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ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、〈シェーンブルン・サマーナイト・コンサート〉開催 ライヴ・レポートが到着

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団   2025/06/23 12:36掲載
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ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、〈シェーンブルン・サマーナイト・コンサート〉開催 ライヴ・レポートが到着
 ウィーンの初夏の風物詩、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の〈シェーンブルン・サマーナイト・コンサート〉が、6月13日、好天候のなか、オーストリア・ウィーンのシェーンブルン宮殿の野外会場で開催されました。

 今年の指揮者は、2009年以来たびたびウィーン・フィルと共演してきたトゥガン・ソヒエフ。メトやウィーンなど世界的な歌劇場に出演するテノール歌手ピョートル・ベチャワと、はじめてウィーン少年合唱団が参加しました。

 コンサートを取材したオーストリア在住のチェリスト・文筆家の平野玲音によるライヴ・レポートが公開されています。また、7月11日(金)に配信、7月30日(水)にCDが発売される、この公演のライヴ・アルバムからチャイコフスキーのバレエ『くるみ割り人形』作品71より「花のワルツ」が先行配信されているます。

[ライヴ・レポート]
 2025年6月10日、オーストリア第2の都市グラーツのギムナジウム(日本の高校に相当)で銃撃事件が発生し、21歳の犯人を含む11人が死亡した。「3日間、国全体が喪に服し、シュタイアーマルク州の全ての行事を取りやめる」との発表があり、該当行事の期間や範囲がはっきりしなかったため、13日のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のサマーナイト・コンサートを開催できるか危ぶむ声も。

 グラーツ歌劇場はその週一杯、15日まで閉館したが、ウィーン・フィルは「言葉が表現できないところでも、音楽は語ります」と開催する意思を表明。サマーナイト・コンサートが始まる前に楽団長ダニエル・フロシャウアーと指揮者トゥガン・ソヒエフによる簡単なスピーチがあり、最初の曲をバッハ《管弦楽組曲第3番》の〈アリア〉に変更、その後皆が起立して、被害者たちに黙祷を捧げる形で遺族や友人たちへの思いを伝えた。

 オーストリアでは前例の無い悲劇が起きて、まだ3日。〈エア〉はあくまで静かに清らかに、感情的になりすぎず、心の傷を気遣うような優しい音色で奏でられた。

 今回は、ソヒエフがサマーナイト・コンサートを初めて指揮し、テノール歌手ピョートル・ベチャワとウィーン少年合唱団も初登場。2曲目はオッフェンバック《ラインの妖精》より〈一緒においで、歌って踊ろう〉で、ライン川の妖精ら――ウィーン少年合唱団が可憐な声を披露した。オッフェンバックが歌劇《ホフマン物語》の〈舟歌〉としても用いたために、耳に馴染んだメロディだ。

 ベチャワの歌が加わったのは、5、10、14曲目とアンコール1曲目。5曲目のビゼー《カルメン》より〈お前が投げたこの花は〉は、豊かな声で、細部にまで工夫を重ねた好演だった。10曲目のプッチーニ《トゥーランドット》より〈誰も寝てはならぬ〉では、ウィーン少年合唱団が舞台右後方に立ち、合唱部分を受け持った。

 14曲目は、カールマン《伯爵令嬢マリツァ》より〈ウィーンによろしく〉。ハプスブルク君主国が崩壊した6年後、ハンガリーの偽名を使ってマリツァに領地管理人として雇われる身となったタシロ伯爵は、かつての帝都ウィーンを懐かしむ。「昔から変わらぬ月が空に鎮座し、優しくこちらを照らす時……。木々の中の夕べの風が美しかった過去の時を歌う時……。」いつしかすっかり暗くなったシェーンブルン宮殿の庭園にどんぴしゃりの選曲で、しっとり典雅にプログラムが締めくくられた。

 オーケストラのみの曲も、広く知られた名曲ばかりの楽しい内容。ビゼー《アルルの女》第2組曲より〈ファランドール〉、チャイコフスキー《くるみ割り人形》より〈花のワルツ〉、ドヴォルザーク《スラヴ舞曲第1番》など踊りの曲がたくさんあったが、ソヒエフの指揮は整然として、あっという間に時が経つ。

 現場では、マイクを通して聴くせいもあり、華麗な音の洪水よりもキラリと光る歌い回しに魅了された。例を挙げれば、ビゼー《カルメン》より〈第3幕への前奏曲〉のフルートのソロ! 気品に満ちた美音をもって、頂点の変ロ音をこんな風にたおやかに吹ける人は珍しい。マスカーニ《カヴァレリア・ルスティカーナ》より〈間奏曲〉でも、優しく清楚に歌いかけるヴァイオリンが心に沁みた。

 オーケストラ全体が生き生きと輝いたのは、13曲目のオットー・ニコライ《ウィンザーの陽気な女房たち》序曲。この曲は、ウィーン・フィルの創設者ニコライが住んだ家を博物館にした、ウィーン1区の「音楽の家」開館25周年に捧げられた。ここまでのプログラムで最もウィーン的と言えるだろうし、(ウィーン国立歌劇場は長らく上演しておらず)このメンバーではなかなか聴けない作品なので、緻密な妙技や細やかな抑揚などのあらゆる刹那を享受した。

 アンコールの1曲目には、レハール《ジュディッタ》より〈友よ、人生は生きる価値がある〉をベチャワが歌った。切々とした生への讃歌が、傷心のオーストリアから世界に届きますように。

――平野玲音

Photo by Niklas Schnaubelt

トゥガン・ソヒエフ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
チャイコフスキー:バレエ『くるみ割り人形』
作品71より「花のワルツ」

配信リンク
sonymusicjapan.lnk.to/WaltzoftheFlowers
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