3rdフル・アルバム『
屋根裏獣』を携え、ライヴ・ツアー〈獣ツアー2017〉をスタートさせた
吉澤嘉代子が、岡山、仙台に続いて5月7日に東京国際フォーラム・ホールCで公演を開催。アンコールでは、
バカリズムが原作・脚本・主演を務めるドラマ「架空OL日記」(読売テレビ / 日本テレビ)の主題歌として書き下ろした新曲「月曜日戦争」も披露。なおこの曲は、5月24日(水)に初シングルとしてのリリースが決定しており、カップリング曲「フレフレフラレ」のインストゥルメンタルも収録されたカセットテープが付属する
初回限定盤と、
通常盤の2形態で発売されます。
[オフィシャル・レポート] 「獣ツアー」中盤の3公演目、東京国際フォーラム・ホールC。簡素なステージの中央には鏡台、上手隅に黒電話と下手隅にはラジカセ(!)が置いてある。シンプルだがやる気が伝わるセットだ。「地獄タクシー」のビッグバンドヴァージョンが鳴り響くと、当夜の主役・吉澤嘉代子とバックバンドの4人がぱらぱらと現れる。オープニングは予想どおり「ユートピア」。耳で聴き目で見る『屋根裏獣』ワールドの幕が開いた。
吉澤は色覚検査シートみたいなカラフルな花柄のワンピース姿。パープルのペチコートっぽい裾とソックスにストラップシューズの足元がいかしている。ラメのアイシャドウで遠いお客さんにも表情がバッチリ届く。最新作『屋根裏獣』の収録曲はもちろん、その世界観にハマる過去の曲を巧みに持ってきて元の意味合いをずらし、新鮮に響かせる。彼女のツアーではおなじみの、以前も書いたがカエターノ・ヴェローゾやクレイジーケンバンドを連想させる手法だ。
通常のコンサートとは異なり、MCは生トーク皆無。すべて事前にレコーディングしたものを流し、吉澤は当て振りをする。「地獄タクシー」(と「麻婆」「ぶらんこ乗り」も)の主役の主婦を演じる姿は、いわゆるシアトリカルなコンサートのレベルは軽く超えており、「小芝居」(本人の弁)どころか立派な歌芝居である。
ラップ(フリースタイル?)でバンドのメンバーを紹介したり、電話の向こうの姑(吉澤二役)や夫の声とコミカルなやりとりをしたりと、ユーモアも交えながら物語は進む。途中、チャイニーズな柄の黄色基調のドレスへのお色直しを経て、「地獄タクシー」から「ぶらんこ乗り」への流れで夫を愛しすぎた妻のトラジコメディはクライマックスを迎える。黒電話とラジカセも大活躍だ。思いのこもった「一角獣」の熱唱は、この曲が新たな嘉代子スタンダードとなることを予感させた。
アンコールの拍手に応えて再登場。今度はMCも生で「楽しかったです。あ、前回も楽しかったんですけど」と照れ笑い。「しゃべるのが苦手」と本人は言うが、みうらじゅん先生のように「そこがいいんじゃない!」と言いたい。明らかに流暢じゃないし、誰が見ても不器用だけれど、その話し方に表れた彼女の正直な人間味(隠そうとしても出てしまうそれ)に癒され、救われ、共感する人は、彼女の想像以上にたくさんいると思う。
アンコールでは5月24日にリリースされる初めてのシングル「月曜日戦争」とそのカップリング曲「フレフレフラレ」を披露したのだが、両曲ともに素晴らしかった。特に客席を練り歩きながら歌った「フレフレ〜」は歌い出しの言葉選びとサビの遊びが絶品。高校時代に作ったそうだが、若書きとか、いかにも高校生とか、筆が滑った感じがどこにもない。キャリア20年のプロが書いた歌だと言われても信じそうなくらい、表現がスキルフルで普遍的。終演後に立ち話をしたギターのKASHIFも言っていたが、きっと40歳になっても17歳のときと変わらないと思う。
レコーディングで精神が参ってしまい、一度は「(ツアーは)できませんって言おうと思っていた」というところまで追い詰められていた……という話を前に聞いていたせいか、彼女の溌剌とした姿、精気を感じさせる表情は感動的だった。残る3公演にも期待できそう。というかもう一度見たくなって、ファイナルの名古屋のスケジュールを確認しながら帰途についた(笑)。
文 / 高岡洋詞
写真 / 田中一人