[注目タイトル Pick Up] 透けるように美しいアリソン・ラウの歌声に聴き惚れる / デビュー30周年、Winkのカタログが96kHzのハイレゾでリリース”
掲載日:2018年7月24日
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注目タイトル Pick Up
透けるように美しいアリソン・ラウの歌声に聴き惚れる
文/長谷川教通

 トロイカといえばロシアの3頭立ての馬ぞりとか馬車を思い浮かべるが、ここではショスタコーヴィチ、プロコフィエフ、ラフマニノフの3人の作曲家のことを指している。時代はロシア帝国からソビエト連邦、そして現在のロシアへと、これも3頭立てだろうか。3人の作曲家のチェロ・ソナタをメインに据え、その傍にショスタコーヴィチの多様な顔が垣間見える「ワルツ第2番」や、実在しない人物を英雄に仕立て上げてしまう政治や人々の愚かさを揶揄するプロコフィエフの「キージェ中尉」、そしてうわべだけの言葉なんかいらないとばかりにラフマニノフの「ヴォカリーズ」を配置するなど、ひと癖もふた癖もあるプログラムはいかにもマット・ハイモヴィッツらしい。
 さらに旧ソ連末期に反体制的な歌で絶大な人気を誇ったロック・バンド“キノー”のリーダー、ヴィクトル・ツォイの代表作「ククーシュカ(かっこう)」、現ロシアのロック・バンドで「聖母マリア様、プーチンを追い出してください」と歌ってメンバーが逮捕された“プッシー・ライオット”の「パンク・プレイヤー」、ビートルズの「バック・イン・ザ U.S.S.R」と続け、アルバムのメッセージはかなり強烈だ。これで演奏が並の出来なら“ウッ?”なのだが、そこは筋金入りのチェリスト。小品だからといって月並みなウケ狙いからは程遠い剛直さ。ソナタもすばらしい。チェロの倍音をしっかりととらえた録音も秀逸で、クリストファー・オライリーの鮮やかなピアノも聴きものだ。


 2017年8月ベルリンでの録音だが、これは鮮烈! マルティン・フレストのクラリネットがゾクゾクするほど生々しい。「鳥たちの深淵」でのソロが圧巻だ。多彩なテクニックを駆使し、その音色は空気を切り裂くかと思えるほど鋭く、それなのになぜか妖しいまでに艶やかだ。「イエスの永遠性への賛歌」でのトーレイヴ・テデーンのチェロにも惹きつけられるし、ジャニーヌ・ヤンセンが最後の楽章で聞かせるヴァイオリン。こんなにも清冽で崇高な音色がこの作品から聴こえてくるとは……。
 これはオリヴィエ・メシアンの傑作であり、もっともよく知られた作品。日本語訳では“世の終わりのための四重奏曲”と呼ばれるが、原語を直訳すれば“時の終わりの……”となる。第2次大戦中にドイツ軍にとらわれ、1940年に捕虜収容所で作曲されたという背景から“世の終わりの……”と意訳したのも理解できるし、作品の持つメッセージは現代にも大きな意味を持っていると思う。ただ、4人の名手たちのきわめて純度の高い演奏を聴くと、作品の時代背景や経緯を意識しつつも過剰にとらわれることなく、ピュアに音楽的なアプローチで作品に向き合っていることがわかるし、現代音楽にはつきものの実験的な要素も、ここにはない。彼らにとってはもはや現代音楽ではないのだ。各奏者がそれぞれの個性をぶつけ合いながら、ピアノのリュカ・ドゥバルグがアンサンブルの精緻さをコントロールする。とにかく巧い、すごい! 録音の良さも特筆もので、かすかなピアニシモから強烈なアタックまでが、透明な空間にみごとにとらえられている。再生システムの再現能力をチェックするには最高のアルバムと言えそうだ。


 UNAMASレーベルの大賀ホール・シリーズの最新録音だ。主役はイタリアとコントラバス。1821年イタリア生まれのジョヴァンニ・ボッテシーニ作曲「グラン・デュオ・コンチェルタンテ」からプログラムはスタートする。ヴァイオリンとコントラバスをフィーチャーしたアンサンブル。さすがコントラバスの名手として知られた作曲家だけに超高難度の連続だが、東京交響楽団の北村一平がすばらしいテクニックを披露する。
 続いてロッシーニが12歳のときに作曲した「弦楽のためのソナタ集」から第1番。現在では弦楽合奏や弦楽四重奏で演奏されることが多いが、オリジナルは二つのヴァイオリンにチェロとコントラバス……低音にこだわるUNAMASにピッタリではないか。オリジナル編成で聴ける機会は滅多にないだけに、これは貴重な録音だ。第1楽章のヴァイオリンの音色がとても艶やかに録られている。バッテリー電源に加えバーチャルアースも取り入れた収録システムで、驚異的なS/Nと透明感を実現している。ここまで濁りのない弦楽アンサンブルの録音は聴いたことがない。
 プログラムの締めは映画『シンドラーのリスト』からのテーマだが、普段はオーケストラで縁の下の力持ち的な存在のコントラバスが、ソロでこんなにも表情豊かな表現を聴かせてくれるなんて……低音楽器の魅力を再発見させられる。


 シカゴ響とのブラームス交響曲全集から四半世紀。ダニエル・バレンボイムとしては、1992年以来音楽監督を務めるシュターツカペレ・ベルリンを振った再録音は、どうしても実現させたい仕事だったに違いない。今回の新録音は彼のピアニストとして、また指揮者としての長いキャリアの中でも最高ランクと評していいのではないだろうか。“これぞドイツ!”と言いたくなるオケの響き。2017年3月にオープンしたピエール・ブーレーズ・ザールでの録音だ。
 このバレンボイム肝いりのホールは楕円形の空間で、音響設計はハンブルクのエルプフィルハーモニー・ハンブルクも手がけた豊田泰久(永田音響設計)が担当。ブラームス特有の重層的な響きがみごとにとらえられている。弦の合奏は分厚くブラスの渋い音色も旧東ドイツ時代からの伝統だろうか。第1番の冒頭を聴いただけで“これはいい”と身を乗り出してしまう。第2番のホルンのメロディもいい。バレンボイムはじっくりとしたテンポで、アンサンブルの細部にまで神経を張り巡らし、第3番でもヤワな感傷性などとは無縁。第4番のパッサカリアは堂々とした構えの大きさで壮大なエンディングだ。たしかに、この曲で19世紀の交響曲が終焉を迎えたのだと納得させられる名演だ。


 声は天からの授かり物。アリソン・ラウは香港生まれのソプラノ歌手。日本ではまだ知名度は高くないものの、2016年には横浜国際音楽コンクールに出場し、またイタリアやアメリカのコンクールでも優秀な成績を獲得しており、まさに今売り出し中の若手だ。香港を中心にカナダやドイツでも活躍しているようで、2016/17のシーズンにはジョン・ブットの指揮でバッハのヨハネ受難曲を歌い、そのほかヘンデルやハイドンのミサ曲、抒情的な歌曲などもレパートリーに加えている。
 そんな彼女のアルバム『My Voice & I』。この声はほんとにすばらしい。ぜひ聴いておきたい。カッチーニの「アヴェ・マリア」、グリーグの「ソルヴェイグの歌」と、彼女が得意なプログラムが並ぶ。ヴィヴラートを抑えた清らかな声はオペラ歌手の歌い方とは違う。まろやかで最高音域まで透けるように美しく、ギスギスしたところがまったくない。ラフマニノフの「ヴォカリーズ」も、まさに声の魅力で聴かせる。プログラム前半はシンガポールの音楽家たちで構成されるリ・サウンド・コレクティヴという室内合奏団とのコラボ。後半は弦楽アンサンブルにフルートやオーボエも加わり、モリコーネの「ネッラ・ファンタジア」やマルティーニの「愛の喜びは」などポピュラーな名曲を歌っている。うっとりと聴き惚れてしまう。期待のソプラノだ。

デビュー30周年、Winkのカタログが96kHzのハイレゾでリリース
文/國枝志郎

 始まりは6月25日だった。e-onkyoの配信サイトで突然Winkのシングル「淋しい熱帯魚」がハイレゾ(96kHz/24bit)で配信が開始されたのである。えっ? と思ってはたと気が付いた。Wink、今年デビュー30年じゃないか! 1988年4月27日、シングル「Sugar Baby Love」でデビュー。サード・シングル「愛が止まらない -Turn it into love-」(88年11月16日発売)がドラマの主題歌に使われてオリコンチャート年間第5位となるヒットを記録。続いて(今回のハイレゾ配信の嚆矢となった)5枚目のシングル「淋しい熱帯魚」(89年7月5日発売)が日本レコード大賞で大賞を受賞すると同時にNHK紅白歌合戦への出場を果たして、国民的なアイドル歌手として世代を超えた人気を獲得したのを今でも思い出すファンは多いことだろう。そして30年である。このシングル「淋しい熱帯魚」の配信と時を同じくして、テレビ画面で突然「淋しい熱帯魚」が流れ出したのにはさらにびっくり。しかも、画面で踊っているのはかのロックンローラー、内田裕也なのだ! 日清焼そばU.F.O.の新CMなのだが、最初は驚きのほうが勝っていたけれど、もともとこの曲は発売当時、パナソニックのヘッドホン・ステレオのCMソングでもあったということもあり、やはり名曲は時を超えるなとあらためて思わされた次第。そして、デビュー30周年を記念して、彼女たちのオリジナル・アルバムが15タイトル、リマスターにボーナス・トラックを加えて連続リリースが決まったというからこれは興奮せざるを得ないでしょう。執筆時点(7月18日)では第一弾となる5タイトルがまずリリースされ、以後順次1ヵ月ごとに5タイトルずつリリースされていくという。最初の5タイトルとしてはファースト・アルバム『Moonlight Serenade』から4枚目のアルバム『Velvet』までの4枚と、ヒットしたサード・シングル「愛が止まらない -Turn it into love-」のリミックスを中心としたオリジナル・ミニ・アルバムを、すべて高音質なハイレゾ(96kHz/24bit)でリリース。初期のWinkといえば、当時隆盛を誇っていたプロデューサー・チーム、ストック、エイトキン&ウォーターマン(SAW)のハイエナジーサウンドを歌詞も含めて独自に解釈したカヴァーで有名になったという印象が強いし、事実そういう側面が強いこともたしかだが、こうしてあらためて聴くと、本家よりもしっとりとした情感が浮き出てきて思わず息をのむ瞬間も少なくないことに気づかされる。とくに当時破竹の勢いだったカイリー・ミノーグとジェイソン・ドノヴァンのヒットナンバー「Especially For You」や、ブロンディ(!)のヒット「Heart of Glass」のカヴァーなどで構成されたサード『Especially For You 〜優しさにつつまれて〜』をまずは聴いてみていただきたい。


 セニョール・ココナッツ。なんとも腰砕けというかほんわかしたムードが漂う名前じゃありませんか(笑)。しかしこれもまた今月の驚きハイレゾリリースではある。セニョール・ココナッツ(何度書いても顔がほころびます)の音楽は聴いていただければおわかりのとおり、ラテン風味のラウンジ・ミュージック、とでも言える愉悦に満ちたサウンドなんだけど、じつはその出自はいわゆるドイツのシリアスな電子音楽家なのだ、というと、セニョール・ココナッツしか聴かない耳(そんなのあるかどうかは別として)ではにわかに信じがたいことかもしれないけれど、セニョール・ココナッツはベルリン出身のウーヴェ・シュミットの変名なのである。シュミットはじつに多くの変名を持っており、とくに知られているのはハードコア・テクノからアンビエントまで縦横に横断するアトム・ハート(Atom Heart)という名義。この名義でYMOの細野晴臣とのコラボレーションも行なっている。ちなみに細野、アトム・ハートに、アンビエント・ミュージックのクリエイターとして欧州で高い人気を誇るTetsu Inoueを加えたユニット名がHAT(それぞれの頭文字から来たネーミングですね)でアルバムも制作しており、そういう意味では彼は日本との縁も深い、とも言える。そんな彼がセニョール・ココナッツというユニットを始めたのは1997年のこと。もともとのアイディアは90年代初頭から持っていたらしいが、このいわゆる“エレクトロニック・ラテン・プロジェクト”であるセニョール・ココナッツが初めて出したプロダクツが『ダンス・ウィズ・ココナッツ』(97年)である。ちなみに彼はこのプロジェクトのスタートと時を同じくして、フランクフルトから南米チリに移住したというからその入れ込み方も半端でない。そんなセニョール・ココナッツのアルバムが一挙7枚、ハイレゾ(96kHz/24bit)でリリースになったんだからこの夏はどうりで日本、異常な暑さなわけである。チリでテクノにラテンの要素を加えたといえば、リカルド・ヴィラロボスの名前が思い出されるが、セニョール・ココナッツはもっとユーモアのセンスがある(まあ、それはドイツ人的な堅苦しいユーモアでもあるのだが)。どれも夏にふさわしい作風だけど、日本人ならまずは『プレイズYMO』からトライしてみていただきたい。YMOの3人もフィーチャリングされ、ジャケットのおバカさと内容のシリアスなバカバカしさをハイレゾで堪能する。これがこの夏を乗り切るいちばんの方法。間違いないね。


 ジャズといえばコルトレーンでしょ……なんて簡単に呟いちゃうと袋叩きに逢いそうですが、しかしやはりコルトレーンなのです。今e-onkyoでのハイレゾ配信状況を調べてみたんだけれど、帝王マイルス・デイヴィスは83タイトルのアルバムがハイレゾ配信されているのに対して、巨人コルトレーンは86タイトル! もちろんこれはお互い重複しているタイトルもあるし、またマイルスのほうはコロンビアのタイトルのハイレゾ化が遅れている(やっと最近始まった)ので、一概に数だけでどうこう言えるものでもないかもしれないけれど、プレスティッジ/ブルーノート、アトランティック時代のカタログはほぼ完全に揃えられているし、インパルス!期のカタログも順調に追加されつつある状況だから、コルトレーン・ファンは恵まれている、とも言えそう。だがファンは休むことは許されない。今回登場したこのビッグ・タイトルは、コルトレーンとしては初めてフィジカルと配信(ハイレゾ含む)が同時に実現した初のタイトルである。なんといっても本作はこれが初出なのだ。2018年6月のコルトレーンの新作、そんなウソのようなことが実現してしまったのだ。すでに各所で話題になっているので内容はチェック済の方も多いと思われるが、これまで見つかって世に出たコルトレーンの未発表テイクと比べてもきわめて驚くべき発見となったのが今回の『ザ・ロスト・アルバム』である。時期的には1963年、インパルス!時代。『バラード』『デューク・エリントン&ジョン・コルトレーン』『ジョン・コルトレーン&ジョニー・ハートマン』というバラード三部作(『バラード』以外はハイレゾ配信あり)が作られたのと同じころである。もともとはステレオで収録されたが(時代的にも当然そうだろう)、残念ながらステレオマスターはすでに廃棄処分され、本作のマスターはコルトレーンの最初の妻であるナイーマが保管していた演奏チェック用の7インチ・オープンリールをもとにしている。この7インチ・テープは(演奏チェックという目的もあったと思うが)ステレオではなくモノラルである。よってこの『ザ・ロスト・アルバム』は全曲モノラルとなる。しかしながらマッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルヴィン・ジョーンズ(ds)といういわゆる〈黄金のカルテット〉を率いて、63年3月6日にニュージャージーのヴァン・ゲルダー・スタジオで行なった公式セッションからなるこの作品の価値はいささかも下がるものではない。ハイレゾ版は192kHz/24bitという、PCMとしては最高のスペックが選ばれており、スタジオで繰り広げられる熱量の高いセッションの模様を余すところなく伝えてくれる。


 以前、当欄でカフカ鼾というユニットのアルバム『nemutte』を取り上げたことがあった。カフカ鼾は石橋英子、ジム・オルーク、山本達久のトリオからなるユニットで、精緻な音響工作ながらきわめて耳なじみのいい珠玉とも言える作品で、ハイレゾで聴くにふさわしい作品として当欄でも推薦させていただいたもの。ちなみにジム・オルークについてはそのソロ・アンビエント・アルバム(全1曲44分!)『sleep like it's winter』を前回の当欄にて取り上げている。だが今回の主役はカフカ鼾のもう一人、石橋英子である。シンガー・ソングライター、プロデューサー、マルチプレイヤーとして活躍する石橋英子の前作『car and freezer』(2014年)とその前作『Imitation of life』(2012年)は、エクスペリメンタルなロックを中心にリリースするシカゴのインディペンデント・レーベル、Drag Cityからのリリース(日本ではFelicity)となり、日本だけではなく世界をも相手に活躍するシンガー・ソングライター/マルチプレイヤーとなった石橋英子。ソロとしては6枚目となる新作『The Dream My Bones Dream』がじつに素晴らしい。前作のポップな曲調からはちょっと離れ、アルバムは不穏なムードを漂わせたドローン的電子音響「Prologue: Hands on the mouth」からスタート。トランペット(アイヴィン・ロンニング)以外はすべて石橋自身によるエレクトリック・フルート(ピックアップを付けたフルートのことか?)によるものというが、このオープニングからこのアルバムがなにかとんでもないものであることを予想させてくれる。中国のシンガー・ソングライターが石橋の日本語をベースに中国語詞をあてた2曲目「Agloe」、蒸気機関車の警笛の音から始まるモノトナスなリズム(機関車の動きを想起させて面白い)の「Iron Veil」……そしてラストのドリーミーな「Epilogue: Innisfree」まで、不思議な感覚のサウンドトラックのような作品となっているのだが、このアルバムにはカフカ鼾のジム・オルークと山本達久が全面的に参加しているということを知ればこの作風も頷けるものがある。ちょっと硬質でノスタルジックな雰囲気を、石橋のソロとしては初のハイレゾ(96kHz/24bit)でたっぷり味わっていただきたい。


 リマスターやボックスセットが大流行の昨今においても、このアルバムのリリースがやはりちょっとしたどころではない話題を提供したのは間違いないところだろう。ガンズ・アンド・ローゼズ。LAメタル全盛期の85年に結成されたこのバンドの正式なファースト・アルバムである『アペタイト・フォー・ディストラクション』のオリジナルは1987年7月に発売され、発売から1年をかけてチャートの1位を獲得。「ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル」や「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」「パラダイス・シティ」といった大ヒット・シングルを擁したこのアルバムは、その後さまざまな逸話に彩られることになるバンドの初期の歴史を封じ込めた、記念碑的な作品だ。アルバムとしても、次のアルバム『ユーズ・ユア・イリュージョン』、現時点での最新作『チャイニーズ・デモクラシー』と比べてやはりトータルとしてガンズの代表作と呼べるのがこの作品であることは言を俟たない。初出から31年の時を経て、ついにリマスター・アルバムが登場なのだ。話題にならないはずがない。それにしても今までこの名作がリマスターを施されてこなかったことは意外にも思えるが、このバンドが辿ってきた混乱の道のりを考えれば、リマスターどころではなかったということなのかもしれない。今回のこの初リマスターでは、時代に即してハイレゾ配信も用意されたのは当然と言えるだろうが、初期ガンズの荒々しくも生々しいセッションの様相を高音質で細部にわたって聴き込めるのはやはりうれしいものである。アクセル・ローズのレンジの広いヴォーカル、スラッシュとイジー・ストラドリンのそれぞれ個性の違うギタープレイ、ダフ・マッケイガンの多彩な表情を見せるベース、スティーヴン・アドラーのやんちゃなドラム、どれをとってもこのリマスター、そしてより高音質なハイレゾ(96kHz/24bitと192kHz/24bitの2種あり)で聴くことでこれまで気が付かなかった表情を確認することができる。なお、CD同様配信でも内容は複数あり、もっとも曲数の多い〈スーパー・デラックス・エディション〉は51曲、〈デラックス・エディション〉は30曲、オリジナル・アルバムと同じ12曲の、収録曲違いで3つのヴァージョンがあり、また配信のみでサンプリングレートが96kHzと192kHzの2種類あるものもあるので、購入の際は注意が必要かも。筆者としてはスーパー・デラックスの192kHz版を推すが、ロック的ダイナミズムを重視してあえて96kHzを選ぶというのもありだと思う。

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