ミニ・レビュー
全英チャート2位を記録した新人4人組のデビュー作。ジョイ・ディヴィジョンを引き合いに出した陰の魅力ばかりが強調されがちだが、静と動のコントラストで彩られたサウンドには、陽の魅力もいくばくか。模倣に終わらぬ本歌取りのセンスを感じさせるメロディアスな好盤。
ガイドコメント
英国出身のロック・バンド、エディターズのデビュー・アルバム。本作は、すでに本国ではチャートの2位を獲得し40万枚以上の売り上げを記録している作品で、ジョイ・ディヴィジョンを彷彿とさせる世界が聴ける。
収録曲
01LIGHTS
デビュー・アルバム『ザ・バック・ルーム』のオープニングを飾るのがこの曲。ダークなニューウェイヴ・サウンドが気だるく燃え上がり、青白い炎のような美しさで暗闇をゆっくりと照らし出していく。官能的で憂鬱なメロディに酔える一曲だ。
02MUNICH
全英シングル・チャートでトップ10入りを果たし、バンドの名を一躍世間に轟かせた2ndシングル曲。鋭角的なギターと垂直なビートが描き出す闇をはらんだ扇情的なダンス・ビートは、ジョイ・ディヴィジョンの再来を思わせる。
03BLOOD
デビュー・アルバム『ザ・バック・ルーム』から先行リリースされた3rdシングル曲。80年代的なサウンドを踏襲しつつも、流れ込むようなサビの美しさとダイナミックさで、21世紀のUKバンドの最前線を見せつけた会心の一作。
04FALL
光と闇、希望と絶望の間を行き来するメランコリックな作品。圧倒的な煌めきを見せるギターのフレーズはU2の「With or Without You」を彷彿とさせる。また、曲を彩る賛美歌のようなコーラスが天上の光のように美しい。
05ALL SPARKS
痙攣するギター・カッティング、しなるベース・ライン、転がるようなドラムのビート、それらすべてのセッションが猛烈な勢いで火花を散らし、渾然一体となって炎上する。UK特有の美しさとロックのダイナミズムが理想的な融合を果たした一曲だ。
06CAMERA
心音のように柔らかいビートの上に広がる無数の波紋のようなメロディのシンフォニー。勢いだけのニューウェイヴ・フォロワーでは絶対に生み出せない、突出したソングライティング力を見せる、ドラマティックなバラード曲だ。
07FINGERS IN THE FACTORIES
直系ニューウェイヴ・サウンドで聴かせながらも、サビで急激な転調を見せるなど器用な一面を見せてくれる。実にさり気ないので見落としがちだが、こういったギア・チェンジの上手さがエディターズの上手さであり、魅力だろう。
08BULLETS
記念すべきデビュー・シングル曲。いわゆるニューウェイヴ風味なスカスカ・サウンドではなく、ギター・ロック・バンドとしての色が濃いが、エディターズ特有のダークなメロディはこの時点でしっかり確立されている。
09SOMEONE SAYS
落下していくような怒濤のセッションから一転、サビでは一気にアガるフレーズを入れ込んでくる。スリリングな展開もさることながら、スピード感のある曲調でジェットコースターさながらの興奮を味わうことができる。
10OPEN YOUR ARMS
各パートが少しずつ絡まり合いながら静かにサウンドを織り上げていく、繊細かつ美しい一曲。陰影に富んだサウンドが描き出す、極上のシンフォニーがひたすら美しい。圧倒的なサウンドスケープに号泣必至の名曲だ。
11DISTANCE
エレクトロニカ的な要素も採り入れられた、メランコリックな一曲。情景豊かなサウンドスケープが、甘さと儚さを伴いながら、霧のように拡散して空間を塗り替えていく。平面的になりがちなこの手のバンドには珍しい、立体的な奥行きを持った一曲だ。
12COME SHARE THE VIEW
突き刺さるようなビートと野太いベースの上で陰影のあるギターとヴォーカルが、圧倒的な煌めきを見せる。痛みと失望の底から沸き上がる救済にも似た祈りのメロディが美麗。
13TIME TO SLOW DOWN
シンプルなギターのアルペジオとコーラス・ワークがほぼ全編を占める、エディターズとしては珍しく明るめの曲。中盤から滑り込むように入ってくるハート・ビートな4つ打ちリズムなど、ほっとさせられる作品だ。