昨年12月10日に83歳で亡くなった名優・
小沢昭一の代表作『唐来参和(とうらいさんな)』が、3月20日に初めて
DVDとして発売されます。これは、1983年から2000年までの18年間、全国津々浦々、660回の旅公演で演じた一人芝居。1982年に自身の劇団しゃぼん玉座を立ち上げた小沢が、“引退興行”と称しながらロングランで上演した畢生の作品。1988年2月26日、新宿・紀伊國屋ホールで撮影された全盛期の貴重な映像が収録されています。
原作は、盟友・
井上ひさしの『戯作者銘々伝』より「唐来参和」。江戸時代の吉原を舞台に、実在した戯作家・参和の数奇な生涯を、元妻である老婆の語りで描いた一人称の小説ですが、小沢はその元夫に運命を翻弄される老婆に扮して、原作をそのまま読み演じるという異色かつ意欲的な作品となっています。
また、全体が二部で構成される舞台の前半では、物語の背景をより深く知るために、小沢が古今の事例などを交えながら江戸の花街・吉原を詳しく解説するパートがありますが、その話術自体が名人・小沢昭一の“語り芸”であり、それだけでも必見のもの。
本作のライナーノーツの中で、作家・クリエーターの
いとうせいこう氏は、「客をつかみきっておいて、小沢昭一はまたするすると第二部に入る。まさかと思う人物設定である。それまでの語り手は役の中に移動し、ある意味で客を突き放す。好きな人につれなくされた一瞬の不安と共に、客は小沢の世界を追いかけざるを得ない。そこに第一部でのフリートークで知った江戸時代の知識がじわじわ効いてくる。(中略) 名人たちの芸は古来よりどのような構造を持ち、どのような手練手管で実行されてきたかの、これは一瞬も見逃せない教科書である」と述べ、小沢の芸の魅力とその構造をここまで端的に言い表した解説はこれまでになく、追悼盤に相応しい名文を寄せています。
名優にして俳人、また稀代のラジオパーソナリティーでもあった小沢昭一の真骨頂を記録したこの映像作品。すべての芸能に関わる人と、芸を愛するファンは必見です。