独ベルリンを拠点に活動するミニマル・ダブのパイオニア、ステファン・ベトケのプロジェクトの
ポール(Pole)が、前作『
ヴァルト』から5年ぶりとなるニュー・アルバム『フェイディング』(CD TRCI-68 2,300円 + 税)を11月6日(金)に発表します。新曲「Röschen」が公開中。
人の歴史を掘り起こしていくこと、それがアルバム『フェイディング』を作るきっかけになっている。「このアルバムはほぼ全て、“記憶の喪失”という概念がもとになって出来上がった」とベトケは語っています。「自分の母親が当時認知症にかかっていて、彼女が91年にもわたって積み上げてきた彼女の記憶全てを無くしていく様子を見ていたんだ。まるでその様は、生まれたてで彼女の人生が始まったばかりのような感じに思えた。まさしく、まだ中身が空っぽの箱のような」
といってもこのアルバムはいわゆるコンセプト・アルバムではありません。この“記憶をなくす”という概念は、ベトケにとってアルバムに取り掛かるためのきっかけでしかなく、このベルリン在住のアーティストはこの概念を題材に、さらなるサウンドの深みを追求していくことになります。「今回のこのアイディアは、物事の方向性を決めて進む“動力”のようなものだった」「最初のトラックである〈Drifting〉に関していうと、人生において考えや考える力がほぼ空の状態から徐々に増えていく様を表現し、曲の最後には遠くで鐘の音が鳴る、というようにして、最後のトラックの〈Fading〉では、その蓄えてきた力が徐々に薄れていき、最後には消えてしまう、というようなことをサウンドで表現した。しかしながら人というのは、全てを失うわけではなく、感情やイメージ、何かしらの雰囲気みたいなものは残していく。生きとし生けるものは全て地球上に何かを残していく」
このようなアプローチのおかげで、ベトケは自身の記憶や過去とも再びつながりを持つことになりました。「今回の作品のサウンドの中で、ちょっとした破裂音や雑音などがいくつか聞こえると思うんだけど、それらは直接以前の三部作から引用したものなんだ。しかしそれらは、そんなに煩くは聞こえないと思う。それが私としては何かしらかのヒントで、自分の記憶も徐々に薄れて行ってると思うから」