音楽の言語を探すという感覚――藤本一馬、4thアルバム『Flow』を語る

藤本一馬   2016/05/10掲載
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 取材の前夜に観た、トリオ編成によるステージが、なにしろ素晴らしかった。ソロ名義としては通算4作目となるニュー・アルバム『FLOW』。その参加メンバー2人を迎えての、言わばお披露目ライヴ。が、主役である藤本一馬のギターに、林 正樹のピアノ、西嶋 徹のダブルベース、3人の奏者が交わす“音の会話”の豊かさといったらどうだろう。一見静謐。ひたすら内省的な演奏と思える一方、ギターとピアノ、どっちがどっち……?というくらい、わかちがたい共鳴を響かせる得も言われぬ瞬間がある。インストゥルメンタルならではの明晰さはきちんと担保しながら、音楽だから描ける叙情性も折りにふれ登場。音色そのものに“語らせる”。そんな演奏の広がりに触れた今、先だって聴いていた『FLOW』の魅力のゆえんにも、あらためて得心がいってくる。
Photo: Masatoshi Yamashiro / 衣装協力: KATO'
――曲間のMCで林さんがおっしゃっていた、「(ベタな)物語性は排除したかった」という言葉が印象的でした。
 「今回のレコーディングにあたって、正樹くんの存在は非常に大きかったんです。音楽への理解が深く、奏法が素晴らしいというのもさることながら、イマジネーションの余地を残しておくことが、本当に得意なんですよ。僕はと言えば、放っておくとストーリーをどんどんどんどんつけ加えていっちゃうタイプ(笑)。正樹くんが持ってる余韻の感覚を、僕の音楽のなかでより広げていけたらと、彼のピアノを意識しながら演奏した部分はあります」
――藤本さんのギター自体、2011年の1stソロ『SUNDANCE』当時の雄弁さとは、打って変わって抑制を利かせている印象があります。
 「近年は音を積極的に埋めていくより、選んでいく傾向にあるとは思います。『SUNDANCE』の頃にしても、音数はそれほどたくさん弾いていたわけじゃないんですよ。ただ、音のダイナミクスの触れ幅は相当大きかった。つけ爪をして弾いてもいたし、かき鳴らすような奏法もありました。それが僕自身の音楽の変遷とともに、音を減らすようになってきた」
――音の変遷が先だったのか、それとも藤本さんが変化したことで、音も変わってきたのか……。
 「どうなんだろう……。考えてやっているというよりは、自分が書いたオリジナルがまずあって、その曲が必要としている奏法を選んできた感じなんです」
――まずは曲ありき?
 「かもしれないです」
――たとえば、『FLOW』1曲目の〈Polynya〉を例に挙げるとすると。
 「必要な音をひとつひとつ選びながらつくった、まさに今の感覚の中でつくっていった曲ですね。ギターのチューニングを変えるのも好きなんです。チューニングを変則的にすると、ギターが通常持っていないはずの倍音の重ねかたができる。『SUNDANCE』の頃は、そういう感覚が天上方向に開けたというか、ぐーっと突き抜けていく感覚でやっていたんですが、〈Polynya〉に関していえば、同じオープン・チューニングでも、もう少し落ち着いたトーンを意識しています。〈Polynya〉自体、できたのは少し前なんです。ソロ3作目の『My Native Land』では、『SUNDANCE』で収録できなかった曲も入れながら、新しい曲も入っている。その意味で『SUNDANCE』の流れを一部引きずっていたアルバムだったんですけど、その2、3ヵ月後にリリースした伊藤志宏くんとのデュオ・アルバム(『Wavenir』)が、僕にとってはもうひとつのソロ作に等しい作品で、今やっているような音楽に、そこで近づいてきた。以来ライヴを重ねるなかで、アンサンブルも現在の形へと固まってきた」
――オープン・チューニングにはギターという楽器を完成された状態から自由にする。そうした効果もあるのじゃないかと想像しているんですが。
 「ギターそのものが、そもそも僕にとって完全な楽器ではないんです(笑)。たとえばピアノと比べると、相当な不自由と不便を強いられる楽器だという感覚がある。弦も6本と少ないし、指で押さえられる範囲も限られる。その不自由さを逆手にとってやろうと、チューニングを変えてみたりしているところはありますね」
――昨夜のライヴでも、ご自身のギターに相当むちゃぶりされていました。
 「そうそう(笑)。同じ曲を練習とリハと本番とで1日3回弾いたら、弦が耐えきれずに切れてしまった(笑)。ある意味民族音楽的な試みを、ギターにさせているというのかな。民族音楽すべてがそうだというつもりはないですけど、荒々しい表現をしてみたいというときも、たしかにある。一方でギターなんだけど、あたかもピアノのハーモニーのようなエレガントさが欲しくなったり。ざっくり言うと僕にとってのオープン・チューニングはこういった対照的な2通りの感覚でやってます」
――ギターがピアノっぽく聞こえる瞬間は昨夜もありました。それくらい、ピアノとギターとのレゾナンスがよかった。
 「うれしいです、それは。今回、ギターとピアノ、ベースも含めてなんですけど、アンサンブル全体を生き物みたいにサウンドさせたい。ピアノとギターをユニゾンさせたりハーモニーさせたりすると、どっちがどっちかわからなくなるみたいな音像感を目指していたので。タイム感についても、少しだけギターが前にいくように演奏するだけで、それに応じてピアノの出方も変わってメロディが強くなったり。後ろに下がることで膨らんだり。それがちょうどのタイムで一致するときは、もわ〜んとした、なんとも言えずいい心持ちがするし(笑)」
――音色の重なりが醸し出す“モアレ”のような。
 「そうそう。あれ好きなんですよ。そういうところは、お互い相当繊細にやっています。西嶋さんのベースはいつも抜群のタイムで2人を吸着してくれていて、でも場合によっては、ものすごい後ろにいたり。僕から(こんなに)離れてタイムをとってきたり、それがあるからより自由になれる。あとは正樹くんが疑似ディレイみたいな、そういうユニゾンの取り方をするのが、すごくおもしろい」
――ところで曲名はどうやってつけているんですか?
 「ほぼ第一印象です」
――じゃあ、そんなに信用しなくてもいい(笑)?
 「ただ、タイトルを決めてから曲をつくるということはないんです。ポンと曲ができて、それに対する第一印象。大抵もわーんとしたものなんですけど、イメージをひもとくようなアプローチですね」
――言葉ってイメージを規定できる便利さと、規定したことでそれ以外の可能性を排除してしまいかねない危うさ、両面があると思うんです。『FLOW』で藤本さんがやってらっしゃることって、音楽ならではの“言語”があるとしたら、ある意味、純粋言語的な表現じゃないかと。
 「うんうん」
――音楽家って、音楽が“純粋言語”であることの意味を最も良く知っている存在じゃないかと思うんです。
 「もしかしたら、自分がいちばんに目指していることもそこなのかもしれないです。言語化できないぶん、ある意味テレパシーのような……。音楽の言語を探す、という感覚が、自分の活動の上では絶対に欠かせない」
――「Estrella del río」と「Azure」2曲に参加しているシルビア・イリオンドさんのヴォーカルも歌詞があることで限定的になるのではなく、イメージをふくらませるものですよね。
 「シルビアさんについては、よく共演しているミュージシャン達から聞かされていたんです。現代アルゼンチンのフォルクローレ・シーンで確固たる地位を獲得しているシンガーで、フォルクローレへの深い造詣と大地の薫りがする、のびやかで清澄な歌声が魅力の方であるとか。でも、実際歌っていただいて受けたイメージは、とにかくイマジネーションに訴えかける、素晴らしいものでしたね。歌だから限定的になってしまうというのは、そう考えると歌い手の問題なのじゃないかと(笑)。素晴らしい歌い手であれば、歌詞以上に非言語化されたなにかを、僕らに与えてくれているのかもしれない」
――参加曲はシルビアさんご本人が選んだんですか?
 「僕は当初、全曲インストゥルメンタルのアルバムを考えていたんです。そこにレーベル・ディレクターから、シルビアさんに作詞と歌で参加いただくのはどうだろう、という提案があった。光栄なお話だし、もちろんって。聴いていただいたのは僕がギターを弾いているだけのデモだったんですが、送ってすぐに歌詞ができあがってきた」
――なんでも、まだ直接お会いしたことがないとか。
 「そうなんです。データのやりとりだけで」
――いい話ですねえ(笑)。シルビアさんが書いたスペイン語歌詞を手にして、どう思われましたか?
 「曲名は、最初僕がつけたものと同じなんです。それをふまえながらイメージを広げてくださった。それこそ言語化していただいた感じですよね。すごくスペシャルな感覚でした」
――藤本さんが“天の川”をイメージしていた“estrella del río”という表題を、シルビアさんは“川面に映る星”と解釈されている。鏡像関係にあるようで、そこもおもしろかったです。
 「シルビアさんからは、どっちなの?って訊かれていたんですよね。どっちの意味?って。僕らもどっちにしようと思っていた。ただ星と川のイメージはあるから、どっちでもありだぞ、という取りかたにしようと。ゆだねる形で答えずにおいたら、見事に解釈してくださりました」
――星と川の関係、みたいな。イメージが2倍になりましたね。
 「そうなんです」
――アルバム・タイトル曲の「Flow」についても、うかがいたいんですが。最初、林さんのピアノで静かに始まるのに、後半はそれこそ怒濤の展開になっていく。
 「いちばん新しい曲なんです。今年の2月くらいかな。(アンドレ・ケルテス撮影による)アルバム・ジャケットの写真を見せてもらったとき、すごくいい写真だな、と。川のような音楽みたいなことも思ったんです。川の流れと人生の流れを重ね合わせてみたり」
――今、おいくつですか。
 「36になります」
――ぜんぜんオッケーじゃないですか(笑)。
 「(笑)まあ、人生いろんなことがあるなかで、それを川にたとえるとして、僕はどういうふうに川をのぼっていくのか下っていくのかとか……」
――自分が川になっちゃえばいいですよ(笑)。波風立ててみたり、せせらいでみたりして(笑)。
 「いいですね。自分が人生を切り開いている気持ちになる。実際、川は川でも流れは一定じゃないですよね。だから曲のほうも変拍子なんです。一方、メロディのモチーフはふわふわ浮いている、僕としては“Flow”かな……と思ってた。そしたらディレクターからも“Flow” がいいんじゃない? って。イメージを共有できていたんです」
――いっぽう「Snow Mountain」は、「Flow」の似てない兄弟というか(笑)。ライヴで観ていても、インタープレイの楽しさを感じる曲でした。
 「このアルバムの中では、ジャズ的な要素がいちばん出ている曲ですよね。今回のアルバムは楽曲が強く出ているので、アクセントではないけど即興性を意識しています。はらはらどきどきするような(笑)」
――アルバム最後に置かれた「Prayer」について、つらい時もあるけれど、やっぱりポジティヴな方向でいいのかも、昨夜のステージでそんな話もされていました。
 「ネガティヴな捉えかたをしようと思えばいくらでもできるし、本当になにも信じられなくなる。ただ、そういう気持ちはあっても、いいな、と思える、肯定的な気持ちになれる出来事はあるんです。だから、それでも“いいね”と思いたい。最後はいい人生だったと思いながら終わっていきたい。そういうエンディングです」
――アルバムの中でも最もエモーショナルな曲ですよね。湿っぽくはないけれど、センティメントのほうに振れてはいる。
 「変に押しつけがましく感傷的だったり、湿っぽかったりするような表現は避けたつもりです。大きな意味での“祈り”。この曲が最後の最後にできたことも、自分の中でのいい“流れ”でした」
取材・文 / 真保みゆき(2016年4月)
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