カート・ローゼンウィンケル 多彩なプロジェクトを抱え、レーベルを主宰する人気ジャズ・ギタリストに聞く八面六臂の活動

カート・ローゼンウィンケル   2023/06/19掲載
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 パット・メセニーやジョン・スコフィールド以降の、ジャズ・ギタリスト……。その筆頭に挙げられるのが、カート・ローゼンウィンケルではないだろうか。まさにギター・ヒーローとも言うべき高い評価を獲得している彼だが、その実ローゼンウィンケルの活動はギターやジャズという項目にとどまらず、しなやかにして八面六臂。しかもドミ&JD・ベックのデビュー作をはじめゲストを請われることも少なくないのに、彼は米国から離れドイツに居住している。その多彩な広がりを支える自己レーベル“ハートコア”のことを含めて、彼の活動にある機微を問いただす。
――ぼくはたぶんあなたの日本でのライヴをすべて見ていると思いますが、本当に全部違う設定です。自己トリオやカルテット、ブラジリアン・ポップに臨むカイピ・プロジェクト、冒険プロジェクトのバンディット65、レベッカ・マーティンやバッド・プラス公演への同行。さらには、石若駿のトリオへのゲスト参加までしています。あなたは本当に好奇心旺盛に、自分のやりたいことを自由にやっていると思います。
「(笑)。うん、たしかにラッキーにも僕は好きなことにあたれ、やりたいことを本当にできているよね」
――ハートコアという自分のレーベルを今持っているということは、好きなことをやり、それを思うままアルバム・リリースできるという自由に繋がっていますよね。
「かつてECMやブルー・ノートとかいろんなレーベルと話をして、彼らはそれぞれに興味を持ってくれたんだけど、それぞれ僕の違う面に対して関心を寄せてくれた。それはそれでいいんだが、どんなことでも自分のものとして気兼ねなく発表できることを僕は求めた。僕にとって、それぞれのプロジェクトは、星座のようなもの。僕の音楽は天空のようなもので、そこにさまざまな星座があり、それらが連なって僕の音楽世界をなすんだ。曲を書くと、これはカイピ(多重録音多用の、ブラジリアン・ポップ・プロジェクト)にあてはまるとか、次の曲を書くとこれは別の星座のほうに当てはまるという感じで、どんどん自分の表現が広がっていく」
――ロック・アルバムも出す予定があるんですか?
「2曲は出しているけど、アルバムまだリリースしていない。だけど、ロックも僕の星座のひとつだ」
――それって、どういうロックでしょう。親和性を持つアーティストだと誰?
「そうだねー、僕はデヴィッド・ボウイが大好きなんだ。あと、キンクスとか、AC/DC……(笑)。いろんな傾向の担い手が好きだけど、ビーチ・ボーイズのような自分のスタイルを持っている人たちが好きだ。で、どこか翳りがあるのがいいな」
――そのロック傾向にあるものは自分で歌うんですか? 
「うん、歌っているよ」
カート・ローゼンウィンケル
Photo by Janette Beckman
――ギタリストとしてエスタブリッシュされていますが、一方ではちゃんとサウンド・プロダクションもできるし、歌うことも好き。というように、あなたはギタリストでありつついろんな顔を持っています。だって、ピアノ・アルバム(『プレイズ・ピアノ』)まで出してしまっていますから。たとえば、すごいギタリストですねと言われるのと、いろんなことができる幅広い才覚をお持ちですね言われるのでは、どちらがうれしいですか。
「(笑)うーん。自分にとって大切なものがときにはギターであり、ときにはピアノであるんだ。ときにはドラムだし。ビートは大切だからね。実際、ヒップホップのような曲の作り方をすることもある」
――Qティップとエリック・クラプトンとブラッド・メルドー、そんな各界の重鎮3人と仲良しのアーティストなんてぜったいあなたしかいないと思います。
「そうかなあ」
――あとぼくが驚いてしまうは、何かと音楽活動が楽なニューヨークに住んでいないことです。あなたは9・11のあとは欧州に住むようになり、今はベルリンに住んでいますよね。それなのに、ブラジル人と繋がるのをはじめ、無理なく時代の前線に立つ人たちと一緒にやっているのは驚くべきことだと思います。
「生まれたフィデルフィアのあと、僕はニューヨークに13年住んだわけだ。そして、ヨーロッパに行った際に、こっちで隠れ家のようなものを持って一人で音楽研鑽を積んだら素敵なんじゃないかというロマンティックなアイディアを思いついた。そして、スイスの女性と恋に落ちて結婚した。それで、チューリッヒに引っ越し、自然に新鮮な環境に身を置くことになったんだ。でも、チューリッヒは美しい街だったんだけど、ニューヨークとは正反対のようなところで退屈してしまい、どこかに引っ越そうとなった。そんなおり、ジャズ・インスティチュート・ベルリンで教鞭を取らないかとお誘いがあった。ベルリンに住むという考えはまったく自分のなかになかったんだけど、とりあえず行ってみた。そしたら、なんか良くてね。ベルリンにはニューヨークとチューリッヒの中間にあるみたいな、いいバランスがあった。やっぱり、アメリカのメインストリームのカルチャーから離れているのがいい。2人子供がいるんだけど、アメリカで子供を育てたいとは思わないからね」
――ここのところのハートコア発のアルバムのことをお尋ねします。短いコメントをいただけますか。まず、『ベルリン・バリトン』(2023年)。
「『ベルリン・バリトン』はコリングス・ギター(米国の手工ギター・ブランド)からバリトン・ギターを送ってもらったんだ。弾いてみたら、とても大好きな音で、即興で浮かんできたものを素直に録音した」
――『プレイズ・ピアノ』(2021年)は?
「ギターでもそれらの曲を演奏しているんだけど、ピアノで作っていたりもする。そこで、もしそれらを僕がピアノで演奏したら、それはもっともピュアな自分の音楽表現になるんじゃないかと思った」
――アルバムのクレジットを見たら、ハートコア・スタジオとなっています。あのピアノの音が好きで、いいスタジオなんだと思いました。
「ありがとう。家のスタジオなんだけど、いい機材を揃えている」
――次は、『ショパン・プロジェクト』(2022年)。
「いろんな人からゲストに入ってくれと声をかけられるけど、(『ショパン・プロジェクト』でピアノを弾いているスイス人の)ジャン・ポール・ブロードベックもそうだった。実際にツアーをしたら、このプロジェクトが本当に好きになり、あたかも自分のプロジェクトのように思えてきてしまった」
――ぼくはクラシックに無知な人間なんですが。『ショパン・プロジェクト』を聴くとショパンの曲だと感じるよりも、すごい高尚な、幽玄とも言いたくなるジャズの曲をやっているというように感じてしまいます。そして、新作はカルテットによるニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガードにおけるライヴ盤(『アンダーカヴァー - ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』)です。これ、すごいワイルドでぼくは大好きですね。
カート・ローゼンウィンケル
左からグレッグ・ハッチンソン(ds)、アーロン・パークス(p, keys)、カート・ローゼンウィンケル(g)、エリック・レヴィス(b)
Photo by Janette Beckman
「うん、本当にワイルドだよね。昨年9月に1週間やったおり、2〜4日目の3日間を録音したんだ。そこから、いいものを選んでね。そしたらサウンドはいいし、ヴァイヴズもいいし」
――『ショパン・プロジェクト』でもいいメンバー集めているなと思いましたが、あのライヴ盤もいいメンバーを集めてるとすごい思いました。
「本当にそう! この世界最良のメンバーを集めることができ、ラッキーだ」
――あなたは本当にいろいろなことをしてきていますが、あのカルテットはいちばんメインのプロジェクトだと、ぼくたちは捉えてもいいのでしょうか。
「そうだよ。これが俺のメインとなるものだ」
――ハートコアはペドロ・マルチンスとかダニエル・サンティアゴとか、他者のアルバムも出しています。どういう基準で出しているのでしょう。
「自分の気に入った人たちに声をかけてやっている。今、こうやって彼らを引き上げてあげられるポジションにいて、そのプラットフォームを提供できるっていうことをとてもうれしく思うよ」
――ペドロのハートコア発の2枚目もリリースされると耳にしたんですが。
「うん、傑作だよ。ぼくがペドロとともにプロデュースしている。オマー・ハキムがドラムを叩き、エリック・クラプトンやサンダーキャットも入っているよ」


取材・文/佐藤英輔
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