2025年の
セックス・ピストルズ 結成50周年に続き、今年は
ダムド や
ザ・クラッシュ も結成50周年。1976年後半から1977年にかけて一気に世界へ広がったロンドン・パンクが節目を迎え、パンクへの情熱も再燃しつつある中、今回は1976年結成の女性バンドにフォーカスしてリサーチ。
個性派が揃うバンドたちの楽曲から、進取の精神ほとばしる新年らしい名曲をご紹介します。
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X-レイ・スペックス 「何もできない…」 当時10代だったポリー・スタイリーンが雑誌でメンバーを募り、1976年にロンドンで結成されたサックス入りパンク・バンド。結成時には、のちにエッセンシャル・ロジック を結成するサックス奏者のローラ・ロジックも所属しており、“女性が歌い、女性がサックスを吹くバンド”として当時話題を呼びました。1978年にアルバムを1枚発表するとあっという間に解散。その後何度か復活していますが、そのデビュー作『X光線と発泡スチロール 』は、ポリーの叫ぶような斬新な歌唱スタイル、キャッチーなメロディ、哀愁を帯びたサックスを特長とし、アイデンティティの危機を問いかける「アイデンティティ」や束縛なんてクソくらえ!と歌う「オー・ボンデージ・アップ・ユアーズ」などの名曲群で、ライオット・ガールの先駆的名盤として知られています。 そんな中で、新年の始まりにおすすめなのが「何もできない…」です。手拍子入りの明るい曲調とは裏腹に、「書けない・歌えない・何もできない・地獄にすら行けない」と、“できない”が並ぶ歌詞は、“本当はいろんなことをやりたい”と言う本心の裏返しのようにも感じられます。当時のロンドンの若者が抱えていた無気力さと、そこから抜け出したい衝動が同時に表れた楽曲で、春になったら動き出そうと思ってる人にもお薦めです。 VIDEO
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ペネトレーション 「ライフ・イズ・ギャンブル」 セックス・ピストルズ のライヴに刺激を受けた紅一点ヴォーカル、ポーリン・マレーを中心にイングランド北東部で結成。エキセントリックな歌唱で注目を浴びた当時の女性パンク歌手の中で、ポーリンは高音で澄んだ美しい声を聴かせる存在でした。 直情的でハードロック寄りのギターに乗せ、社会の欺瞞を鋭く突くポーリンの歌詞が光る「ドント・ディクテイト」と「ファイアリング・スクワッド」は、今聴いてもまったく色あせない初期の名曲です。1978年のデビュー・アルバム『ムービング・ターゲッツ』には、変革の時代に迷いながらも進むべき道を見つけていく心情をまっすぐに描いた名曲「ライフ・イズ・ギャンブル」が収録。躍動感あふれる明るいギターが徐々に盛り上がるアレンジは高揚感を呼び起こし、ポーリンの清冽な歌声が鈍った心と頭を覚醒させてくれます。VIDEO
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ディッシュラグス 「パスト・イズパスト」 カナダ・バンクーバーで女子高生3人によって結成されたディッシュラグスは、北米女性パンクの先駆け。「アイ・ドント・ラヴ・ユー」「ラヴ・イズ・シット」など、ラモーンズ 直系の荒々しく疾走する2分弱の楽曲は、今も初期パンク好きから支持されています。 短く勢いのある楽曲が多い中、1979年発表のEPの表題曲「パスト・イズパスト」はミドル・テンポのナンバーで、どこかレイジーな雰囲気。ポップなサウンドながら「時間が私に追いついてきた」という歌詞が、焦りと“動き出すべき瞬間”を突きつけます。バンドはシングルと2枚のEPを残して解散しましたが、後に音源をまとめたアンソロジーが発売され、日本のBASEレコードからもシングルやライヴ音源などをまとめた『Past Is Past 』がリリース。同曲は男前なジャケットの『スリー』などのコンピレーションにも収録されています。 ■
スージー・アンド・ザ・バンシーズ 「ハッピー・ハウス」 社会を皮肉った歌詞が多く、前向きな楽曲を探すのが難しい70年代パンクスの中でも、とりわけ前向きとは程遠いゴスの女王、スージー・スー 率いるバンシーズ。厚化粧とレザー・ファッションに身を包んだスージーの呪術的な歌唱、サイケデリックなサウンドが織りなす、退廃と耽美が入り混じった世界観でロンドンで独特の存在感を放ちました。 そんな彼女たちが、初期メンバーの突然の脱退劇を経た3rdアルバム『カレイドスコープ 』は、タイトル通り“万華鏡”のように多面的で、メンバー交代がむしろ音楽性の幅を広げた作品。中でも、マガジン のジョン・マクガフをギターに、元ザ・スリッツ のバッジ―をドラム迎えて制作されたシングル「ハッピー・ハウス」は、広告が描く虚構の“幸せな家庭”を皮肉る歌でありながら、バンシーズとしては異例の明るさと遊び心に満ちた曲です。「ここじゃみんなハッピー 地獄なんてありゃしないわ」という歌詞には、偽りの幸福への批判と同時に、新体制バンドの勢いと自由さが表れています。スージーがピエロ姿で跳ね回るMVも象徴的で、翌年の名盤『呪々 』へとつながる創造力の高まりを感じさせます。『カレイドスコープ』は、新しい挑戦を始める時にもぴったりの一枚です。 VIDEO
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ザ・スリッツ 「はじめにリズムありき」 14歳だったアリ・アップ とパームオリーヴがパティ・スミス のコンサートで出会ったことをきっかけに、女性だけの5人で結成。メンバーの多くが楽器初心者だったにもかかわらず、レゲエやファンク、民族音楽の要素を取り入れた独自のリズム感あふれるサウンドで、ロンドンでも屈指の革新性を示しました。伝統的なロックの枠を軽々と超えたその姿勢は、パンクの精神そのものと言えます。 レインコーツ 加入組が抜けて、3人となりデニス・ボーヴェル のプロデュースで発表した1stアルバム『カット 』、2ndアルバム『大地の音 』はともにニューウェーヴ / ポストパンクの名作として語り継がれていますが、今回紹介するのはその2作の間にリリースされた、ザ・ポップ・グループ とのスプリット盤収録曲「はじめにリズムありき」です。タイトルを叫ぶアリ・アップの声で幕開け、スカスカなビートにのせてアリが野性味あふれるラップで語る「宇宙の真理はリズムにあり」と言わんばかりの歌詞。エスニック・サウンドをパンクに持ち込んだスリッツの音楽的姿勢を示すと同時に、原始的な感覚こそ力になるというメッセージが感じられ、人知を超えた強力な運をひき寄せてくれそうな一曲です。 2006年の丙午は勝負運が強まる年とされます。既成概念や権威を超えて革新を生んだ女性パンクの音楽は、そんな年にこそ縁起の良い力を与えてくれるでしょう。