喪失感、記憶の危うさ、劇場――三宅 純のライフワーク『Lost Memory Theatre』を紐解くインタビュー

三宅純   2014/09/08掲載
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 それは音でデザインされた不思議な劇場。音楽が記憶を刺激して、幻想的な物語を紡ぎ出していく。ジャズというフィールドから軽やかに越境して独自の世界を切り開く三宅 純の最新作は、昨年ヨーロッパの音楽シーンで絶賛された『Lost Memory Theatre act-1』の続編、『Lost Memory Theatre act-2』だ。リサ・パピノー、ヴィニシウス・カントゥアリアメルヴィン・ギブスなど多彩なゲストを迎えて作り上げたサウンドは、聴くものを美しい迷宮へと誘う。そのユニークな音作りのコンセプトについて、三宅 純に話を訊いた。

――今回の新作は『Lost Memory Theatre act-1』の続編ということですが、前作を制作している段階から構想されていたのでしょうか。
「このシリーズのアイディアを思いついたのは、もう20年くらい前のことなんですよ。たとえば〈eden〉というタイトルの曲は、その当時に書いたものなんです。でも振り返ってみると、これまで自分が作ってきたものはすべて、この中に入れられるかなっていう気がしないでもないですね」
――ある意味、三宅さんのクリエイションのテーマみたいなものなんですね。
「自分が表現したいことが、喪失感であったり、記憶の危うさだったり、劇場っていうものへの憧れだったりするっていうのはありますね」
――前作『act-1』と本作の関係性については、どのように捉えられていますか?
「今回の『act-2』は非常に特殊な立ち位置にあって、まず『act-1』を聴いていただいているのが前提で、さらにこの後、『act-3』もあるのが前提になっているんです。本作は舞台でいう第2幕の扱い。そんなアルバムを作ってみようと思ったんですよね」
――全3幕の物語になっている?
Photo by Jean-Paul Goude
「そうです。まず、『act-1』で聴き手を劇場まで導入する。そこでは失った記憶を呼び覚ますけれど、過去に聴いたどの音楽とも違うようなものが流れているんです。そして『act-2』では失われた記憶のひとつひとつを見ていく。でも、そのためには、パーソナルな世界にまで入っていかないと見えてこない。それで、小さな部屋が並んでいるようなイメージでアルバムを組み立ててみようと思ったんです。過去に舞台作品のために作ったピアノ曲が何曲かあったんですが、それを柱のように立てていくと、アルバムのイメージに近づくことに気がついたんですよね。過去の舞台作品というのは、サントラが出なければ人々の記憶にしか残ってないもの。それ自体が一種の“Lost Memory Theatre”でもあるわけで。そういう具合に過去の集積としてこのアルバムができたんです」
――なるほど。前作はヴォーカル曲が中心でしたが、今回はインスト曲が多くなっているのも、そうしたコンセプトと関係があるんですね。今回のピアノ曲はサティみたいで小部屋っぽい感じがします。それに前作は人の気配に満ちていましたが、今回は人が立ち去った後のような雰囲気がありますね。
「そうなんですよ。部屋は空で、そこに何か気配が残っているだけ。とくにピアノ曲はそうですね」
――今作のヴォーカル曲は、多彩なヴォーカリストを迎えた前作に対して、1曲を除いてリサ・パピノーがすべて担当しています。そういう演出も前作と違った雰囲気を生み出していますね。
『Lost Memory Theatre act-1』
「今回は前作みたいな色彩感を必要としていなかったからかもしれないですね。前作は動物園っぽかったですけど(笑)、今回はもっと密やかなものにしたかったんです。だからといって、まったく歌がないアルバムは想像しにくかった。そこで過去に対する痛みみたいなものを共有できるシンガーは誰かな? と考えたときに、リサが一番良いんじゃないかと思ったんです。彼女は難病を抱えながら果敢に音楽活動をしているんですが、精神的にフラジャイルでありながらもエキセントリックな部分がある。歌詞も彼女に任せているのですが、直接的に“こんな記憶を失くした”みたいな歌詞ではなく、実体験をもとにヴィジュアルをともなったポエティックな世界を描いてくれるんです」
――そんななか、「que sera sera」だけチエ・ウメザワさんが歌われていますね。
「この曲は10年くらい前に録音したものなんです。当時の彼女の歌声はちょっと気怠くて、60年代のアメリカの郊外に住んでいる有閑マダムみたいな雰囲気があって。だからデヴィッド・リンチみたいなアレンジで「que sera sera」をやってもらったら面白いんじゃないかと思ったんです」
『Lost Memory Theatre act-2』
――そういえば、リンチの作品が持つシュールで白昼夢めいた雰囲気って、『Lost Memory Theatre』シリーズにもありますね。
「あると思います。たとえば彼が撮った『マルホランド・ドライブ』っていう映画に“シレンシオ”っていう謎の劇場が出てくる。そこでは歌も演奏もみんな口パクなのに、観てる観客はみんな大泣きしているという不思議なシーンなんですよね。『Lost Memory Theatre』には、そういうイメージもありました。さらにそこには『ブレードランナー』のレプリカントがいて、みたいな」
――デヴィッド・リンチとレプリカント! すごい組み合わせですね。ますます『Lost Memory Theatre』の世界が広がりました。最後に記憶(Memory)についてうかがいたいのですが、三宅さんのいちばん古い音の記憶は何ですか?
「やっぱり、母親が歌ってくれた子守唄かな。シューベルト的なものもあれば、日本的なものもあったと思います。ただ父親は音楽どころか音をたてることを嫌っていましたね。科学者だったんですけど、家で論文とかを書いていたから音が気になったのかもしれない」
――静まり返った家のなかで子守唄が聞こえてくる。ちょっと“Lost Memory Theatre”っぽいですね。
「そうかもしれないですね。考えてみたらシュールでデカダンな光景ですね」
取材・文 / 村尾泰郎(2014年8月)
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