【小埜涼子】異能のサックス奏者が、多彩で奇抜なソロ・アルバムを発表!

小埜涼子   2012/06/28掲載
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 吉田達也とのユニット、サックス・ルインズによってその異能ぶりはある程度認識していたわけだが、ここまで激烈な作品になっているとは……。名古屋在住の女性サックス奏者、小埜涼子のソロ・アルバム『ウンディーネ』には、一聴、思わず唸ってしまった。サックス(アルト&ソプラノ)やフルート、キーボードなど、単独の多重録音集(一部、ゲストがヴォーカルやドラムを追加録音)なのだが、そこで駆使されている手法がなんとも多彩かつ奇抜。次に何が飛び出してくるのかわからない、一種の玉手箱状態になっている。スティーヴ・ライヒ「ピアノ・フェイズ」をノン・ブレスのサーキュレイション奏法でやったかと思えば、チャーリー・パーカーのさまざまなフレーズをコラージュした高速サックスに意味不明な歌詞による自身のヴォーカルをかぶせたり、サックス本体ではなくマウスピースやホースで演奏したり。そして、中でももっとも話題になりそうなのが、ELP「タルカス」のカヴァーだろう。原曲のなんと1.5倍の超高速でこの名組曲全部を吹ききっているのだ。複数のサックスやフルートを重ね、吉田達也のドラムも加えて。最近、クラシック系の演奏者たちによるカヴァーもあれこれ話題になっている「タルカス」だが、激烈さ、奇天烈さという点では小埜ヴァージョンの右に出るものはないだろう。その「タルカス」について、小埜はこう説明する。
 「じつは〈タルカス〉のほかに、グリフォンの〈Checkmate〉とPFMの〈River Of Life〉も録ったんですが、1.5倍速のインパクトがすごかったので、結局〈タルカス〉を採用しました。原曲は約20分ありますが、アルバム制作上どうしても15分以内に収めなくてはならなかった。原曲から一部を抜粋して15分以内に編曲して録音する方法もあったわけですが、それよりも先に“だったら1.5倍速で演奏して時間内に収めたらいいや”と単純に思いついて。ドラム・パートだけは吉田達也さんにすべてお任せしました。吉田さんとは以前サックス・ルインズで同じようなやり方で録音しているので、作業はスムーズでした」
 この「タルカス」、CDでは多重録音だが、ライヴではバンド形態でやるつもりだという。また、その他の楽曲に関しても、こう語る。
 「〈fluffy〉というサックス1本で演奏した短い曲は、文字通りふわふわしていて、可愛らしく愛嬌があるけど、少しひねくれた、なんともいえない素朴な感じが気に入ってます。Аbirds〉はチャーリー・パーカーのメドレーなのですが、歌詞は化粧品ブランドの羅列なので、ぜひ聴いて解明してほしいです。あと〈eager beaver〉は、即興とメロディの間を行き交うイメージで作りました」
 彼女のテクニカル&フリーキーなサックス・プレイからは、僕自身は、ジャッキー・マクリーンエヴァン・パーカージョン・ゾーンロル・コックスヒルスティーヴ・リーマン等々、新旧いろんなジャズ・サックス奏者の顔を思い浮かべてしまう。
 「ここ数年、スティーヴ・リーマンをよく聴いてますが、サックス奏者で最初に衝撃を受けたのはジョン・ゾーンでした。その個性的な音色はとても強烈でした。そのほか、オーネット・コールマンジェイムズ・チャンスヨシコ・セファーリー・コニッツなどもよく聴いてきましたが、昔から一貫して好きなのはスティーヴ・コールマングレッグ・オズビーです。静かに熱い印象があり、かつセクシーな演奏だと思います。あと、林 栄一さんや高木元輝さん、姜 泰煥さんなども大好きです」
 が、同時に、ロック的センスの濃厚さも見逃せない。
 「私はちょうど90年代MTV世代で、オルタナとかミクスチャーとか張り切って聴いてました。たまたま知った想い出波止場とルインズは特に衝撃的でした。大学時代は、想い出波止場ばかり聴いてました。『大音楽』の1曲目の〈アストロ・ヴォルカノ・プレイク・ダウン〉のドッカーンという爆発音をCDプレーヤーにタイマー・セットして毎朝目覚ましにしてました。ルインズはずっと外国人だと思っていて、ライヴで日本人が出てきたのですごく驚きました」
 想い出波止場でドッカーンか……。いやはや、やってる音楽に劣らず、自身もかなりのクセモノというか、一筋縄ではいかない人のようだ。これはもう、ライヴに行くしかないだろう。
取材・文 / 松山晋也 (2012年6月)
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