リサーチ

再燃する80s 戸川純からヒカシューまで、今こそ観るべきレジェンド

2026/05/08掲載
現在も活動している、80年代パンク/ニューウェーヴのアーティストのお薦めを教えてください。
 東京ロッカーズを描いた田口トモロヲ監督作『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』の公開に続き、新宿LOFTで行われた伝説イベントの令和版〈DRIVE FROM 80s〉も大盛況で終了。さらに8月23日には映画『ROCKERS』上映会とミラーズの復活ライヴも控え、80年代パンク / ニューウェーヴ再燃の波は、世界的なパンク50周年とも共鳴し勢いを増しています。

 今回は現在活動し、ライヴも体感できる80年代パンク / ニューウェーヴ・アーティストをリサーチ。その中から、お薦めを名曲・名盤と共にご紹介します。

戸川純「赤い戦車」
 80年代に歌手・女優として活躍し、“サブカルの女王”とも称される戸川純。無垢で淡々とした歌唱から鬼気迫る巻気下までを駆使して表現する、狂気と純真が渦巻く世界観は、唯一無比の体験をもたらしてくれます。80年に上野耕路太田螢一とのゲルニカで、戦前音楽×テクノという異色のサウンドでデビュー。その後ヤプーズを結成し、84年のソロ作『玉姫様』で強烈な個性を確立。2019年にヤプーズを復活させ、中原信雄(b)、ライオン・メリィ(Key)、矢壁アツノブ(ds)、山口慎一(Key)、そして急逝した石塚“BERA”伯広(g)の代わりにヤマジカズヒデ(g)を迎えて本格再始動し、国内のみならず海外公演も巡って、世界中の人々を圧倒し続けています。

 近年は「好き好き大好き」がバイラルヒットし、「愛してるって言わなきゃ殺す」のフレーズがZ世代をも魅了。パッヘルベルの「カノン」をバックにした激重ラヴ・ソング「蛹化の女」(『玉姫様』収録)、「パンク蛹化の女」(『裏玉姫』収録)も現在のライヴでも圧巻のハイライト曲です。一方、血を重ねられ凝固した“赤色”と表現し、「生きるために生まれたんだと確信する色」と力強く歌う「赤い戦車」(『ダイヤルYを廻せ!』収録)は、狂気も孕みつつも、生命の圧倒的な存在感突き付け、胸を揺さぶる一曲。現布陣による『ヤプーズの不審な行動 令和元年』での、よりインダストリアルなヴァージョンもお薦めです。




ヒカシュー「もったいない話」
 1978年に結成され、プラスチックスP-MODELと並ぶ“テクノ御三家”として知られる伝説的バンド。何と一度も活動休止せず、近年は毎月ライヴを行なうほど精力的。2025年には27枚目のアルバム『ニテヒナルトキ-念力の領域-』も発表しました。サウンドの核は、DIY精神あふれる電子音に民族音楽やエキゾ、ファンクを混ぜた多国籍な音像。そして、喉歌“ホーメイ”の日本の第1人者としても知られる巻上公一の演劇的な歌唱が、突然の奇声やこぶしを交えながら聴く者を異世界へと誘います。

 1stアルバム『ヒカシュー』には「レトリックス&ロジックス」「プヨプヨ」「20世紀の終りに」、クラフトワークの日本語カヴァー「モデル」など代表曲が並び、2ndアルバム『』も加藤和彦近田春夫のプロデュース曲が揃う必聴盤。サックスとトランペットが荒れ狂う、ヒステリックな曲展開がたまらない「もったいない話」収録の7枚目のアルバム『はなうたはじめ Humming Soon』も、アルバム・タイトルと言い、荒木経惟によるジャケット写真といい最高です。








突然段ボール「夢の成る丘」「もう学校には行かない」
 蔦木栄一(vo)、俊二(g)の兄弟により1977年に結成され、フリクションもリリースした伝説的レーベル〈PASS RECORDS〉より、アンセム「ホワイト・マン / 変なパーマネント」や1stアルバム『成り立つかな?』などを発表。フリージャズや即興音楽をパンクで表現したサウンドは、PANICSMILE向井秀徳らにも影響与えました。捻じれた反逆精神と人間味ある歌詞が魅力で、短いフレーズを畳みかける「夢の成る丘」を収録した91年作『抑止音力』は必聴。2003年に栄一が死去してからは、俊二を中心に活動を続け、2008年には名曲「もう学校には行かない」を収録した2008年作『D』もリリースしました。最新作『変色するスカーフ』では、その昔出演した『イカ天』で演奏した「凍結」の新ヴァージョンも聴けます。





コンクリーツスタイルブック
 shim-con-kang(vo)を中心に、1980年に結成。80年代に異彩を放った、ドドンパとレゲエを基調としたサウンドは斬新かつモダン。昭和の夏祭りの埃っぽさと南国情緒、そしてニューウェーヴの硬質さが同居する音楽性は他に類を見ません。2004年には何と、じつに35年振りとなるアルバム『スタイルブック』を発表。オーガスタ・ダーネルを思わせるトロピカル・ナンバー「Fast Food Crisis」やテクノポップ歌謡「ときめきそしてとまどい」など、多彩なジャンルを取り込みつつ、妖しい夜景を思わせる世界観が貫かれています。



コクシネルボーイズ・ツリー
 めんたんぴんの池田洋一郎とその妻である野方攝を中心に1980年に結成。前衛的なバンドが集結した伝説的シリーズ・イベント“天国注射”への出演でも知られます。1986年にリリースされた1stアルバム『ボーイズ・ツリー』は、結成メンバーの工藤冬里Maher Shalal Hash Baz)をはじめ、早川岳晴石渡明廣山際英樹ら個性派たちが集結して録音。透明感のあるシンセやギター、躍動感のあるベースにのせて、夜の森や雑踏に感じる高揚を表現した「夜の歌」は、夜遊びを覚えた若者から日常から逃避したい大人までの心を攫っていきます。



NON BANDNON BAND
 1979年にノンとケイコの女性デュオとして始まり、のちにノン、山岸騏之介(vln)、玉垣満(ds)のトリオで活動。「DUNCAN DANCING」を収録した1st『NON BAND』では、プリミティヴなグルーヴと、野生的で時に残酷さも帯びるノンの詞世界、エキゾチックな音像が独特の空気を生み出しました。特にアラブ音階渦巻く「GHETTO」から3拍子につながっていく「WILD CHILD CAN'T STAND IT」への流れは必聴。活動休止を経て2000年に再始動し、現体制ではアコーディオンの佐々木絵実を迎え、2022年に40年ぶりの新作『NON BAND II』を発表。より濃厚な多国籍サウンドへと進化しています。





GUNJOGACRAYONグンジョーガクレヨン
 坂本龍一『B-2 Unit』にも参加した異能ギタリスト、組原正を中心に1979年に結成されたGUNJOGACRAYONは、〈PASS RECORDS〉の一翼を担い、冷たく鋭い不協和ギターと硬質なビートで組み上げる、ポスト・パンクの象徴とも言えるサウンドが特徴。1980年に発表されたセルフタイトル作が再発された際は、当時のインストロック・ブームと重なり若い世代にも衝撃を与えました。2016年には4thアルバム『GUNJOGACRAYON』もリリースし、現在も都内を中心にライヴ活動を行なっています。

Canis Lupus「Thorn of Death/死の棘」
 『FOOL'S MATE』初代編集長で〈トランス・レコード〉主宰の北村昌士が、1988年~90年にかけてYBO2と並行し、ILL BONEの箕輪政博(ds)、川上慧二郎(g)と活動したトリオ。代表曲「G.T.O」をはじめ、プログレ色の強い作風ながら、ニューウェーヴやパンクの感性から到達したサウンドは日本のプログレ~ジャズロック勢の中でも異色です。名曲「天使」を収録した19990年発表の3rdアルバム『Aqua Perspective』が代表作として挙げられますが、2ndアルバム『Canis Lupus II』収録のライヴ定番曲「Thorn of Death/死の棘」も聴いてほしいところ。破滅的で観念的な詩、祝祭的なサビは刺さる人には刺さります。現在は箕輪政博を中心にヤマジカズヒデ、森川誠一郎と再始動し、今年、再録と新曲を収めた『Canis Lupus』を発表。Z.O.A終幕後の森川の歌唱とヤマジのギターが、名曲群に新たな魅力を与えています。

 80年代から活動を続ける現役バンドは、AUTO-MOD有頂天をはじめ他にも数多く存在します。〈DRIVE FROM 80s〉では、リザード・トリビュートとして登場した宙也率いる極東ファロスキッカーや、有頂天のKERAが田渕ひさ子ら実力派女性陣と組んだKERA & Broken Flowersなど、名義を変えながら活動を続けるアーティストも健在。

 バンド名だけでなく、参加メンバーの名前で検索すれば、思わぬ形で再会できるレジェンドも多く、当時の空気を現代に味わえる貴重な機会が広がっています。

(※写真は『ヒカシュー』のジャケット)
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