デペッシュ・モード   2009/04/21掲載
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 1981年のデビュー以来、美しいメロディとダークな世界観で、ニューウェイヴ/エレクトロ界で孤高の存在であり続けるデペッシュ・モード。彼らが2005年の『プレイング・ジ・エンジェル』以来、約3年半ぶりのニュー・アルバム『サウンズ・オブ・ザ・ユニバース』を発表した。12枚目となった新作の最新インタビューとともに、約30年の活動を追いかけ、変化しながらも通底する彼らの徹底的な美意識、枯れぬ才能、その魅力を探っていきます。


禁酒してたくさんの楽曲を生みだしたマーティン・ゴア
積極的に曲作りに参加したデイヴ・ガーン


 来年で結成30周年を迎えるベテラン・グループ、デペッシュ・モードが、通算12枚目となる『サウンズ・オブ・ザ・ユニバース』をリリースした。90年代以降はアラン・ワイルダーの脱退(95年)やデイヴ・ガーン(vo)のドラッグ禍、また各メンバーのソロ活動を挟みながらも4年に一枚のペースで新作を発表し、全作品を英米チャートのトップ10に送り込む活躍でアリーナ/スタジアム・バンドとして不動の人気を確立した彼ら。しかしそれが仇となり、これまで20年近くも日本ツアーが組めない状況が続いているのは、彼らのファンにとって淋しい限りだ。

 それはともかく、前作でバンドとしての一体感やフレッシュな勢いを取り戻したのは、プロデューサー、ベン・ヒリアー(ブラーエルボーダヴズなど)との相性が良かったからのようで、引き続きヒリアーがプロデュースを手掛けた新作は、ここ20年の最高作と評したくなるほど楽曲、音作りともにこれぞデペッシュ・モードならではのロマンティシズムに彩られた、素晴らしい作品に仕上がっている。
 「前回アルバムを一緒に作った時、彼の才能に本当に感心したんだ。だから今回のアルバムも彼に頼むのは自然なことだったし、正解だったよ。彼はバンドに優れたバランスをもたらすんだ。彼はデペッシュ・モードが今回のアルバムでどの方向に進むべきかもちゃんと理解していた。僕らももう年だから、そういうふうにアイディアをちゃんと主張し、具体的なディレクションをして手助けしてくれる存在も重要なんだ(笑)。でも彼とはかなり早いペースで仕事ができたし、今回のアルバムの出来にもすごく満足してるよ」 (マーティン・ゴア/g、syn、programming)


 新作の出来が良い理由はそれだけでなく、マーティン・ゴアが禁酒したことで、デペッシュ・モード史上初めて、レコーディング前にアルバム2枚分もの曲が揃っていたのだとか。
 「クリエイティヴな人間のライフ・スタイルがクレイジーなのは皆も知っているだろ? だから2年半前、2007年のツアーの途中でマーティンが禁酒を誓った時、それがクリエイティヴ的に良いことか悪いことか分からなかったし、今回のアルバムを作る上でけっこう不安を抱いてたんだ。でも禁酒を始めてからマーティンは純粋にまた音楽に興味を示して、数々の曲を作り始めたんだ(笑)」 (アンディ・フレッチャー/key)

 「じつは今回はスタジオに入る前に24曲がほぼ出来上がってたんだ。『プレイング・ジ・エンジェル』の時よりもはるかに多い曲数がね。だから多くの曲をレコーディングできたんだよ。レコーディングの期間は前作と同じぐらいだったけど、その間にもっと数多くの曲をレコーディングしたから、そういう意味ではペースは速かったのかもしれない。前作同様バンドのテンションはものすごく高かったから、作業自体は本当にスムースだったよ」 (マーティン)

 さらにもう一つ、デペッシュ・モードが好調なのは、メンバー間の人間関係や各人の精神状態がきわめて良好だからのようだ。前作で初めてバンドに曲を提供したデイヴ・ガーンとメイン・ソングライター、マーティン・ゴアによる初共作曲「オー・ウェル」が本作に収録されるなど、デビュー30周年を目前にして新たな次元に踏み出したようなのが興味深い。
 「以前のデイヴは歌うだけだったから、アーティストとして何か満たされていないようなところがあったけど、彼が積極的に曲作りに参加するようになって、スタジオの雰囲気がグッと良くなったんだ。クレジット上、たしかに共作曲は初めてだけど、いつも全員で作り上げてきたからさほど特別な思いはない。ただ僕の曲にデイヴが歌詞を書いたことは、バンドにとってすごく良い前兆だと思う」 (マーティン)


ヴィンテージと最新機材を同時に使って作り出した
レトロ・フューチャリスティックなサウンド




 そんな新作のサウンド面での大きなポイントが、今では珍しいアナログ・シンセサイザーの導入だ。ちょうどレコーディングの時期にマーティン・ゴアがネット・オークション“eBay”にハマり、大量のヴィンテージ機材を落札して実際にレコーディングで使用したというからおもしろい。
 「昔の機材の方が音質も温かいし、テクスチャーも複雑でおもしろいと思ったんだ。もちろんギターや新しいシンセも使ったけど、ヴィンテージと最新機材を同時に使っているのがレトロ・フューチャリスティックというか、モダンさと同時に過去の音の雰囲気も感じられるのが新作の特徴だと思う。安い物は150ドルのドラム・マシーンから、かなり高かったけど音質が最高の“Steiner Parker”まで……このシンセには“カーネル(大佐)”と名付けたんだけど、アイディアに詰まった時に“カーネルの出番だ”とか言ってずいぶん助けてもらったよ(笑)」 (マーティン)

 こういった話からもレコーディングを楽しんでいた様子が伝わってくるが、今回もレコーディングは、サンタバーバラ、ニューヨーク、ロンドンと、メンバーそれぞれのホーム・スタジオや家の近くにしたのだとか。
 「80年代、90年代と違って今の僕らには家族がいるし、子供たちもティーンエイジャーで重要な年頃だから、できる限り家族一緒に過ごしたいんだ。ツアーに出たら嫌でも長期間離れて生活しなければならないんだからね。だからプライオリティとかが今と昔では違う。それにどこのスタジオも暗くて窓がない陰気くさい部屋だから、基本的にはどこでレコーディングしても一緒だと思うからね。でもサンタバーバラはちょっとキツかったかな。燦々と太陽の光が降り注ぐホリデー気分になりそうな気候の中、暗い部屋に閉じこもらなければならなかったからね(笑)」 (アンディ)

 メンバー全員、和気あいあい、楽しんで作り上げたアルバムのせいか、いつになくサウンドも瑞々しくしなやかなのは気のせいではない。スピリチュアルな「ピース」や、彼ら流のR&Bに仕上げた「ロング」、メロウで美しいバラード「ジザベル」、エッジの効いた「フラジャイル・テンション」など、アナログ・シンセサイザーを使った、どこか懐かしくも新鮮で、かつカラフルなサウンドを聴かせながら、どの曲も深みや奥行きといった年輪を重ねてきたバンドならではの滋味を感じさせるのが近年の彼らの魅力だ。加えてどこかエレガントで抑制の効いたロマンティックな音世界を作り上げているのがデペッシュ・モードの真骨頂だろう。願わくばそろそろ今年のサマー・フェスティバルで、19年ぶりの来日公演を期待したいものだ。



取材・文/保科好宏(2009年3月)



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