ピアニスト 林 正樹が奏でる“新しい室内音楽”

林正樹   2015/09/18掲載
はてなブックマークに追加
林 正樹
『Pendulum』
 高校1年生の時にたまたま図書館で借りたビル・エヴァンスの「いつか王子様が」をきっかけに、ジャズ・ピアニストを志した林 正樹。最近彼は、渡辺貞夫クァルテットでも活躍している。ただし、林は、“間を奏でる”をはじめとするさまざまなプロジェクトやソロ活動では、違った姿を見せる。ソロ名義の新作『Pendulum』に参加しているのは、藤本一馬(g)、徳澤青弦(vc)、Fumitake Tamura(electronics)、ジョアナ・ケイロス(cl)、そして一昨年に日本で初共演したアントニオ・ロウレイロ(vib, voice)。顔ぶれおよび楽器編成から、『Pendulum』がジャズ・アルバムでないことは容易に想像できるだろう。こんな最新プロジェクトでの林は、まだ適当な呼称が与えられていない新しいレベルの、アコースティックな室内楽を奏でている。
――林さんの活動およびこの最新プロジェクトは、“ジャズ”という枠を超えていますが、ここに至るまでの間には何か大きな転機となった経験がありそうですね。
 「僕は大学に通いつつ、佐藤允彦さんや国府弘子さんのもとでジャズを学んでいたんですけど、大学在学中に国府さんの紹介で民謡歌手の伊藤多喜雄さんの南米ツアーに参加させてもらいました。で、この時にカルチャー・ショックを受けた。というのも、ピアニストとして伊藤多喜雄さんの音楽になかなか対応できなかったから。ジャズは基本的にコード進行の変化に沿ってアドリブを展開していく音楽ですが、民謡はコードがほとんど変化しない。でも、その中で尺八や三味線奏者の方は自由に演奏している。おまけに伊藤さんの音楽は、ジャンルの垣根がない。それ以前の僕は、アドリブといえば、ジャズだと思っていたけれど、アドリブが重要な要素になっている音楽は他にもたくさんあることを知った。だから割と早い時期からジャズ一辺倒ではない道を志すようになりました」
クリックすると大きな画像が表示されます
――『Pendulum』は、どのようなプロセスを経て完成に至ったのでしょうか。
 「これまで僕はソロ作や間を奏でるのアルバムをリリースしてきましたが、この新作のように1枚の中で、ソロもあれば、デュオもトリオもあり、エレクトロニクスを加えた曲もあるというものは作ったことがなかった。また、今回は異なるミュージシャンとデュオやトリオ編成で演奏している曲があり、その中には最初からこの人たちに入ってもらうことを想定して作った曲もあります。たとえば〈Butt〉は、最初からロウレイロのヴォイスが入ることを念頭に置いて作った曲です」
――一昨年、林さんや藤本一馬さんがメンバーのクワイエット・ドーンがアントニオ・ロウレイロと共演したライヴは、とても刺激的でした。
 「あの時、ロウレイロ抜きで僕の曲を3曲ほど演奏したんですけど、彼がすごく興味を示してくれ、その後も“ぜひ一緒に何かやりたい”とメールで連絡してくれてたんです。で、当初は彼が僕をブラジルに呼んでくれるという話だったんですけど、その企画が実現には至らなかったので、新作に参加してもらおう、と。以前の僕は、リアルタイムで一緒に演奏しないと、生きた音楽は生まれないと思っていた。もちろん、現在もそういう意識は持っていますけど、今回のように参加してくれるミュージシャンが自由に演奏できる部分を残しつつ、曲を作れば、たとえリアルタイムで一緒に演奏しなくても、生きた音楽を作れることが分かりました」
――ピアノとエレクトロニクスという組み合わせによる「Teal」は、この新作のキーとなる曲ですね。
 「〈Teal〉はもともと4年くらい前に作った曲で、今回は再録ですが、自分にとって大切な曲です。この曲を作った時、自分の作風の変化に気づいたというか、次の段階に入ったと思った。メロディの主張はさほど強くなく、分かりやすい曲でもないけれど、力を抜いて演奏することができ、しかも自分がピアノと対話しているような気持ちにもなる。だから初めての会場でライヴをする時は、この曲を1曲目に弾くことが多い。弾いている間に会場の音の響き具合を察知するためにも。〈Teal〉は浅葱色や鴨の羽色と呼ばれる色のことですけど、この曲は抽象的でありながら難解ではなく、しかもいくつかの色が混ざった中間色ような曲だと思ったので、このタイトルになりました。エレクトロニクスを加えたのは、プロデューサーのアイディアですが、自分が創りたいと思っている音楽の方向性に合っていると思ったので、お願いしました」
――「Teal」はピアノ曲然としていないピアノ曲というか、抽象性と具象性が絶妙なバランスでミックスされている。しかもエレクトロニクスが入っていても、アコースティックな音の響きが基調となっている、新しい段階の室内楽という感想を抱きました。
 「近年の僕は、静かだけど、何か尖ったものが込められたような音楽を追求しています。だからこの新作の中には、ドラムスやパーカッションが入った曲は1曲もなく、静かな曲ばかり。ただし、静かでありつつも、緊張感のある曲ばかりだと思ってます。その意味でも、〈Teal〉は重要な曲ですね」
取材・文 / 渡辺 亨(2015年8月)
| SPIRAL RECORDS presents
Special Showcase Live 2015 ≪touch to silence≫

www.spiral.co.jp/e_schedule/detail_1577.html
クリックすると大きな画像が表示されます
2015年9月23日(水・祝)
東京 南青山 スパイラルホール (スパイラル3F)
開場 16:00 / 開演 17:00
3部構成 / 入れ替えなし / 途中20分程度の休憩2回あり
前売 4,800円 / 当日 5,500円(税込 / 全席指定 / ドリンク別)


[出演]
□丈 青(p)with 秋田ゴールドマン(b), Fuyu(ds)
□林 正樹(p)with Fumitake Tamura a.k.a Bun(Electronics)アントニオ・ロウレイロ(vib & voice)
□藤本一馬(g)with 林正樹(p), 橋爪亮督(sax)
Lounge DJ: 柳樂光隆(Jazz The New Chapter) / 山本勇樹(Quiet Corner)
shop: TOKYO FAMILY RESTAURANT / HMV


主催: 株式会社ワコールアートセンター
企画制作: スパイラル
協力: ALT.NEU.Artistservice
※お問い合わせ: スパイラル 03-3498-1171



オール・ジャンル 最新CDJ PUSH
 
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[インタビュー] ノリとヴァイブスだけで作った音楽を“ヒップホップ”としてパッケージ化する GRADIS NICE & YOUNG MAS(Febb)[インタビュー] 密接な関係性ありきの音楽 MIKUMARI×OWL BEATS『FINEMALT NO.7』
[インタビュー] (想像以上に)挙動不審!? 廣瀬真理子が総勢22人の“ドリアンな奴ら”を率いてアルバムをリリース[インタビュー] 「知らない土地で出会う風景や人から音楽が生まれる」 ――ピアニスト、ジェイコブ・コーラーが描くシネマティックな世界
[インタビュー] 上原ひろみが驚異のハープ奏者エドマール・カスタネーダとのデュオ・プロジェクトを始動[インタビュー] “いいっすよ”から17年――サイプレス上野とロベルト吉野、ミニ・アルバム『大海賊』でメジャー・デビュー
[インタビュー] “今この時”を、考える――中村雅俊が「どこへ時が流れても / まだ僕にできることがあるだろう」に込めた同世代へのメッセージ[インタビュー] “何があっても”楽しく生きるんだという覚悟 真心ブラザーズ『FLOW ON THE CLOUD』
[インタビュー] サクソフォン四重奏を知らないかたにも素晴らしさを伝えたい――The Rev Saxophone Quartetが追求する伝統とオリジナリティ[インタビュー] ヒグチアイが目指す歌は、おしゃれじゃないけど“大切にしてきたもの”
[インタビュー] 若いリスナーにも良い音楽を届けたい――MASATOとMinnesotahが語る『KANDYTOWN LIFE presents “Land of 1000 Classics”』[インタビュー] Less Than TV25周年 大石規湖監督が記録した“ある家族”の日常、ドキュメンタリー映画「MOTHER FUCKER」
弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015