リサーチ

フェリックス・クービンも周年祝いに来日 新潟から名盤・珍盤の扉を開くレーベル「SUEZAN STUDIO」

2026/06/05掲載
来日しているドイツの電子音楽家・フェリックス・クービンを日本に紹介したレーベル「SUEZAN STUDIO」のお薦めの作品を教えてください。
フェリックス・クービンも周年祝いに来日 新潟から名盤・珍盤の扉を開くレーベル「SUEZAN STUDIO」
 6月5日、ドイツ電子音楽シーンの重要人物・フェリックス・クービンの来日ツアーがついに始まります。

 D.A.F.デア・プランといったアーティストに象徴され、電気グルーヴなど日本のアーティストも影響を受けたドイツのニューウェーヴ“ノイエ・ドイチェ・ヴェレ”を受け継ぎ、10代から独自のポップ / アヴァンギャルドを探求してきたクービンを日本に紹介したのが新潟発のレーベル「SUEZAN STUDIO」。

 同レーベルは、ドイツのニューウェーヴの特異な電子音楽を中心に、日本のカルトなアーティストまで、知られざる名盤を世に出し続ける続ける一方、“モノの売れない時代だからこそ作る”という理念のもと、未再発作品をスポンサー制で復刻する「SUEZAN オンデマンド」も展開しています。

 クービンの来日ツアーも、SUEZAN STUDIO15周年を記念したもの。今回はマニアの愛を受け止める同レーベルの周年を祝い、敬意をこめて、膨大なカタログからお薦めの10作品をご紹介します。

フェリックス・クービン『ザ・テッチー・ティーネイジ・テープス・オブ』
 25年ぶりの来日ツアーであり、今回初の大阪公演も実現し、マニアを歓喜させているクービン。根強い支持を集めるのは、そのブレない実験精神と独特の音性。10代前半だった80年代初頭から音楽活動を始め、若干12歳で友人と“ディー・エゴツェントリッシェン2”を結成。12~16歳の記録をまとめた超初期作品『ザ・テッチー・ティーネイジ・テープス・オブ』には「Japan Japan」という楽曲も。TVゲーム風のチープ・サウンドに、日本語「カミカゼ~」の声は不思議なエキゾチズムがあり10代後半の作品とは思えない奇抜さです。

 その後、1998年に発表した1stソロ作『フィルムムジーク』で独自の存在感を確立。実験アニメーションのために制作された楽曲群は、奇怪さとノスタルジックなポップ感が同居し、当時エレクトロニカ流行の最中にあったリスナーの度肝を抜きました。

 今回の来日に合わせ、6月17日には日本向けに編纂したシングル集『アンティフォニーズ:ザ・シングル・コレクション』もリリースされます。




エスプレンドー・ジオメトリコ『プルソ・デル・アセロ:新幹線』
 エスプレンドー・ジオメトリコは、80年代から活動するスペイン発のインダストリアル・ユニットで、“工場の音を再現する”というコンセプトを持っています。まるで重機の律動のように硬質なビートが容赦なく反復するサウンドは圧倒的でありながら、スペインらしい肉感的なパッションが迸り、フロアも熱狂。中心人物アルトゥーロ・ランスは現在日本在住で、今回のフェリックス・クービン来日ツアーの東高円寺U.F.O.CLUB公演にも出演します。

 今年発売された最新作『プルソ・デル・アセロ:新幹線』では、収曲曲「Por un perro」で日本語ネタが炸裂。2009年作『Pulsion』収録の「JAPO」では2007年の都知事選の政見放送からの言葉を引用し話題を呼びましたが、本楽曲でも「攻撃」や「ゲームオーバー」などの不穏なワードが高揚感を煽ります。


ハルコとフランシス『ハモンハモン』
 THE COLLECTORSの元ベーシストにして、コーヒーゼリー・マニアとしてTVにも出演した小里誠のフレンチ・ポップ+ニューウェーヴなユニット“Francis”と異彩を放つ電子音シンガー・ソングライター“田島ハルコ”が2017年に発表したコラボEP。表題曲では、ハードなエレクトロ・ビートの上で、小里がD.A.F.のガビ・デルガドばりに妖艶な語り口で“生ハム”を描写。その挑発的なムードに、田島ハルコのノイエ・ドイチェ・ヴェレ的な鋭い奇声が重なり、強烈なコントラストを生み出しています。Francisも、今回のフェリックス・クービンの来日ツアーに出演します。



ディー・クルップス『全速前進』
 ドイツ初のパンク・バンド“メイル”のメンバーと、後にプロパガンダを結成するラルフ・デルパーによって結成されたディー・クルップスは、D.A.F.と並ぶ“ハンマービート”の先駆者として知られています。代表曲「真の労働・真の報酬」の一節は、電気グルーヴ「俺のカラダの筋肉はどれをとっても機械だぜ」の元ネタとしても有名。

 この曲を収録した2ndアルバム『全速前進』(1982)は、SUEZAN STUDIOによって日本で初めて公式リリースが実現しました。デビュー作『鉄工所交響曲』が自作の鋼鉄打楽器による金属的でストイックなサウンドだったのに対し、本作では表題曲や「Goldfinger」など、よりカラフルでポップな楽曲も増え、初めて触れる人にも入りやすい内容になっています。






デア・テクノクラート『Ruckzuck』
 来日ツアーも大盛況だったクラフトワークデビュー作を象徴する名曲「Ruckzuck」だけをリミックスした異色作。ディー・クルップス~プロパガンダで知られるラルフ・デルパーのプロジェクト、デア・テクノクラートが1991年に発表した唯一作で、クラフトワーク公認のカヴァー作品です。フルートによる原曲の印象的な旋律を活かしつつ、ディスコからアシッド・ハウスまで多彩なダンス仕様へと再構築した踊れる一枚。

クルックス『カネよこせ!』
 クラフトワークなども手掛けた、デュッセルドルフのデザイン事務所「インク・スタジオ」を率いたマイク・シュミットが中心となって結成されたバンド2ndアルバム。パンキッシュなタイトルとは裏腹に、ポップさと無機質さが同居するシンセ・ビートが魅力です。CD化にあたり追加収録された「Mensch und Ton」は、エレクトロなベースラインが光るキラー・チューン。

ディー・テートリッヒェ・ドーリス『日常における七つの死亡事故』
 1980年に旧西ベルリンで結成されたパフォーマンス集団、ディー・テートリッヒェ・ドーリス(“致死量ドーリス”)。日本では86年に2枚組LP『致死量ドーリス』が発売され、漫画家・楠本まきの同名作品の由来としても知られています。『日常における七つの死亡事故』は、81年のデビューEPをSUEZAN STUDIOが世界で初めてCD化したもの。奇妙な死亡事故をモノローグ調で語る表題曲が代表作ですが、スカスカの電子ビートに合わせて機械的にタイトルを叫ぶ「Tanz im Quadrat」も、不気味さを漂わせながら踊れる中毒的なナンバーです。

シャーク・ヴェガス『ユー・ハート・ミー』
 電気グルーヴ・石野卓球との交流でも知られ、ニュー・オーダーの2025年の来日時にはDJとして出演した欧州ニューウェイヴの黒幕、マーク・リーダーが率いたシャーク・ヴェガス本作は、80年代、ライヴ中心で活動していた彼らが公式リリースした2枚の12インチと未発表曲を収めたもので、ミックスはクラフトワークやノイを手掛けたクラウトロックの重要プロデューサー、コニー・プランク。タイトル曲や「Undercover Lover 006」などジョイ・ディヴィジョン、ニュー・オーダーのファンに刺さるポップで踊れる楽曲が並びます。



VA『クリスマス、おぼえてろ!』
 ZEのクリスマス・アルバムや『薄明のクレプスキュール・クリスマス』など、ニューウェイヴ系クリスマス・アルバムにはマニア心をくすぐる良作が多くありますが、80年代ドイツのアーティストが参加した本作も強烈。デア・プランやクルックス、S.Y.P.H.らが参加し、ドイツならではの多彩な質感・色合いを取りそろえた電子音が、聖なる夜を彩ります。D.A.F.~デア・プランに在籍したピロレーターの「Ein Weihnachtsmann Kommt In Die Disco(サンタクロースがディスコにやってきた)」は、ベルの音もメルヘンで特にキッチュ。

マウマウ『クラフト』
 最後にSUEZAN STUDIOが誇る「SUEZAN オンデマンド」サービスの第1弾作品をご紹介。本作は、D.A.F.創設メンバーのヴォルフガンク・シュペルマンスとミヒャエル・ケムナーらによるユニット“マウマウ”の唯一作。可愛らしいジャケットとは裏腹に、タイトでミニマルなドラミングとエレクトロニクスが反復する、ポストパンク志向のサウンドが魅力です。「Rhythmus der Trommel」ではトロピカルなギターも加わり、現代的な感覚にも通じる要素が凝縮。なぜこれまでCD化されなかったのか不思議なほど、粒ぞろいの内容です。

 普段出会わないような音楽を、新潟から発信し続けるSUEZAN STUDIO。100作を超えるカタログには、未知との出会いが詰まっています。個性的な邦題も魅力です。これを機に、名盤・珍盤の扉を開き、音の旅路を楽しんでみてはいかがでしょう。

[フェリックス・クービン・ジャパン・ツアー 2026]
2026年6月5日(金)東京・UFO_CLUB_TOKYO
2026年6月5日(土)東京・ゲーテ・インスティトゥート東京
2026年6月7日(日)大阪・environment 0g

(※写真はフェリックス・クービンのアーティスト写真)
最新リサーチ
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。