東京を拠点とするプログレッシヴロック・バンド、
金属恵比須の春の恒例ライヴ〈猟奇爛漫FEST Vol.8〉が4月18日に東京・吉祥寺 シルバーエレファントで開催されました。
昨年、重鎮ドラマーの
後藤マスヒロが“終身名誉ドラマー”に就任し、ヨシダシンゴを常任ドラマーに迎えてから初となるライヴでは、最新作『
シン・武田家滅亡』のメドレーをはじめ、新曲も発表。2人のドラマーによる迫力のツインドラムも披露され、見どころ満載だった当日のレポートをお届けします。
なお、この日の模様はツイキャスにてアーカイブ配信中。アーカイブの販売期限は5月2日(土)23:59まで(購入してから31日間視聴可能)となります。
[ライヴ・レポート] 2023年に埜咲ロクロウ(b)、2024年に香珀香珀(key)が加入。2025年には重鎮ドラマーの後藤マスヒロが“終身名誉ドラマー”に昇格し、新たにヨシダシンゴが“常任ドラマー”に就任。金属恵比須は、ここ数年で大きく新陳代謝を遂げ、バンドとして新たなフェーズに突入した。そんな中で迎えた4月18日の〈猟奇爛漫FEST Vol.8〉はヨシダのお披露目であると同時に、事前告知されていた通り後藤マスヒロも出演し、二人の競演も繰り広げられた見応えたっぷりの一夜となった。
開演前のステージを見ると、向かって左にシンセサイザーが配置され、ギターアンプ、中央マイク、ベースアンプと並び、最右端にドラムセット、そして中央にもドラムセットが組まれた厳めしいセッティングが設えてある。ツインドラムへの期待が高まる光景だ。
照明が落ちていき、「映画『八つ墓村』組曲」が物々しくが流れる中、高木大地(g,vo)、香珀(key)、埜咲ロクロウ(b)、稲益宏美(vo)、そして新・常任ドラマーのヨシダシンゴが登場。大音量のSEに重ねて高木とロクロウがソロを鳴らし、楽曲スタートへの期待を盛り上げたところでライヴは「魔少女A」で幕を開けた。
「魔少女A」は、鋼鉄感みなぎるヘヴィメタルと80年代歌謡曲の香りが同時に味わえる楽曲。特に、ヨシダシンゴの重く、アグレッシヴなドラムがサビへ向かう流れを押し上げ、歌謡調で歌い上げる「大人の女に見えても心は純のまま」をいっそう際立たせていた。香珀も冒頭から全開で、ハモンド・オルガンをはじめ多彩な音色が次々と飛び出してくる。続く「鏡の中の女」も、スイング・ジャズ風でありながら、どこか湿り気のある歌謡曲ムードをまとった曲。女の情念を描かせたら随一の横溝正史の同名小説をモチーフにしているだけあって、香珀の流麗なピアノタッチと稲益の色気あふれる歌唱の応酬からは濃密な感情が立ち上がってくるよう。
ムーディーな2曲が披露された後、最初のMCでヨシダシンゴを紹介。力強いドラム演奏とは対照的にチャーミングな笑顔が特徴的なヨシダは、激しく体力を使う金属恵比須のライヴに備えて、プロテインを飲んで臨んだとのこと。リーダーの高木を会社組織風に“上長”と呼び、早速ブラックぶりに抗議して会場の笑いを誘った。
MC明けに披露されたのは、なんと2000年12月以来演奏されていなかった「病院坂の首縊りの家」。長年のファンを驚かせる選曲で、こちらも横溝作品をテーマにした曲である。「雪割草」や「真珠郎」など、高木大地はこれまでも横溝作品をモチーフにしてきたが、“金田一耕助最後の大仕事”を描いた超・名作を楽曲に仕上げたのが、高校3年生のときだったというのだから驚きだ。怪しげなリフに寄り添うストレンジなシンセ音、祭囃子、民謡調のメロディなど、若き日の高木が持っていた実験精神や挑戦心が随所に感じられる一方で、ロクロウの表情豊かなベース香珀の即興性あふれるヴァイオリン・ソロは、今のメンバーだからこそ到達できた完成度と言えるだろう。
アンセム「ハリガネムシ」のあと、MCを挟んで新曲のお披露目に。曲名は「祟りじゃあ!」。まだサビ以外の歌詞はなく、他の部分は「ラララ」で歌うというおなじみの荒業も飛び出したが、ブラック・サバスばりの不吉なリフに、エキゾチックなピアノが暴れまわるイントロに期待が高まる。陰鬱なAメロ、少し光が差すBメロ、そして岩崎宏美「聖母たちのララバイ」を思わせる“火サス風”のサビへと続く構成は、近年の金属恵比須の試みが凝縮。高木のギターソロもメロディアスで長く、表現力に磨きがかかっている。
タイトル「祟りじゃあ!」は名画『八つ墓村』での有名な台詞。原作はご存知、横溝正史。この日は、何かと横溝正史ネタを重ねてくる。名フレーズはどこに出てくるのかと待ち構えていると、何と最後の最後に登場した。思いっきり「八つ墓明神の祟りじゃあ!」と歌っている。香珀も鍵盤を叩きつけるように即興ピアノを弾きまくり、まるで憑かれたような妖艶さだ。怪奇めいたエネルギーがあふれつつ、まだまだ謎の多い新曲である。
ここで高木がダブルネック・ギターに持ち替えると、昨年末リリースの『シン・武田家滅亡』からメドレーへ突入。奏でられるサイケ風のフレーズに続き、レッド・ツェッペリンの「カシミール」を思わせる重厚なリフの「新府城」でスタート。この日は香珀がヴァイオリンでインスト曲の主旋律を担当し、幻想的な音色が会場を包み込む。これは香珀の発案だったそうで、“大河ドラマ感”も一層強まった感じだ。バンド屈指の人気曲「武田家滅亡」では、激しい盛り上がりの中でロクロウとヨシダシンゴのリズム隊が鋭く決まり、滅びへ向かう武士の終焉の想いを、確かな重みとして刻んでいるようだった。
会場が人気曲で盛り上がる中、静かに始まったドラムのマーチングが組曲「武田家滅亡」の最終章「天目山」へとつながっていく。そこへ“終身名誉ドラマー”というロック史上類を見ない肩書きを持つ後藤マスヒロがステージに登場。マスヒロがヨシダシンゴのマーチングに加わり、二人による小さなドラムラインが生まれ、それが「新府城」モチーフのリフレイン・パートでは壮大な乱れ打ち合戦に発展。『シン・武田家滅亡』では“一人でツインドラムを録音”していたが、今回は初めて二人で生演奏し、まるで集中砲火のような迫力で観客を圧倒した。
曲は終わり、改めてマスヒロが紹介されると、途中からの参戦について「(金属恵比須が)ブラックだから時短営業にした」と笑いを誘う。一方ヨシダシンゴは“シフト交代”となり休憩へ。ヨシダは「ちょうど右胸がつった」と話し、金属恵比須の演奏がいかに体力を消耗するかが垣間見えた。
続いて、昨年夏にも披露されたマスヒロ作曲の「Van Who(仮)」を演奏。バンドの中では、異色の英国風サイケロック・ナンバーで、後藤は「バンカラ風来坊」(?)と説明していたが、実は仮題には「Van Halen + The Who」の意味が込められている。高木のウィンドミル奏法も炸裂し、70年代ハードロックの香り漂うマスヒロのドラミングとロクロウのドライブ感あるベースが冴えわたった。
再び訪れたMCタイムでは、恒例の稲益&マスヒロによるMCタイムへ。「なんちゃっておじさん」など昭和感あふれる話題が続いたが、二人のゆるい掛け合いは濃厚な金属ライヴでは箸休め的な意味合いで欠かせない要素。
休憩からヨシダシンゴが復帰し、再びツインドラム体制に。終盤の目玉となる2曲目の新曲「八つ墓明神」が披露された。『八つ墓村』に登場する“祟り神”にして“守り神”をモチーフに、ツインドラムがメインのインスト・ナンバーを制作したのだという。演奏は、荘厳な和音の洪水に始まり、香珀のハモンドと稲益が鳴らす鉦の音が彩る中、二人のドラマーが圧倒的な競演を展開。同じパターンを重ねて叩いたり、フィルが交互に連打されたりと、情報量が多すぎて頭で追うのは難しいが、祭り囃子のようなリズムが強烈なグルーヴを生み、自然と身体が動いてしまう。突然ドラムが鳴りやみ、雰囲気が一変して幻想的なピアノソロへ。そこから再び最初のモチーフが戻ってくると、迫力は何倍にも増し、雷のような轟音が響き渡る。まるで神の怒りのようでもあり、厄払いのようでもある圧巻のサウンドで、この日のハイライトと言ってよい演奏だった。
そして、最後のMCへ。諸々の業務連絡の後、なんと今年12月にニュー・アルバム発売という大ニュースが発表に。ライヴ盤や『シン』シリーズを除けば約4年ぶりの新作スタジオ作となる。「映画『八つ墓村』組曲」BGMにはじまり、「鏡の中の女」、「病院坂の首縊りの家」と横溝ネタ満載だったこの日のライヴを振り返ると、次作のテーマは怪奇?女の情念?それとも横溝正史そのもの?と想像がふくらむ。
また、このMCでは画期的なことに「生成AI」の導入も。〈猟奇爛漫FEST〉では、楽曲「猟奇爛漫」の最中で、突然、観客を巻き込んでの“猟奇爛漫体操”が恒例となっているが、これを初参加の人にも分かるようにAIに説明させるという。観客が各自のAIに「猟奇爛漫体操とは?」と入力すると、誤回答もあったが、「Grok」を使っていた観客が「両手を上げてブラブラ揺らしながら“猟奇爛漫”と唱える」という正確な説明を提示。ロックMCの新時代を感じさせる場面だった。
ラスト残り2曲。「鏡の中の女」に続き再び女の情念を感じさせる「罪つくりなひと」では、怨念めいた稲益の歌唱で再び“火サス”の世界へと誘われる。ハモンドオルガンとギターの応酬も絶品。続く「猟奇爛漫」でもハモンドのリフが際立ち、王道70年代ハードロック調の2曲が、歌謡曲からシンフォロック、祭囃子と要素てんこ盛りだったこの日のライヴを鮮やかに締めくくった。「生成AI」のおかげで恒例の“体操”も完璧に決まった。
アンコールの前には、バンドの若手二人、埜咲ロクロウ(b)と香珀香珀(key)が場をつなぐ。思えば、埜咲ロクロウはライヴ全編を通して、見せ場だらけの超絶ベースプレイを披露。香珀は34台の鍵盤を駆使したほか、ヴァイオリンも奏で、鬼気迫るパフォーマンスでも圧倒。とにかく華のある二人は、将来の活躍も楽しみだ。若き日のプレイが観られたことはいつか自慢になるかもしれない。
ラスト・ナンバーは「イタコ」を演奏。こちらもライヴの定番曲だが、ツインドラムの圧倒的な迫力に加え、稲益の奇声も絶好調。会場を大いに盛り上げた。
金属恵比須は、70年代ハードロックやプログレ、シンフォニック、現代音楽、さらには歌謡曲までを取り込み、もはや一つのジャンルでは語れない独自のスタイルを築いている。前々作『武田家滅亡』の戦国テーマ、前作『虚無回廊』のSFテーマに続き、メンバーを大きく入れ替えた新体制で挑んだ本ライヴは、横溝正史作品に通じる“怪奇”の世界へ原点回帰した特別な夜となった。
ニュー・アルバムの詳細はまだ明かされていないが、この日の流れから、どんな作品になるのか期待がますます高まる。
撮影: 木村篤志
文: 川上影森UNXUN