わいのメロディラインと時折オルタナティブにも響くギター、実の双子だというリズム隊による揺るぎなくも時にテクニカルなボトムセクション、そして耳に心地よく突き刺さる紬衣のアイコニックな歌声が特徴だ。それらの要素が織りなす飾らないギターロックサウンドには、誰もが親近感と安心感を覚えてやまないことだろう。その醍醐味は音源よりもライブでこそ十全に発揮されるのだが、ありがたいことにバンドのYouTube公式チャンネルにはライブ映像がいくつもアップされているので、まずはこれを片っ端から観ていくのがおすすめである。



UlulU
大滝華代(Vo, G)、古沢りえ(B)、横山奈於(Dr)からなるガレージフォークロックバンド。リヴァーブ深めの八方破れなグランジサウンドとノスタルジックなメロディライン+透明感あふれるボーカルという、一見ミスマッチな要素が合わさることでなぜか絶妙な化学反応を起こす、チョコがけポテトチップのような不思議なバンドだ。ほかではほとんど耳にすることができないような、彼女たち特有のシグネチャーサウンドが確立されていることが一聴した瞬間に感じ取れることだろう。ある意味ではシューゲイザー的でもあり、それと同時に70年代の風街サウンドに通ずるようなムードも感じられる。どちらかというとアナログレコードで聴きたくなるタイプのバンドだ(たぶんそんなものは出していないと思うが)。



輪廻
ギターボーカルのメンバーチェンジという、なかなかに珍しいヒストリーを持つガーリーメロコアバンドで、よしはぐ(Vo, G)、リノ(B)、りぃこ(Dr)からなる3人組。普通のスリーピースバンドはメンバーが変わるにしてもギターボーカルだけは不変であり続けるものだが、前任の双葉(Vo, G)が体調不良を理由にバンドを離れることになり、今年7月より新体制で活動中だ。どちらかというとロリータボイス系の双葉からハスキーボイスのよしはぐに“輪廻”したことでサウンドの印象はガラリと変わっているものの、「命短し食せよオコメ」や「バンドマンきらいかも」といった楽曲に顕著に見られるような身も蓋もない表現で綴られる等身大の歌世界と、意外に芸の細かいアレンジ力の高さは健在である。



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