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東京ロッカーズ再燃 名曲で感じる日本インディーズ黎明期の熱狂

2026/03/27掲載
映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』で描かれる“東京ロッカーズ”や日本インディーズ黎明期のバンドの名曲が知りたいです。
東京ロッカーズ再燃 名曲で感じる日本インディーズ黎明期の熱狂
 パンクロック生誕50周年の世界的な盛り上がりと呼応するように、日本でも70年代末の“東京ロッカーズ”を中心としたパンク~インディーズ黎明期が再び注目されています。3月27日より公開の映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』では、1978年に東京で実際に起こったムーヴメント“東京ロッカーズ”が描かれ、当時の熱気がスクリーン再現。公開後には、原作者・地引雄一が主催した伝説的イベント〈DRIVE TO 80’s〉の最新版〈DRIVE FROM 80s〉が令和のLOFTで開催され、さらにスターリンのオリジナル・ドラマー、イヌイジュンによる著書『PUNK! 反逆の向こう側で』も刊行されるなど、当時のシーンが令和の世に存在感を放っています。

 今回は、映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』公開にあわせ、東京ロッカーズと映画に登場するバンドを中心に、その魅力に迫ります。

 “東京ロッカーズ”とは、ミュージシャン/プロデューサーのS-KENが六本木に所有した「S-KENスタジオ」で行なわれていたイベント名で、同スタジオを拠点に活動したアーティストの総称でもあります。彼らの1979年3月新宿LOFTでのライヴ音源を収めたオムニバス盤『東京ROCKERS』(1979)は、日本のニューウェイヴ史を語る上で欠かせない作品。まずは、収録バンドに注目していきます。

フリクション「Crazy Dream」
 レック(b)とチコ・ヒゲ(ds)がニューヨークでノー・ウェイヴ・シーンの中心的存在であるティーンエイジ・ジーザス&ザ・ジャークスザ・コントーションズに参加した経験を持ち、その影響を東京に持ち帰ったバンド。『東京ROCKERS』には、「せなかのコード」「Cool Fool」が収録されていますが、初期の名曲では1stアルバム『軋轢』(1980)に収録される「CRAZY DREAM」も。鋭利なギターリフと強靭なベース、吐き出される考えるより感じたい“名言”が、空間を切り裂くように駆け抜けます。3月26日には同曲を含むデビューEP『Crazy Dream』が7インチで復刻され、より荒々しく前のめりな演奏が味わえます。初期はザラついた不協和音や、ワンコードで直線的にすすむグルーヴなど、NYパンクの影響を感じますが、レックに加え、イマイアキノブ、佐藤稔の布陣で放った95年の『ゾーン・トリッパー』の表題曲は、全ロック・ファン必聴のストレートな格好良さが響きます。



S-KEN「DISCOVER CHINA」
 東京ロッカーズの中心人物として、多くのインディ・バンドを支え、その後もクラブ・イベントの主催やワールド・アパート設立、PE’Zなどのプロデュースを通じて音楽シーンに大きく貢献したS-KEN。1975年の渡米でNYの空気を体感した彼は、ブーガルーやサルサ、レゲエ、パンクの熱気と都会的センスを融合させた名盤『魔都』(1981)を発表。昭和レトロとSFが混ざるジャケットも象徴的で、タイトル曲や「サクサク」など名曲が並ぶ中、中華フレーズが独特のムードを醸す「DISCOVER CHINA」も粋で幻想的。後のhot bombomsでの作品ではファンカラティーナ色が強まりますが、パンク・ニューウェーヴ濃度が強い『魔都』も聴き逃せません。



LIZARD「Kingdom」
 映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』では、物語の中心的存在として描かれるLIZARD(劇中ではTOKAGE)も東京ロッカーズの象徴的なバンド。映画では代表曲「宣戦布告」のカヴァーがEDテーマに使用され、若葉竜也がヴォーカル役を演じています。78年にS-KENスタジオに出演する頃にはすでに人気を確立していた彼らは、シンセやキーボードが際立つ音作りで、『東京ROCKERS』に収録される「ROBOT LOVE」「REQUIEM」でもディーヴォにも通じるポップでストレンジなシンセパンクを展開。79年にはザ・ストラングラーズジャン=ジャック・バーネルのプロデュースで1stアルバム『LIZARD』を発表し、ラスト曲「Kingdom」はモモヨのエキセントリックな歌唱と孤独を映す詞がバンドの本質を体現する楽曲となっています。峯田和伸演じる地引雄一が撮影した、京葉コンビナートと黄色い月を写したジャケットは、東京パンクスのある種の美学を感じ、バンドの世界観ともぴったりと重なっています。

 地引雄一は、のちにテレグラフ・レコードを立ち上げ、LIZARDの年表を付属したライヴ盤『彼岸の王国』をリリースします。同作には「Kingdom」の別ヴァージョンも収録されており、映画を観たらこちらも聴きたくなるでしょう。


ミラーズ「衝撃X」
 フリクションの前身バンドである3/3で活動し、のちにフリクションにも加入するヒゴヒロシが1977年に結成。ヒゴヒロシは、日本初のパンク専門レーベル「ゴジラ・レコード」も立ち上げています。S-KENスタジオで録音された1stシングル「衝撃X」では、彼がドラムを叩きながら言葉を吐き出すスタイルが際立ち、粗削りなギターが、初期パンクの直情性に溢れていてたまらない一方、サビは意外にポップで、「君に捧げたい 光の花束」といった歌詞も印象的。2024年にLPで復刻されたゴジラ・レコードのコンピ『ゴジラ・スペシャル・ディナー』で聴くことができます。



Mr.Kite「Innocent」
 『東京ROCKERS』に収録された唯一の女性ヴォーカル・バンドで、ミラーズ同様ゴジラ・レコードからS-KENスタジオ録音の7インチ「共犯者 / Exit B9」(1978)を発表。両曲とも、文学性の高い詞で、パティ・スミスを彷彿とさせます。こちらは『ゴジラ・スペシャル・ディナー』で聴くとこが出来ますが、「Innocent」は『東京ROCKERS』と2001年にリリースされた『ライヴ・イノセント』に収録。冷たく硬質なギターとベース、テレヴィジョン直系の演奏、そして詩を朗読するようでリスナーを揺さぶるジーンの中性的な声が、疼くような余韻を残します。

 映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』には、他にも伝説として語り継がれているバンドが登場します。

ZELDA「東京TOWER」
 映画で吉岡里帆が演じる“サチ”のモデル・小嶋さちほを中心に結成。ミニコミ発行や地引雄一、LIZARDのモモヨとのレーベル設立など、その行動力は日本のガールズ・バンドの先駆けにふさわしいもの。映画ではモモヨが手がけた、今年5月にLP復刻も発表されている1st収録曲「ロボトメイア」が劇中曲として使われますが、ムーンライダーズ白井良明プロデュースの2nd『CARNAVAL』も必聴。小嶋が作詞作曲した「東京TOWER」は、飛び降りの瞬間をファンタジックに描いたインディーズらしいシニカルさに痺れます。

暗黒大陸じゃがたら(JAGATARA)「でも・デモ・DEMO」
 中村獅童が、劇中名“ヒロミ”として熱演した江戸アケミ率いるバンド。日本のロックでいち早くパンクにファンクやアフロビートを取り入れ、江戸アケミの「自分の踊り方で踊ればいいんだよ」という言葉の通り、“踊れるロック/踊れるパンク”を切り開きました。一方で魅力の核心には、借り物ではない強烈なメッセージ性と原始的なエネルギーがあります。暗黒大陸じゃがたらに改名し、82年に発表した『南蛮渡来』収録の「でも・デモ・DEMO」は、「あんた気に食わない」で始まる、衝撃的かつ短いフレーズが繰り返され、土着から湧いてきた“祭り”の狂熱と覚醒が同時に押し寄せるような迫力を放っています。

ザ・スターリン「ワルシャワの幻想」
 映画では、フロントマン・遠藤ミチロウ(劇中・未知ヲ)の過激なステージングが強烈な印象を残す存在として描かれますが、暴発するような演奏で、自分や社会への憎悪・矛盾・狂気を突きつける歌詞は、「ロマンチスト」に代表されるように一度聴くと忘れがたいもの。社会批判のスタンスをとるパンクの中でも独自性が際立ち、「パンクとは何か」を問い直す存在でもあります。これには、3月に発売された『PUNK! 反逆の向こう側で ザ・スターリンたちはなにを歌ったのか?』を読んで頂くとして、デビュー・アルバム『STOP JAP』収録の「ワルシャワの幻想」は、「俺の存在を頭から輝かせさせてくれ! お前らの貧しさに乾杯!」の詩が、とにかく抑圧された日々に痛快なほど効きます。

 最後に、監督・田口トモロヲが組んでいた伝説のバンドにも触れておきたいと思います。

ばちかぶり「ONLY YOU」
 映画で描かれた70年代後半の日本のインディーズ黎明期の後、80年代には多くのインディーズ・レーベルが出現。その最大手の一つがケラリーノ・サンドロヴィッチが設立したナゴムレコードで、ばちかぶりはレーベルを代表するバンド。東京ロッカーズの後続とも言え、監督は先駆者たちへのリスペクトを込めて映画を制作したと語っており、その思いを伝えるように、試写会では代表曲「ONLY YOU」が峯田和伸ら出演者と監督自身のリードヴォーカルで約40年ぶりに披露され、大きな話題となりました。この曲は筋肉少女帯大槻ケンヂのソロ・デビュー作でもカヴァーされています。




 1978年はセックス・ピストルズが終焉し、ジョン・ライドンPiLが登場した転換期で、日本でも不協和音やダンス・ビートによる、より鋭利で踊れるサウンドの存在感が増しています。『東京ROCKERS』をはじめ、入手困難な作品が多いのですが、映画公開を機に再発、再々発が進めば、当時の熱気に触れることができる機会が広がりそうです。

(※写真はLIZARD『LIZARD』のジャケット)
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