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MBV来日ロスを癒す 揺れるギター・ノイズの処方箋【後編】

2026/03/06掲載
マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの来日公演が終わり気抜けしています。ケヴィンのグライド奏法を感じさせる名曲が知りたいです。
MBV来日ロスを癒す 揺れるギター・ノイズの処方箋【後編】
 フィードバック・ノイズの壁と囁くような甘いメロディが共存する“轟音と浮遊感”の音楽、シューゲイザー。その象徴的バンド、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(以下MBV)『ラヴレス』は金字塔として知られ、ケヴィン・シールズが生み出したトレモロ・アームで音程を揺らす「グライド・ギター」は、平衡感覚を狂わせるような浮遊感でトリップ感を増幅させる奏法です。

 全公演完売したMBVの来日ツアーから一ヵ月がすぎても、醒めない余韻にひたりつつ、【後編】ではその揺らぎを受け継ぐ日本とアジアのシューゲイザー名曲を紹介します。

Cruyff In The Bedroom「clear light,white cloud」
 ギター/ヴォーカルのハタユウスケがご長寿イベント〈Total Feedback〉を主催するなど、日本のシューゲイザー普及にも貢献してきたバンド。初期はトレモロアームを揺らしまくる王道スタイルでしたが、2000年代後半からは多様なジャンルを取り込み、ライドのような蒼い衝動で疾走するロックも持ち味に。「clear light, white cloud」はその過渡期にあたる2008年作『saudargia』収録曲で、揺らめくギターが水面の光やジャケットの乱反射を思わせる美しい一曲です。



COALTAR OF THE DEEPERS「GOOD MORNING」
 91年の結成以来、メタルやジャンク、インダストリアル、ドラムンベースなど多彩な要素を取り入れ、唯一無二の“轟音サウンド”を築いてきたCOTD。中期の99~2001年は特にシューゲイザー色が強く、2001年作『NO THANK YOU』はファン人気も高い名盤。収録曲「GOOD MORNING」は、圧倒的な重さと揺らめくギターリフ、そしてフロントマンのNARASAKIと当時ヴォーカルを務めたイチマキが囁く“希薄な現実感と生への諦念”が心の隙間に入り込む名曲です。



sphere「long time will tell…」
 ZEPPET STOREのギタリスト・五味誠が率いるユニット。2022年にCOLLAPSEのShoko Inoueを新ヴォーカルに迎えて制作した『A Fusion Of Two Hemispheres』のリード曲は、時の移ろいをドリーミーに描いた楽曲。重厚な轟音パートと、水面のように揺らめくサウンドに包まれた歌メロの対比が、強風や寒暖差で揺れる春の空気に寄り添い、不安になりがちな季節にそっと逃避の余白を与えてくれます。



死んだ僕の彼女「彼女が冷たく笑ったら」
 男女ツイン・ヴォーカルで“死”や“喪失感”を描く埼玉発のシューゲイザー・バンド。死体が朽ちていく過程を示す「九相図」を冠した1stフル・アルバム『hades(the nine stages of change at the deceased remains)』には、彼らの個性が凝縮。序章となる「彼女が冷たく笑ったら」は、エモーショナルなメロディとドラマティックな展開が魅力で、破壊的で深く揺れるギターリフからは“死”への憧憬も感じられる一曲となっています。



Tokyo Shoegazer(東京酒吐座)「Constellations」
 2019年の再結成後はアジアを中心に海外でも人気を集めるアジアン・シューゲイザーの代表格。3rdアルバム『月世界遊泳』収録の「Constellations」は、MBV「オンリー・シャロウ」を思わせる唸り声のようなギターリフでグライド奏法が炸裂し、歌が始まっても水面のような揺らぎが続きます。そのサウンドが、渡辺清美の聡明で、色気をもつ歌声を際立たせています。



burrrn「something good」
 “和製ソニック・ユース”と称されたデビュー作『blaze down his way like the space show』では、「coming place」や「picture story show」など、ザラついたノイズとトリプルギターの轟音による恍惚感に満ちた名曲を放ちました。長い休止期間を挟み、2024年にはマーク・ガードナーのマスタリングによる13年ぶりの新作『without you』を発表。2025年の配信EP収録のVenus Peterカヴァー「something good」は、原曲の多幸感にMBV「アイ・オンリー・セッド」を思わせる揺らめきを重ね、新たな魅力を引き出しています。



softsurf「Blue Swirl」
 マーク・ガードナーがマスタリングを手がけた1stアルバムで高く評価される名古屋発の5人組。メランコリックなメロディと、無垢で儚い男女ヴォーカルがもたらす陶酔感はこのバンドの大きな魅力です。初期の名曲「Blue Swirl」は、揺らめく轟音ギターと歌メロの調和が美しく、2017年のEP『Into the Dream』に収録。2022年にはSatomiによる新バージョンも配信されています。



RAY「しづかの海」
 コアな音楽ジャンルで個性を発揮するアイドルグループが増える中、RAYはMBV好きとして知られる内山結愛を擁する、シューゲイザーが特色のグループ。「しづかの海」は、内山も所属したRAYの前身バンド“・・・・・・・・・”の楽曲で、映画『左様なら』の主題歌にも起用。元For Tracy Hydeの管梓が手がけた同曲は、幾重にも重ねたギターとうねる揺らぎ、朽ちていく恋人を描く文学的な歌詞が魅力で、作者渾身の“アイドル×シューゲイザー”の名曲。RAYがアルバム『Green』で再録し、彼女たちのパフォーマンスで色鮮やかに甦らせています。



DEATH OF HEATHER「Pretty Things」
 バンド名はペール・ウェーヴスのヴォーカルと、ポストパンク・バンド“デス・オブ・ラヴァーズ”に由来するというインディ・ファン心をくすぐる、タイ・バンコク発の4人組。2023年の初来日では解散直前のFor Tracy Hydeとの対バンも実現し、両者のスプリット7インチも話題に。For Tracy Hydeの「Milkshake」がシューゲイズを超えた名曲である一方、DEATH OF HEATHERの「Pretty Things」は、歌詞の“絶望”に呼応する深く揺れる轟音リフが印象的で、一瞬で耳を奪う力を持つ楽曲です。



COMMEMORATE「See You Again」
 昨年来日したbabychairをはじめ、近年盛り上がるマレーシアのインディ・シーン。その中でも2023年にクアラルンプールで生まれた5人組は、澄んだアルペジオと轟音ギターを使い分けた幻想的なサウンドと、Sashaの淡く幽玄な歌声が魅力。1stアルバム収録の「See You Again」は親しみやすいメロディながら、全編を覆うグライド奏法が不安定な揺らぎを生み、幻惑的な音像を形作っています。



FOG「Listerine」
 ギター&ヴォーカルのGynはAsian Glow名義でも知られる韓国の6人組シューゲイズ・バンド。2ndアルバム『fogesque II』は、暗く荒廃した轟音ギターと、浮遊感と寂寥感を帯びたスローテンポ曲が並ぶ“サッド・ゲイズ”作品。収録曲「Perestroika」「Listerine」ではグライド奏法を用い、重さの中に危うさも漂います。90年代USオルタナやエモコアも取り入れたサウンドは、同国のParannoulと並び、2010年代後半以降のシューゲイズの潮流を象徴する存在です。



 いかがでしたか? 空間を満たし揺らめく轟音は、日本からアジアへと広がる情緒的なメロディや詩とよく響き合うようです。これからも多様な文化や美意識と結びつきながら、新たな世界観や憧憬をうみだしていくのかもしれません。

(※写真はcruyff in the bedroom『saudargia』のジャケット)
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