おおはた雄一   2008/08/29掲載
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 5月にリリースしたカヴァー・アルバム『SMALL TOWN TALK』において「Don't Think Twice It's All Right」をカヴァーするなど、ボブ・ディランをこよなく愛する、おおはた雄一。今回の特別対談では日本を代表するディラン・フリークとして知られる、みうらじゅんさんをゲストにお招きして、ボブ・ディランにまつわる話題から、おおはた雄一が進むべき今後の道(?)まで、ざっくばらんに語りあってもらいました。






演奏もラフな感じでダラダラ始まったり。そういう感じがロックっぽくて格好いいんだよね(みうら)


みうら カヴァー・アルバム(『SMALL TOWN TALK』)聴きましたよ。あのアルバムに収録されてるボブ・ディランのカヴァー(「Don't Think Twice It's All Right」)の許諾はどうやって取ったんですか?
おおはた どうだったんでしょう(笑)。許諾に関しては全部スタッフにお任せしてしまったんで。
みうら ディランはめちゃくちゃカヴァーに厳しいですから。日本語詞をわざわざ英訳させて、本人が歌詞のチェックをするって聞いてますが。
おおはた 僕の日本語詞は、意味が全然違っちゃってるんで、そのあたりは大丈夫だったんですかね(笑)。
みうら 逆にそれが良かったんじゃない? そもそもディラン自体、いろんな意味で自己流だもんね。
おおはた ギターの奏法も数学に学んだみたいなことを言ってますよね。「3を基本にした」とか言ってて。
みうら 世界のナベアツ的なこと言ってるでしょ、あの人。あれは、どういう意味なんだろうね。
おおはた たぶん自分で弾いてるリード・ギターのことだと思うんですけど……。
みうら あるとき気付いたんだけど、ディランのリード・ギターって、ハーモニカのフレーズを弾いてるんだよね。
おおはた あの独特なフレーズを。
みうら そうそう。“プヒ〜”って。あれをギターで弾いてるんだ。
おおはた それが3を基本にしてるかどうか、誰にも分からないですよね(笑)。
みうら 常に新しいことやってるから(笑)。あと、おおはたさんのアルバムは、アコースティック・ギターの音がすごく生々しく聴こえるような印象を受けたんだけど、あれはどういうふうに録音してるんですか?
おおはた マイクを何本か立てて、“いっせーのせ”で録ってます。
みうら それってディランがザ・バンドと一緒にやってる『ベースメント・テープス』と同じ録り方じゃん。あのアルバム、音のバランスは全然、良くないんだけど、すごく音が生々しいんだよね。アコースティック色の強い音楽には、昔ながらの録り方が合ってるのかもしれないね。

おおはた 新しいアルバム(『Music From The Magic Shop』)も基本的にはそういうやり方で録ってるんですよ。ニューヨークのスタジオで録ったんですけど、いい意味で、海外でのスタジオって、ラフなんですよ。ブースで一応、区切られてるんだけど、音もダダ漏れで(笑)。そうすると互いの演奏が聴こえるから、結構、やりやすかったりするんです。日本のスタジオは完全に外部の音が遮断されちゃうから、そういう意味では、ちょっとやりづらい部分もあって。
みうら 『ベースメント・テープス』にも遠くで犬の鳴き声が入ってるもんね(笑)。演奏もラフな感じでダラダラ始まったり。そういう感じがロックっぽくて格好いいんだよね。
おおはた 誰かが演奏し始めたら、他のミュージシャンがそれに合わせていくっていう。
みうら メトロノームを使って、きっちりテンポを合わせてるようなものよりも、聴いてて気持ちいいもんね。ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」も途中で演奏がヨレるでしょ。
おおはた リズムが表なのか裏なのか分からなくなって。でも、あそこがいいんですよね。すごくスリリングで。
みうら そう! ああいうところにグッとくるわけじゃん。そういうラフな部分にこそ、ロックの魅力があると思うし。特にアコースティック中心のサウンドだったら、より、きっちりしてないほうがいいんじゃないかと思うんだよね。

家賃を滞納してアパートを追い出されちゃって、バーに寝泊りして演奏してた(おおはた)


みうら だいたいフォークとかロックをやる人って、落語でいうと、ヴォーカルが“笑福亭系”のダミ声か、“桂系”の綺麗な声に分かれると思うんだ。そういうふうに分けると、おおはたさんは“桂系”だよね。囁くように歌ってるんだけど力強くて、歌手でいうと、レナード・コーエンを思い出したんだけど。
おおはた あ、僕、レナード・コーエン大好きなんですよ。声も音作りも含めて。
みうら やっぱり影響受けてるんだ。でも、レナード・コーエンとか、どうやって知るわけですか? 今、幾つだっけ?
おおはた 33歳です。
みうら その年代で、レナード・コーエン好きな人とか、あんまりいないんじゃない? コーエンは、どうやって摂取したんですか?
おおはた ニルヴァーナが歌詞の中で、レナード・コーエンについて歌っていて。それで気になるようになったんです。
みうら ギターを弾くキッカケはなんだったんですか? 新堀ギターではないですよね(笑)?
おおはた 新堀ギターではないです(笑)。
みうら 最初はクラシック・ギターとか?
おおはた いえ。僕は、ちょうどバンド・ブーム直撃世代だったんで、音楽うんぬんっていうよりも、まずギターを弾きたいなと思って。それでクラスの江口くんっていう友達とバンドを組んだんですよ。最初に始めたのが、ジュン・スカイ・ウォーカーズのコピーで、江口くんから1万円でエレキ・ギターを譲ってもらって、ひたすら練習しました。それから高校生になって洋楽のカヴァーとかするようになったんですけど、あるときふと、「俺は洋楽の曲を演奏してるのに、なんで普段、味噌汁を飲んでるんだろう……」とか思うようになって。
みうら ああ。分かる。“なんで俺はオカンと一緒にご飯食べてるんだろう?”とか。そういうギャップありますよね。
おおはた ずっと、そういうズレに悩まされていたんですよね。大学に入って上京して、しばらくブルース・バンドをやったりしてたんだけど、その頃も、常に違和感を感じていたし。
みうら “黒人の悲しみ”とか分からないもんね。
おおはた そうなんですよ。それで、自分の言葉で歌わなきゃダメだと思って、徐々に日本語で歌うようになったんです。




みうら でも、大学生でブルースやるなんて渋くない?
おおはた 最初はトリオのバンドをやってたんですけど、当時は他人と一緒にやるのが、あんまり得意じゃなくて。それで一人でできるスタイルを探っていくうちに、カントリー・ブルースに辿り着いて、八王子のバーで演奏するようになったんです。全然、お客さん入ってなかったですけど(笑)。
みうら そりゃそうだよね(笑)。時代とマッチしてないもん(笑)。
おおはた 当時、23か24歳だったんですけど、家賃を滞納してアパートを追い出されちゃって、バーに寝泊りして演奏してたんです。
みうら へ〜。そんなに苦労してるようには見えないけど。
おおはた でも楽しかったですよ。水商売のお姉さんたちに良くしてもらったり。みんなお店が終わると、お客さんを連れて僕の演奏を聴きにきてくれるんですよ。
みうら 水商売のお姉さんが、カントリー・ブルース聴いてるんだ(笑)。すごいね、その世界。
おおはた 「あの店のママが来たら、この曲を演奏するように」とか言われていて。
みうら “流し”じゃん、それ(笑)。
おおはた ボブ・ディランを演奏すると喜ぶおじさんとかいて。楽しかったですよ。まあ、楽しかったっていうか……自分で思い出を勝手に美化してる部分もあると思うんですけど。それほど辛くはなかったですね。
みうら 辛いことを辛く感じないっていうのは才能だと思うんですよ。俺も、人からみたら「なんで、わざわざそんなことやってるの?」ってことばかりやってるんだけど、全然、辛くないしね。要するに鈍感なんだよ。でも、それって才能だから。
おおはた さすがに、“あの頃に戻りたい”とは思わないですけど(笑)。こないだも、当時、働いてたお店に久々に行ってみたんですけど、よくこんな所で生活してたなって思いました。
みうら 俺もお金がないときは、たぶん酷い生活してたんだろうけど、何でできたんだろうね? たぶん先のことが全然分かんなかったからかな。
おおはた そのときは、とにかく必死ですからね。
みうら だから全然“自分探し”とかじゃないんだよね。たぶん“自分探し”って、お金持ってる余裕のある人がやることだと思うんだ。あれ旅行だもん。そもそも、“自分探し”しようって人が、わざわざ八王子には行かないでしょ(笑)。
おおはた ははは。でも、本当にいろんな経験をさせてもらいました。「店やらないか?」って二度ぐらい言われたことあるし。
みうら でも、そっち方面に行っても成功してたかもしれないよ(笑)。チェーン店出したりしてさ。先の人生なんて分かんないし、むしろ、分かんないほうが楽しくていいんだよね。

自分を困らせる方向に向かっていった方が、さらに、いい曲がたくさん書けると思うんだ(みうら)



おおはた 僕、みうらさんの『アイデン&ティティ』が好きなんですけど、あの漫画を描かれてた頃って、ちょうど、みうらさんが今の僕と同い年ぐらいですよね?
みうら そうそう。その頃はバンド・ブームが終わりはじめの時期で、世間的にも大人だったから、周りの人にも「いつまでも若い奴らと騒いでないで、こっちに来たらどうなんだ?」って誘いを受けるようになったんですよ。いわゆるバンド側じゃなくて、審査員側にね。でも、そういうのがすごく嫌だったんだよね。せめて気持ちだけでも“ノー・フューチャー”でいたいと思って。それで、“自分が困るようなことをすれば面白いことになるんじゃないか!?”と思って、『アイデン&ティティ』を描いたんですよ。あの漫画は実体験に基づいていて、当時、付き合ってた人に言われたことをセリフでそのまま使ってたりするから「これ私が言ったことだよね?」って、あとあと面倒くさいことになって。でも、それが当時の自分にとってブームだったんだよね。
おおはた 僕も最近になって、まだまだ落ち着きたくないなって思うようになってきたんですよ。
みうら でも、おおはたさん年間に200本ぐらいライヴやってるんでしょ? それ、相当、自分、困らせてるでしょ?
おおはた さすがに最近はそんなにやってないですけど(笑)。でも、かなり頻繁にライヴはやってるほうだと思います。
みうら さすがにそれだけ本数やってるとライヴの打ち上げとかしないでしょ?
おおはた いえ、僕の場合、ひと晩に何ステージもやっていて、しかも飲み屋が多かったから、ライヴが終わるたびに、お客さんと一緒に飲んで。だから、ほとんど打ち上げと一緒ですよね。
みうら あと、北海道とか行くと、地元のスタッフに「ススキノ行って遊びましょうよ」とか誘われたりすることもあるでしょ?
おおはた ああ、そういうことは結構ありますね。でも、なぜかそういうときに限って、僕だけ地元のロック喫茶とかに連れてかれちゃうんですよ。他のスタッフは、みんなお姉ちゃんがいる店に行ってるのに(笑)。
みうら それで、面倒くさい人に説教されちゃうんだ(笑)。
おおはた そうなんです。
みうら ロック親父って、まず「お前は分かってない」が出るよね。あれ何だろうね。
おおはた 「ここで歌ってみろ」っていうのも多いですよ(笑)。それで、歌ってみたら、「う〜ん、俺には分かるんだけど、歌がこのへん(身体の30cmぐらい手前を指して)で止まっちゃってるんだよな〜」とか言われちゃって(笑)。まあ、そういう人も嫌いではないんですけど(笑)。
みうら 分かる、分かる。ややこしい人と接する楽しさって絶対あるよね。だから、俺も絡まれるの承知で、わざわざロック喫茶とか行ってたし。おおはたさんだって、逃げようと思えば逃げられるのに、あえて面倒くさい人に付いていってるわけじゃん? たぶん無意識に、自分を困らせる方向に向かってるんだろうね(笑)。若いのにカントリー・ブルースのカヴァーをしたり、バーに住み込んで演奏したり、たぶん、おおはたさんは面倒くさいことが、もともと好きなんだよ(笑)。
おおはた 言われてみるとそうかもしれないですね(笑)。
みうら でも、それって、すごくいいことだと思う。ディランしかり、僕が好きなロックの人って、自分で石を投げて、必死に走って、その石に自ら当りにいくみたいなところがあるからさ(笑)。これからも、もっと自分を困らせる方向に向かっていった方がいいよね。そうしたら、さらに、いい曲がたくさん書けるようになると思うんだ。
おおはた はい。頑張ります(笑)。


構成/望月哲(2008年8月)
撮影/相澤心也




みうらじゅん
【Profile】
 1958年京都府生まれ。武蔵野美術大学卒。在学中に漫画家デビュー。現在、漫画家、イラストレーター、作家、ミュージシャン、ラジオパーソナリティーなどで幅広く活躍中。その活動内容は、人生哲学、お笑いから下ネタまで多岐にわたる。1997年、造語「マイブーム」で流行語大賞に入賞。著書には、田口トモロヲ監督により映画化されて話題となった漫画『アイデン&ティティ』(角川文庫)、『見仏記』シリーズ(角川文庫)、『色即ぜねれいしょん』(光文社)『新「親孝行」術』(宝島社文庫)、『Love』(角川文庫)、写真集『アイノカテゴリー』(ぴあ)、『アウトドア般若心経』(幻冬舎)など多数。CD、DVD作品も多数発表している。



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