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映画『アマデウス』の上映に合わせてオケと合唱団が生演奏するコンサート開催

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト   2017/11/08 15:31掲載
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映画『アマデウス』の上映に合わせてオケと合唱団が生演奏するコンサート開催
 ステージ上の大スクリーンで上映されるアカデミー賞8部門を受賞した名作映画『アマデウス』に流れるモーツァルトの代表作をオーケストラと合唱団が場面に合わせて生演奏するコンサート〈アマデウスLIVE 〜ムービー・オン・クラシック〜〉が11月3日より開催されています。

 2016年秋、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで満員の聴衆を集め初演されると瞬く間に大評判となり、パリやプラハといったヨーロッパの主要都市ではチケットの入手が困難なほどの大成功を収めている本公演。2017〜18年にかけては、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴなどアメリカの主要都市を中心に50公演以上がすでに決定しており、世界中で“ぜったい観たいコンサート”のひとつとして大きな注目を集めています。

 日本では、11月3日の石川・金沢 石川県立音楽堂コンサートホールを皮切りに、11月4日、5日の東京・渋谷 Bunkamuraオーチャードホールを経て、11月11日(土)と12日(日)に兵庫・西宮 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホールにて開催されます。

[レポート]

 『タイタニック』『2001年宇宙の旅』など、ここ数年で市民権を得た名作映画の生演奏上映コンサート。その真打というべき『アマデウスLIVE』が、Bunkamuraオーチャードホールにて上演された。天才音楽家モーツァルト(トム・ハルス)の才能に嫉妬した作曲家サリエリ(F・マーリー・エイブラハム)の陰謀を描いた、アカデミー賞8部門に輝く映画『アマデウス』の生演奏上映だ。

 この作品を演奏する場合、実はひとつの大きな困難が存在する。元の映画版では、故サー・ネヴィル・マリナーが編曲と指揮を担当し、すでに多くの観客がその演奏を熟知している(『アマデウス』サントラ盤はクラシック音楽史上最も高いセールスを記録したレコードのひとつ)。もしも『アマデウスLIVE』で、マリナーと同じ水準か、それ以上の演奏が聴けなければ、「ブルーレイで見たほうがいい」ということになってしまう。つまり、普通の生演奏上映よりも、演奏に対する観客の要求度が格段に高いのだ。今回の日本初演を担当した辻 博之指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は、その高いハードルを見事に乗り越えたと言っていい。

 映画冒頭、自殺未遂を図った血みどろのサリエリが登場する瞬間から、辻とOEKは《交響曲第25番》を画面にピタリとシンクロさせるだけでなく、そこに映画ならではのサウンドの力感を与えることに成功している。30年以上前、筆者は丸の内ピカデリーで『アマデウス』の70mm/6チャンネル・ステレオ上映を見ているが、その時のサウンドの記憶と比べても全く遜色ない。あの時、初めて耳にした《交響曲第25番》のドラマティックな迫力が、まさかこういう形で甦ってくるとは予想もしていなかった。

 シンクロという点に関しては、『アマデウス』には映画だから初めて可能になった非現実的なシーンがある。コンスタンツェ(エリザベス・ベリッジ)が持参したモーツァルトの自筆譜にサリエリが目を通すと、《フルートとハープのための協奏曲》《交響曲第29番》《2台のピアノのための協奏曲》《ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲》が数秒単位で次々に流れてくるシーンがそれだ。これを生演奏で再現するのは非常に困難なので、さすがにそこは元の映画のサウンドトラックをそのまま流すのだろうと予想していた。ところが、なんと『アマデウスLIVE』はそのシーンまで見事に再現してしまうのだ! これには正直、舌を巻いた。サリエリが楽譜をめくるたびに、音楽をアクロバティックにシンクロさせながら、モーツァルトの音楽特有の透明感と響きの美しさが、いささかも失われていない。これは、日本で最も数多くモーツァルトの演奏を手がけてきたOEKの実力の賜物だろう。

 今回の『アマデウスLIVE』は、名舞踏家トワイラ・サープが振付・演出した《後宮から誘拐》と《ドン・ジョヴァンニ》のオペラ・シーンで、アマデウス特別合唱団が合唱パートを生で歌うも、大きな見どころのひとつだ。特に《ドン・ジョヴァンニ》の「騎士長の場」のシーンは、スクリーン上に映し出される地獄の使者たちが、合唱団のデモーニッシュな歌唱と渾然一体となり、凄まじい迫力を生み出す。オペラやバレエのライブ・ビューイングでは絶対に味合わえない生演奏の醍醐味と、映画でなければ不可能なカメラワークと編集が生み出すスリル。「騎士長の場」の後、映画の中のウィーンの観客はまばらな拍手しか送っていなかったが、このシーンの後で休憩に入ると、オーチャードホールの観客が盛大な拍手を送っていたのが非常に対照的だった。

 休憩後の後半は、前半に比べて演奏シーンの比重が大きいこともあり、映画の生演奏上映というよりは、むしろ映像つきの極上のコンサートのように感じられた。シカネーダー(サイモン・カロウ)の劇団が上演する《ドン・ジョヴァンニ》のパロディ・オペラのシーンは、OEKがサーカス・バンド的な賑やかな演奏を繰り広げ、合唱団がウィーンの聴衆になりきってOEKの演奏に唱和する。こんな楽しい“エンタテインメント・ショー”は、生演奏上映でなければ実現不可能だろう。

 本作のクライマックス、瀕死のモーツァルトがサリエリに《レクイエム》を口述筆記させる有名なシーンでは、スクリーン上で弱々しく指揮するモーツァルトに合わせ、OEKとアマデウス特別合唱団が《レクイエム》の個々の声部をドラマティックに演奏していく。その演奏を聴いて、映画版以上に個々の声部がリアルに聴こえると感じた観客は多いはずだ。映画版のサウンドトラック音声と異なり、『アマデウスLIVE』では台詞に配慮にしながら演奏の音量を下げる必要がない。合唱指揮者としての辻の力量が遺憾なく発揮されたこのシーンだけでも、『アマデウスLIVE』は映画版を完全に凌駕したと言えるだろう。

 そして、ラストシーンで演奏される「ピアノ協奏曲第20番」の第2楽章。ピアノの居福健太郎(本公演では合唱のオルガン伴奏と《魔笛》のチェレスタも担当)が繊細なニュアンスで独奏パートを弾くと、客席のあちこちから啜り泣きの声が聞こえ、それがオーチャードホールいっぱいに響き渡った。30年以上前に『アマデウス』を初めて映画館で観た時も、そこまでエモーショナルな反応は客席から生まれなかったと思う。

 映画とは本来、大空間に大勢が集まり、一緒に笑い、泣きながら楽しむもの。2000人以上の観客が同じ空間につどい、モーツァルトの粗野な素行に大笑いしながら、彼の生み出す音楽に涙した『アマデウスLIVE』は、改めて映画の素晴らしさ、音楽の素晴らしさを再認識させてくれた公演だった。

文 / 前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)


アマデウス LIVE 〜ムービー・オン・クラシック〜
avex.jp/classics/amadeus-live2017

2017年11月11日(土)17:00〜
2017年11月12日(日)14:00〜
兵庫 西宮 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール

[チケット]
A 9,800円 / B 7,800円 / C 6,800円 / D 5,800円
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