収録曲はブロとロヴァーノによるオリジナルを2曲ずつと、モチアンが作曲した「ドラム・ミュージック」の全5曲。2021年11月にデンマーク・コペンハーゲンのThe Village Recordingスタジオでレコーディングされました。
モチアンとビル・フリゼール(g)とのトリオで30年間(1981〜2011)活動したロヴァーノは、「ポールはほとんど毎日、ニューヨークのセントラルパークの貯水池の周りをジョギングしていて、その儀式にちなんだ〈Once Around the Park〉という曲があったんです。コペンハーゲンのレコーディングでは、スタジオの中で全員がある種の円形の状況に集まっていたので、曲を演奏したりソロを取ったりしながら、部屋の中を回っているような感じだったのでこのタイトルにしました。バンドスタンドやスタジオで演奏するたびに思うのは、音楽は深い呼吸と耳を澄ませるものでなければならないということです。楽器の名人芸を披露するのではなく、即興の技術、その場にいること、音楽と一緒にいることが大切なのです」とこのアルバムについて語っています。
モチアンの2005年リリースのアルバム『Garden of Eden』でECMデビューしたブロは、「私がポールの音楽でとても好きなのは、彼の演奏と作曲の両方における美的感覚です」「自分の曲でもスタンダード曲でも、それがポール・モチアンであることはあきらかでした。彼が人々をまとめ、バンドを組織する方法もまた刺激的でした。個人的には、ポールの作曲するハーモニーの世界は、私が自分の曲作りに何か個性を求めるうえで欠かせないものでした。徐々に、私の曲はポールの曲に直接関係するものから、彼の影響やアイディアをより北欧的なトーンにつなげられるようになりました。私は、詩篇であれ民謡であれ、子供の頃の音楽と関わり始め、様々な影響を受けた世界との間に橋をかけ始めました。ポールのインスピレーションが、私の声を育ててくれたのです」とコメントしています。
ロヴァーノは本作品のために、12音でドローンをちりばめた「As It Should Be」(そのタイトルは、1985年にECMからリリースされたモチアン / ロヴァーノ / フリゼール・トリオの1stアルバムのタイトル曲「It Should've Happened a Long Time Ago」を暗示している)を提供しました。この曲とロヴァーノが提供しているもう1曲「For the Love of Paul」は、ダブルドラムをうまく使ってアンサンブルのダイナミズムを高め、一方、ブロはバラード調の「Song To An Old Friend」(メロディのほとんどはロヴァーノが担当)とフォーク風の「Pause」を作曲し、ブロの親密な演奏がベースの下流で織り成しています。ロヴァーノのアイディアからアレンジされたグループ即興曲「Sound Creation」では、アンサンブルのオーケストラ・サウンドを雰囲気たっぷりに表現し、織り成すメロディはすべてその場で考案されました(ロヴァーノは途中でテナー・サックスを持ち替えて東ヨーロッパのリード楽器タロガートでラインを追加している)。