たぶん、生きる場所を作ってる――バンドマンという名の生活者、Yellow Studsの軌跡と未来

Yellow Studs   2017/11/30掲載
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 ここにはお洒落なラブ・ソングも感動の応援歌も流行りのダンス・ステップも何もない。ただバンドマンという名の生活者の生き様だけをリアルに綴る、しゃがれたダミ声がなぜこんなにも胸を打つのか。ガレージ・ロック、ジャズ、歌謡曲、ブルースなどをゴチャマゼにした独特のスタイルで、一度ハマったら抜けられないディープな世界を作り続ける5人組。Yellow Studsの新作は、最新ツアーの模様を収めた初のライヴ・アルバム『ごくつぶしが鳴く夜-2017.6.4 LIQUIDROOM FULL LIVE SESSION』と、4曲入りEP『GRAB』の2ヶ月連続リリース。さらに1月には恒例のアコースティック・アルバムの新作『A long way』(会場限定&通販)のリリースも決まった。常に限界ギリギリ、すべてのエモーションを絞り出すように音楽を生み続ける5人は、今何処へ向かおうとしているのか。野村太一(vo, key)、野村良平(g)、植田大輔(b)の3人に話を聞いた。
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――ここ2年間は毎年、オリジナル・アルバム、シングル、アコースティック・アルバムを出し続けるという、ハイペースでリリースが続いていまして。
太一 「ネタがよく切れないなと。たいしたもんですよ」
――たいしたもんです。そのハイペースの中で、さらにライヴ・アルバムも出してしまうのは本当にすごい。これ、最初からリリースを想定していたんですか。
太一 「いや、リリース元のULTRA-VYBEさんが“録っていいですか?”って言うから、“いいですよ”って。気づいたら作ってたという」
植田 「大まかすぎるでしょ(笑)」
太一 「でも本当にそういう感じ。だから緊張はしなかったです。“ライヴ・レコーディングしてるんだな。間違えられないな”って、意識すると間違えるんで」
植田 「“とりあえず何かのために”という感じで聞いてたんで。メンバー全員、録ってるという意識はしてなかったですね」
――緊張させない作戦だったんじゃないですか(笑)。そもそも恵比寿LIQUIDROOMは、Yellow Studsにとって今までで一番大きなハコですけど。当日を迎えるまでの特別な気持ちの昂りとかは?
良平 「借りる時はドキドキしました。でも近づいてからは、けっこう普段通りでしたね」
太一 「俺は、ハコ代がすげえかかるんだな、結果いくら稼げるのかなっていうところを考えちゃいましたね。……って、金の話をするとロックっぽくなくなるんで(笑)。普通でしたね。いつもと一緒のライヴをやるだけだったです」
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ごくつぶしが鳴く夜
――MCでも、ぶっちゃけてますよね。「予約が少なくて、スカスカの予定だったんだよ」って。
太一 「途中まで、そうだったんですよ。もう死んだと思いました。けど、結果成功して良かったなと思います。俺は、あんまりこの時の思い出はないんですよ。夢中で、覚えてないんです」
植田 「幕が上がった時に“あ、こんなに来てくれてるじゃん”って、ほっとしたのは覚えてますね。あとは……」
良平 「何か大変な思いは、覚えてるんですけどね。二部でアコースティック編成でやったんですけど、まったく自分の音が聴こえなくて大変だったとか。三部ではスーツを着替えて、初お披露目の赤いスーツだったんですけど、タイトすぎて肩が凝ったとか(笑)。そういうのは覚えてるんですけど」
太一 「けど、“続けていいんだな”というのはちょっと思いましたね。幕が開いた時に。ツイッターにも書いたんですけど、テレビに出れなくても、有名じゃなくても、“自分たちは報われてるんだな”っていうふうには思いました。すごいバンドさんから見たら、小規模かもしれないですけど、これだけの人が、これだけの命が、一人でも死んだら大変じゃないですか。要は、お客さんが一人でもすごいってことなんですね。それが600人ぐらい来たってことはすごいことだなって、あとあと思いましたね」
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ごくつぶしが鳴く夜
――これ、ほぼノーカットですよね。MCも含めて。2時間くらい。
太一 「聴くのも大変じゃないですか。ULTRA-VYBEさんには申し訳ないけど、ちゃんと全部聴く人いるのかな?って」
――聴きますよ。当たり前じゃないですか(笑)。アコースティックとかいくつかのセクションがあるし、曲の流れも良くて、一気に聴きました。何より音がものすごく生々しくて、Yellow Studsのライヴ感をよくとらえている。素晴らしいライヴ・アルバムだと思います。
太一 「ありがとうございます。ただ、このアルバムについては、俺の声ですね」
――声ですか。それは、今年の初めに太一さんが喉のポリープの手術をした、その影響ということ?
太一 「はい。このツアーで何回恥かいたかわかんないぐらい、声が出なかったんですよ。仙台、名古屋、大阪、東京、群馬、いろんなところをワンマン、ツーマンやってきたんですけど、まあ声が出ない。声が出ないライヴで金もらってるなんて、詐欺じゃないですか」
――そうは思わないですけどね。
太一 「どう考えるかは人それぞれだけど、俺からしたら申し訳ない気持ちになるし、もちろん恥でもあるし。で、奇跡的にこの日は、声が出たんですよ。歌い方をちょっと変えたけど、声が出た。手術して、いろいろ試行錯誤して、既存のお客さんが好きだった歌声に戻そうと、ずっと努力してたんですけど。この日は、期待には沿えなかったかもしれないけど、恥をかいたという気持ちにはならないライヴでしたね」
――じゃあこのライヴ以降、新しい歌い方のコツをつかんだということですか。
太一 「コツは、だんだんつかみ始めてきましたね。意識してるわけじゃないんですけど、たぶん喉が戻りたがってるんでしょうね。今はもう、かすれてるじゃないですか。またたぶん同じところにポリープができて、同じようになるんだろうなって思うけど、そしたら次は手術しないでおこうと思ってます。昔の声、気に入ってたんで。本当は、その気に入ってた声で、これに挑みたかったんですけど。ただ、今ある俺の武器では勝負できたんじゃないかなと思いますね」
――みなさん是非聴いてみてください。バンドマンの生き様、ここに詰まってます。そして、ライヴ盤の2週間後にリリースされる新作EPが『GRAB』。もともと、この時期にEPを出すという計画があったんですか。
良平 「シングルを出そうとしたら、ULTRA-VYBEさんに“EPにしませんか?”と言われて、“そうします”って。EPの略が、俺は未だにわかってないんですけど」
――ええと、何でしたっけ。帰って調べます(笑)。(*Extended Playの略。通例として、シングルが1〜3曲入りに対して4曲入りのものを指す)リード曲の「ブーツ」は、豪快なシャッフル・ビートで、ちょっとサーフっぽい音色のギターが入っている。かっこいい曲ですけど、歌詞はYellow Studsらしい、社会の底辺から上を見上げるような視点になっていて。
太一 「これは、外に出れない男の歌ですかね。ダメ人間の歌ですよね、完全に」
――家を出て、中野の駅まで行って、すぐ帰ってきますからね(笑)。
太一 「正確に言うと、中野の駅まで行かないですけどね。エクセルシオールぐらいまで」
――わかんない(笑)。めちゃローカル。
太一 「そこまで行って、帰ってきちゃう。これは俺のことで、普段外に出ないんですよ。本当に時間も曜日も日にちもわからない、歌詞の通りです。俺は何もわかってないんで、植田くんがいなかったらYellow Studsは動いてないし、良平がいなかったらホームページもできないし、ライヴをいつやるのかもわかんない。ただ“ピアノ練習しなきゃな。でも練習しても身に入ってこないしな”っていう歌です。それとこの歌は、笠置シヅ子さんをイメージしました」
――なんと。
太一 「〈買い物ブギ〉みたいな曲を作りたかったんですけど、管楽器がなければダメだなと。ドラムもいらねえやと思って、けどドラムがいないのも、なんだかなあって。なので、平成の昭和歌謡曲風になりました」
――道理で、懐かしくて新しい。
太一 「〈買い物ブギ〉はすごく楽しそうで、いい曲じゃないですか。そういう曲にしたくて、いかんせんこういう曲になってしまったんですけど」
良平 「全然楽しげじゃない(笑)」
太一 「何も買わずに帰ってきちゃう」
――ライヴ盤にも入っている、2曲目のインスト「中野サーフ」は?
太一 「これは二十歳の時に作った曲です。ディック・デイルみたいなことやりたいなと思って、そこにちょっと平成を足した感じです」
良平 「ワンマンの時に、太一が喉を休ませる曲がほしいから、インスト曲をやろうと。でも“ハッ!”とか言っちゃってるんですけどね。休めてるのかな?って(笑)」
――「走れ!」っていう掛け声も、一体誰に言ってるのかという。
太一 「ノリです(笑)。でも万人に言ってるんじゃなくて、自分ですね。良く考えると、今回の曲は、全部自分あてに作っちゃってる感じがします」
――3曲目「ガソリン」は本当にYellow Studsらしい、最高に沁みる曲。夢を追うのは一体何歳まで。そんなの知らねえよ。てめえで決めればいい。この歌詞はまさに野村太一イズムだと思います。こういう歌詞は、普段思ってるまんまですよね。決め台詞を吐いてやろうとかじゃなく。
太一 「思ってるまんまです。これは一切かっこつけてない、そのまんま思ってることですね。よく言うじゃないですか、“あなたの前には道がなくて、進んだあとに道ができる”って。俺らは道じゃなくて、平原を作ってる感じなんですよ。草木を刈って、広場を作ってる。進んでるんじゃなくて、たぶん、生きる場所を作ってる。なので、うしろを振り向いても道はなくて、って書いたんですけど」
――ハッとさせられました。進むったって、どこへだよ?って。
太一 「そうなんですよ。どこに進むんだ?って。たぶん死ぬ間際になってもわかんないと思うんで」
――一転して、4曲目「風鈴」は、可愛らしい曲調ですね。
太一 「コード進行はめんどくさいんですけどね。未だにピアノを覚えられてないし、譜面を見ないと弾けないんで。どんな歌だっけ?(笑)」
良平 「ツアーに出たらクビになった」
太一 「ああ。バンドマンあるあるですね、この曲は」
良平 「俺はこれが一番好きなんですけどね」
太一 「え、マジ? そうなんだ」
良平 「これはちゃんと信念を持ってレコーディングしようと思って。あんまりそういうの、持たないタイプなんですけど。年とって、昔の自分のバンドの曲を聴いて“お、かっこいいな”と思えるような曲にしようと思って。もっとこうしておけば良かったってよく思うんですけど、今回のEPもすでに思ってるんですけど、〈風鈴〉に関してはいつ聴いても恥ずかしくないものをやろうと思って、たぶん成功しましたね」
植田 「僕も演奏していて一番楽しいのは〈風鈴〉ですね。今のベスト・テイクだと思います」
――残した歌が、いつか誰かの役に立ってくれることを願っている。これも、とてもいいフレーズ。
太一 「ありがとうございます。実際そういう人が聴いてくれてるんで。俺の中では、実はこの『GRAB』が、たぶん今までで一番“まとめ”なんですよね。だから一番売れてほしい。何だったら、次のアルバムに全曲入れたいっていうぐらいのEPです。俺は大好きです」
――そんな自信作のタイトルが『GRAB』。つかむ、ですか。
太一 「特に意味はないです。使える写真がなくて、昔撮った写真をレタッチして使って、手で何かをつかんでるから『GRAB』かなと。深読みされる方は深読みしていただいて。ジャケットのイメージと曲調があんまり合ってないですけどね。ジャケットだけ見ると、オシャレな音楽をやってそうな感じに見えちゃいません?」
良平 「たぶん大丈夫だと思います(笑)」
――熱い音楽ですよ。働く大人のロック好きに響く歌だと思います。
太一 「いろんな方に聴いてほしいですね。よろしくお願いします」
取材・文 / 宮本英夫(2017年11月)
Yellow Studs出演サーキット・イベント
下北沢にて'17

www.shimokita-nite.net/
2017年12月2日(土)
開演 10:00
東京 下北沢
4,000円(別途ドリンク代)

[会場]
SHELTER / GARDEN / club 251 / BASEMENT BAR / THREE / 近松 / ERA GARAGE / Daisy Bar / Laguna SHELTER / MOSAiC / 440 / 野外ステージほか

[Yellow Studs出演]
SHELTER / 14:45〜出演予定


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