多くのリスナーにクラシックの扉を開くことが使命のひとつ――ヴォーチェス8のユニークな存在意義

VOCES8(A Cappella)   2017/06/06掲載
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 合唱が盛んなイギリスでア・カペラ・グループと言えば、一昔前まではキングズ・シンガーズが代表格として知られていたが、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで人気を集めているのが、2003年にウェストミンスター寺院聖歌隊員で結成された8人組のヴォーチェス8だ。通常、混声合唱はソプラノ、アルト、テノール、バスの4つのパートからなるが、ヴォーチェス8の場合は女性のアルトに相当するパートを男性のカウンターテナーが受け持っている。これは、イギリスの聖歌隊独特の伝統によるもの。それ以外にも、ヴォーチェス8はこれまでのア・カペラ・グループとは大きく異なる特徴がいくつも存在する。初代音楽監督で昨年から教育活動に専念にすることになったポール・スミスと、現音楽監督を務めているバーナビー・スミスのスミス兄弟に、ヴォーチェス8のユニークな存在意義を語ってもらった。
――昨年リリースされた『ウィンター〜冬のア・カペラ』は、たんなるクリスマス・アルバムにとどまらない選曲になっていましたね。クラシックはもちろん、ポップスも含まれていたり、ペトリス・ヴァスクスアルヴォ・ペルトのような現代音楽も含まれていたり……。
バーナビー「クリスマス・アルバムを構成する際、いちばん問題なのは、ややもするとキャロルに選曲が偏ってしまうのですよ。ですから、あまりキャロルにこだわらず、キリスト教的な要素を表現したかったんです」
――ポスト・クラシカルの旗手として日本でも注目されている、オーラヴル・アルナルズの「フォー・ナウ・アイ・アム・ウィンター」を歌っているのは、正直驚きました。
バーナビー「じつはデッカ・レーベルからの提案で歌うことになったのですが、初めは我々も“オーラヴル・アルナルズ!? なんだって?”とびっくりしました(笑)。しかし、アレンジャーのジェフ・ローソンが素晴らしい編曲をしてくれたおかげで、ヴォーチェス8オーラヴルの世界観を見事に融合できました。同様に、ヴァスクスの〈プレインスケイプ〉を収録したのも、たんなる“ア・カペラ”にとどまらないユニークなサウンドを表現できることを示したかったからです。世界中見渡してみても、そうしたさまざまな音楽をア・カペラで表現できるのは、ヴォーチェス8くらいしか存在しないと自負しています」
――その「プレインスケイプ」では、ヴァイオリンのマリ・サミュエルセンとチェロのハコン・サミュエルセンのデュオをゲスト・プレイヤーとして招いていますね。
バーナビー「我々ヴォーチェス8は、年間250日を同じ8人で過ごすのですよ。そうすると、どうしても内輪だけの狭い世界になってしまいます。ですから、彼らのようなアーティストとの共演が、我々の活動において大きな刺激になるのです」
――前作のアルバム『永遠の光〜神秘のア・カペラ』では、同じ歌詞を用いた中世のトーマス・タリスの曲と現代のモートン・ローリゼンの曲を収録したり、同様に『ウィンター』でも同じ歌詞を用いたラフマニノフペルトの曲を収録したりと、選曲も毎回凝っていますね。
バーナビー「『ウィンター』を例に挙げると、ラフマニノフ『徹夜祷』〜〈今こそ主よ、僕を去らせたまわん〉は実演でも何度か歌い、とても評判がよかったので収録を決めました。これに対し、ペルトの同名曲は、よりミニマルな語法で書かれていて、サウンドという点でラフマニノフと好対照をなす曲となっています。たとえ歌詞が同じでも、作曲家によってまったく異なる世界が生まれるんだということを示したかったんです」
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――ヴォーチェス8は演奏活動だけでなく、教育活動にも熱心に取り組んでいるという点でもユニークですね。
ポールヴォーチェス8を結成した当初から、我々が合唱を通じて学んだ知識を若い世代に伝えていきたい、という希望があったんです。今回の来日でも、小学校と女子大でそれぞれワークショップを行ないました。我々がワークショップで教えているヴォーカル・メソッドを著した『ヴォチェスエイト・メソッド〜声、身体、心への音楽的目覚めと共に、学校生活を送ろう』も、ようやく日本語版が出版されました。ずっと、翻訳者と共同作業を続けていたんですよ」
――ワークショップをなさる時、日本の子供たちと海外の子供たちでは、反応が異なりますか?
ポール「ええ、大きく違います。たとえばロンドンの小学校では、1クラスが30ヵ国の異なる国籍の児童で構成されていることもめずらしくありません。言葉も違うし、文化的な背景も違います。だから、同じ歌を歌うことで感情的な絆が生まれるんです。その点、日本の小学生は、歌を通じて感情的な絆が生まれるということはないのですが、歌唱技術の習得が非常に早いですね。しかも驚くべきことに、英語の吸収力も早いと思います。我々が日本語の歌を覚えるスピードは、彼らよりもずっと遅いです(笑)」
バーナビー「教育活動と演奏活動は、じつは表裏一体なんです。たとえば、いきなりクラシックの曲を歌ったら、それだけで拒絶反応を示してしまうリスナーが存在することが事実です。そこで、まずは誰もがなじみのあるポップスから始め、徐々にクラシックや中世の楽曲を紹介していく。そうすると、小学生の間から“ウィリアム・バードの曲がいちばん面白かった”なんて反応が返ってくることもあるんですよ。できるだけ多くのリスナーにクラシックの扉を開くことが、我々の大きな使命のひとつなんです」
――ちなみにポップスと言えば、2010年にリリースした『Aces High』というアルバムで007シリーズの主題歌を歌っていましたが、007のファンがメンバーにいらっしゃるんですか?
ポール、バーナビー「全員です(笑)」
バーナビー「ジェームズ・ボンドはビートルズと同じく、イギリス文化の代名詞ですから、“イギリス出身のア・カペラ・グループ”という我々のブランドを築くうえでも、007の主題歌がピッタリだと思ったんです」
ポール「どのボンド俳優がお好きですか?」
――個人的にはショーン・コネリーです。
ポール「私はダニエル・クレイグですね。彼は『スペクター』の後、もう1本撮るんでしたっけ?」
――わかりません。
バーナビー「じゃあ、僕がボンドやるよ(爆笑)」
取材・文 / 前島秀国(2016年12月)
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