2026年1月1日にオーストリア・ウィーンのムジークフェラインザールで開催された、
ヤニック・ネゼ=セガン指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤー・コンサートを収録するアルバムのデジタル配信が、早くも1月9日(金)からスタートしました。フィジカルは
国内盤CDが1月28日(水)、Blu-rayが2月18日(水)発売。輸入盤も発売されます。
今年で第86回目の開催となるこのコンサートは、
クレメンス・クラウスに始まり、
ヴィリー・ボスコフスキー、
ロリン・マゼール、
ヘルベルト・フォン・カラヤンら歴代の名指揮者たちが伝統を継承してきました。今年その由緒ある指揮台に立ったのは、新たな世代ともいうべきカナダ出身のヤニック・ネゼ=セガン。彼は
フィラデルフィア管弦楽団、
メトロポリタン歌劇場などの音楽監督を務める世界的に活躍する俊英で、ウィーン・フィルとは2010年のザルツブルク・モーツァルト週間以来たびたび協演し、とくに2022年のアメリカ・ツアーではリハーサルなしで急遽代役を務めてオーケストラの窮地を救い、それ以来2023年のサマーナイト・コンサートをはじめとするさまざまな機会で関係を深めてきました。ネゼ=セガンもみずから「このコンサートのためにこれまでにないくらい準備をしたよ」と語ったように全曲を暗譜で振り通し、小柄な身体から放射される音楽の強烈なエネルギーで聴衆を熱狂の渦に巻き込みました。
ウィーン在住のチェリスト / 文筆家・
平野玲音(れいね)による公演レポートが公開されています。
[公演レポート]「世界に届けるための音の旅〜ネゼ=セガンとウィーン・フィルの2026年ニューイヤー・コンサート」
2026年元日、ウィーン楽友協会大ホールにおけるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤー・コンサート及び、それに先立つ同プログラムの2公演では、セキュリティを強化するため訪問客用のボディスキャナーが初めて導入された。テロの予告やコンサートに潜り込んでのデモ行為など、不穏な事例が増える中でのビッグイベント。「平和」を最も大事なメッセージに掲げ、最後の1曲、ヨハン・シュトラウス2世「平和の棕櫚(しゅろ)の葉」へと向かう15曲の音の旅が始まった。
門戸を広げ文化の違いを尊重し合う
指揮台に立ったのは、世界中で活躍しているカナダ人のヤニック・ネゼ=セガン。ニューイヤー・コンサートには初登場だが、ウィーン・フィルとは2010年以来共演を重ね、2023年サマーナイト・コンサートでの成功はまだ記憶に新しい。
2025年12月29日、ホテル・インペリアルでの記者会見では、そんな彼が実に生き生きプログラムのコンセプトを披露した。インドの舞踊に霊感を得たランナー「マラプー・ギャロップ」(ウィーン文化へのインバウンド)や、アフリカ系米国人の女性作曲家プライスによる「レインボー・ワルツ」(アウトバウンド)。そうした曲をウィーン・フィルが弾くことで、世界中の多くの人がウィーンに自分を見つけ、互いの文化が別のものではないのだと気付けるという。
色彩豊かな「旅」は既に、1曲目のヨハン・シュトラウス2世「インディゴと40人の盗賊」序曲で始まっている。「千夜一夜物語」を下敷きにした当作で中東に飛んで行き、ツィーラー「ドナウの伝説」ではウィーンにとどまらぬ、この川沿いの各国を見る。ヨハン・シュトラウス1世「パリの謝肉祭」でパリに旅し、ヨハン・シュトラウス2世「外交官のポルカ」では世界平和に欠かせない外交官に光を当てる。その後もロンビ「コペンハーゲン蒸気機関車ギャロップ」(コペンハーゲン)、ヨハン・シュトラウス2世による「南国のばら」(オーストリアの南方、すなわちイタリア)、「エジプト行進曲」(エジプト)と続き、ジュール・ヴェルヌの小説ならぬ「110分間世界一周」のような趣。
演出面での「遊び」も満載
プログラムの3分の1を初出の曲が占め、昨年初めて取り入れられた女性作曲家の作品も2曲に増えて、先述のプライスのほか、第2部の2曲目にはヨーロッパ初の女性オーケストラを結成したヨゼフィーネ・ヴァインリッヒの「セイレーンの歌」が流れた。それに続くヨーゼフ・シュトラウス「女性の真価」も、当コンサートでは長い間聴かれなかった曲。記者会見で何度か夫に言及していたネゼ=セガンの家庭的な性格もあり、全体的にエレガントで優しい魅力が際立っていた。
テレビでは、ヨハン・シュトラウス2世による2曲「外交官のポルカ」と「南国のばら」がジョン・ノイマイヤー振付けによる現代的なバレエと共に放送された。会場でバレエ無しで聴いていても、外交官のそつない感じが音に出ており、「南国のばら」のあちらこちらでは、1輪の可憐なバラや色とりどりのバラ園などが心に浮かんだ。
個人的に筆者が最も楽しんだのは、ロンビ「コペンハーゲン蒸気機関車ギャロップ」だ。チェロとオーボエによる絶妙の共演の後、鐘や車掌の笛が鳴り、機関車がごくゆっくりと走り出す。視覚的にも、(残念ながら映像には入らなかったが)後ろの壁に横に並ぶコントラバス奏者の指が1度に動く車輪のように見え、スピードを増すにつれて弓や腕がシュッシュッポッポと力強く列車を運ぶ。指揮者自身も笛を鳴らし、終着点では彼が「止まれ」の札を挙げて聴衆の笑いを誘った。
アンコールの1曲目フィリップ・ファールバッハ2世「サーカス」や、3曲目ヨハン・シュトラウス1世「ラデツキー行進曲」にも演出面での工夫が満載! 2曲目ヨハン・シュトラウス2世「美しく青きドナウ」の前にはネゼ=セガンが「優しさを持ち、違いを容認してください」と訴えて――本来のウィーン色は後退したものの――万人への愛に満ちた意義ある行事となっていた。これまた初登場のトゥガン・ソヒエフが指揮をする、2027年のニューイヤー・コンサートも楽しみだ。
――平野玲音Photo by Dieter Nagl