“生命のありさま”みたいなもの――ORIGINAL LOVE『bless You!』

ORIGINAL LOVE   2019/02/13掲載
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 ORIGINAL LOVEが通算18枚目のアルバム『bless You!』をリリースした。生を肯定し続けてきたORIGINAL LOVEらしいタイトル。木暮晋也真城めぐみHicksville)、冨田 謙、村田シゲ□□□)、小松シゲルNona Reeves)といったライヴ・メンバーと、小松秀行佐野康夫の『風の歌を聴け』(1994年)コンビに加え、河合代介渡辺香津美岡安芳明長岡亮介PETROLZ)、PUNPEE角銅真実などの多彩なゲストを迎えて、いつも以上に精緻かつエネルギッシュな曲がひしめいている。

 ジャズを学んでいること、PUNPEEとの出会いはもちろん、近年はまっているアナログ・レコードもフィルム・カメラも、あらゆることがORIGINAL LOVEの音楽の深化に貢献している。さすがは全身音楽家・田島貴男、というのがインタビューを終えて思ったことである。そのひとつひとつがどう影響したか、ぜひ知っていただきたい。
――アルバム作りはいつごろスタートしましたか?
 「3年ぐらい前から曲はずっと書いてたんですよ。で、最初にできた〈ゼロセット〉は2年前の春にはもうレコーディングが終わってたんですね。この曲にはかなり手応えを感じてたんで、シングルを出そうかと思ったんだけど、歌詞があんまりうまくいかなくて、ちょっと寝かせてて。その時点で、アルバムに入る曲の半分ぐらいはできてたんですけど、方向性がまだ漠然としか見えてなかったので、なんとなく曲を作っていく中で自信のある曲を集めていくような感じ。本格的にアルバムの制作に入ったのは去年の夏で、リズム録りは9〜10月に一挙にやりました。〈ひとりソウルツアー〉の最中だったんですけど、これが僕的には体力をものすごく使うツアーで、アルバムのレコーディングも加わったんで、限界まで自分を追い詰めました。ただ僕の場合、差し迫ったほうが調子がいいっていうか、火事場のバカ力が出るみたいでね。『風の歌を聴け』もめちゃくちゃ差し迫った状況で作ったアルバムだったんですよ。この苦境だからこそ、今回はいいものができるんじゃねえかって思ってました(笑)。制作の過程はそんな感じで、〈ゼロセット〉と〈bless You!〉、あと〈ハッピーバースデイソング〉が先行して形になりました。もっと早くアルバムを出したかったんですけど、春に弾き語りツアー、夏にバンドツアー、秋冬にひとりソウルツアーと年中ツアーをしてるし、年の初めには〈Love Jam〉っていうイベントもやってて、曲はその合間に作ってるので、そうこうするうちに時間が経っちゃったっていう」
――いま挙げられた3曲はそれぞれ、「ゼロセット」がツアー・メンバー、「bless You!」が小松秀行さん&佐野康夫さんのリズム隊、あと「ハッピーバースデイソング」が田島さんひとりの多重録音ですね。アルバム全体がざっくり分けてその三つのセッティングになっていますし、先行する3曲を録った時点でイメージはわりと明確だったんですか?
 「ライヴ・メンバーでのレコ―ディングはドラム小松シゲル、ベース村田シゲ、キーボード冨田 謙のリズム隊にギター木暮晋也、それと『風の歌を聴け』のレコーディング・メンバー、小松秀行、佐野康夫。その2セットで行こうっていうのは最初から漠然と決まってました。ただ誰をどの曲で起用するかは全然決めてなくて、ひとりでやる曲が〈ハッピーバースデイソング〉と〈いつも手をふり〉になったのは偶然というか、自然に流れでそうなった感じなんですけど。〈アクロバットたちよ〉と〈AIジョーのブルース〉は去年の〈Wake Up Challenge Tour〉で披露していたんですけど、前者はリハーサルでバンド形式で作っていった曲で、だから編曲にバンド・メンバー全員のクレジットが載ってるんです。後者はある程度デモでできていたものをバンドで仕上げていって。〈ゼロセット〉も2年前にそのメンバーでレコーディングしたんで、その3曲に関しては本チャンのレコーディングも一発でした」
――ライヴ・レコーディングみたいな。
 「〈アクロバットたちよ〉は完全に一発録りで、歌も直してないです。ギターを弾きながら歌ったし、ダビングも一切してないし。リズム録りのときにオケ完になったわけです(笑)。で、〈AIジョーのブルース〉は歌詞のテーマが機械なんで、それを生でやろうということで、あれもダビングはしてないですね。リズムは多少エディットしましたけど。でもそれ以外の曲に関しては一切してないです。いまはみんなエディットしますけど、僕はあんまり好きじゃなくて、アナログみたいな録り方をしてます。曲が出揃ってきたのが去年の8月ぐらいかな。何かきっかけがあって作るというよりは、いつもそうなんだけど、常に空いた時間に曲を書いてるし、常にアルバムを作ろうと思ってるんですよ。だからどんなアルバムができるか自分でもわからないんですよ、ずっと。模索していった結果できるって感じで。ただ今回の『bless You!』に関しては、アルバム全体の曲のチョイス、バランスをものすごく考えました。例えば〈逆行〉みたいなロックンロールは絶対入れようと思ってたし、〈bless You!〉みたいなジャズのオルガン・トリオも。考えて選んでアレンジしていきました」
――そういうイメージは作業する前からあったりするんですか?
 「いやいや、やりながらですよ。なんとなく固まっていくんです。パッとある日突然浮かぶなんてことがあればうれしいけど(笑)、そんなことはなくて、時間をかけてでき上がっていくものですね。でも今回の『bless You!』は、音像が“見える”っていうか、世界観のあるアルバムになりました。それは自覚的な部分プラス、カメラをやり始めたことで、アルバム全体の像みたいなものがなんとなく見えてたからなのかもしれないなと。最終的にジャケットも僕の撮った写真になりましたし。これは自分で選んだわけじゃなくて、デザイナーとスタッフが選んで提案してきて、僕もそれだ! と思って、全員が一致したんです。フィルムの有機性みたいなものと関係が深いアルバムだと思うし、薬品が醸し出す像っていうか、デジタル処理じゃないヴィジョンを持ってるなと。なにかしら有機体というか、生命のありさまみたいなものを語ろうとしてるアルバムなんだろうなと」
――それがアルバム全体のテーマみたいな?
 「テーマはひとことでは言えないですけどね。『bless You!』としか言えない。“このアルバムをひとことで言ってください”みたいなのよくあるけど、そんなのわかるわけないんですよ(笑)。アルバム・タイトルもずっとわかんなかったんです。最後の最後に、全部の曲のミックス・ダウンが終わった後だったかな、『bless You!』っていうタイトルが出てきて。あなたに幸あれ、みんなに祝福あれってことですけど、全体的には漠然とそういうことを言ってるんだろうなと。人間賛歌から始まって、人が生まれて亡くなって、その後の人生っていうのもあるわけで。そういうことをイメージしながら作っていったとは思います」
――生と死、みたいなことについて考える機会が多かった?
 「非常にありました。個人的にそういう時期だったので、自然とアルバムの中にそういった見方が映し出されたと思います。自覚するより先に無意識的に出ちゃったかなっていう。自覚する時間がなかった」
――それは切羽詰まっていたからですか?
 「そうそう。すごく大変な時期だったから、自然に曲に現れたというか、いろんな偶然が重なってこういう世界ができてきたと思います。今回、自分の中で新しいのは、死者の目線から生を見ようとしたことで、おかげでまったく違う見方がなんとなく見えてきたところがあって。それは音なり言葉の端々に表現されてるんじゃないかなっていう気がしますね。〈bless You!〉は特にそうかもしれないです。ゴスペルみたいな曲を最初はイメージしてて、でもゴスペルの歌詞を調べてみると、ちょっと思ってたのと違ったんですよ。だから、僕にとってのゴスペルはこういう歌詞なんじゃないか、っていうことを書いたのが〈bless You!〉じゃないかな」
――“祝福を 愛を 慈しみを あなたに”って歌っていますものね。
 「ずっと歌詞が書けなかったんですけど、そういうことを書きたいんだってわかったらすぐにできました。人生賛歌とか生の肯定って、『風の歌を聴け』から綿々と続くテーマみたいなものですけど、今回は無意識的にそこからもう一歩踏み込んだアルバムになったんじゃないかな。自分の母親が亡くなったんで、そこにけっこう立ち会う機会があって、いろいろ考えたんですよね。ただ、考えようとしてもわからないっていうか、現実の事象が先行してしまって考える暇がなかったんですけど、それがたまたまアルバム制作の時期と重なったんで、考えとしてまとまっていないような漠然としたものが、おそらく映り込んだんじゃないかなって思います。〈いつも手をふり〉なんかは考える前に一瞬でできた歌詞ですし、ほとんど推敲もしてないんですけど、それでいいんじゃないかなって。考えると違うものになってきちゃう気がしたから、推敲も演出もなしで。あと〈ハッピーバースデイソング〉はいわゆる人が誕生することを祝福するような曲だし、他の曲も、例えば〈アクロバットたちよ〉はいろんな人生の危うい局面を渡り歩いていくっていうことがテーマになってるだろうし、〈ゼロセット〉だったらいろんな苦難を突破するための再スタートを歌った曲だと思うし、自分の本当に正直ないまの気持ちですよね。〈グッディガール feat. PUNPEE〉はパーティ・ソングでね、みんなで面白く楽しく歌おうぜって曲になったと思うし」
――「グッディガール feat. PUNPEE」はPSGが「愛してます」に「I Wish」をサンプリングし、今年お二人がLove Jamで共演して……といういきさつを踏まえた物語を、比喩を駆使して歌っていて、楽しい曲ですね。
 「最初はPUNPEEくんが参加する予定はなかったんですよ。この曲は去年の8〜9月の時点でできていたアルバムのラフスケッチみたいな曲のうちの一曲で、さっき言った通り10月にリズム録りをして、歌詞もおぼろげに書いてたんです。アルバムの制作中に、PUNPEEくんにはLove Jamに参加してもらうしアルバムにも誘ったらどうか、というアイディアが出てきて、当初は違う曲を振ったんだけど、彼が“ちょっと他の曲も聴かせてください”って言って、選んだのが〈グッディガール〉だったんです。それで一度書いた歌詞を白紙にして、ラップを入れることを想定してなかった曲だから、どこに入れたらいいかってところから二人で歌詞やアレンジを考えていって」
――そうなんですね。その作業はいかがでしたか?
 「ものすごく楽しかった! こんながっぷり四つの共作になるとは思ってなかったしね。メールなりLINEなりで毎日のようにやりとりしてたんですけど、すごくアイディア豊富な人なんですよ。乗ってくると、ひとつ質問すると三つか四つアイディアが返ってくるし、それがことごとく面白い。それを受けて僕も歌の部分を少し修正したりして、どんどん面白い曲になっていきましたね。そのあと彼がオケにエフェクトやスクラッチを入れたいって言ったから入れたりして、すごいかっこいい曲ができました。先行シングルとして配信リリースされたんですけど、配信日にはニヤケが止まんなかったです(笑)。やっとこの曲をみなさんに聴いていただくことができる!と思って、うれしくてね」
――歌とラップのからみ方がすごく有機的かつ緻密ですよね。
 「やっぱり二人でがっつりコラボレーションしたので。あの曲を作ってるときはPUNPEEくんはゲストではなくメンバーみたいな状態だったんで、僕らは意識してなかったけども、自然と緻密になっていったというか。歌詞の内容も二重、三重の含みがあるから、そういう部分でも楽しめると思うし、PUNPEEくんと一緒にやってすごくよかったと思います。PUNPEEくんはトラックメイカーだから、バンドマンからはまったく出てこないような発想で、見えない部分からアイディアが飛んでくる。とにかく面白かったです」
――予想外の方向に進んでいっちゃうみたいなことは、もともとお好きなほうですか?
 「面白ければ、ですね。今回みたいに面白く予想外の方向に進んでいったのはめずらしいかもしれないです。PUNPEEくんはすごく才気のある人で、出てくるアイディアがめっちゃ面白いからうまくいったのではないかと。クリエイティヴな感覚を持ってる人と仕事をすると、どんどん広がっていくこともあって、それは楽しいです。このアルバムを作る中で何回も創作的なダイナミックな体験があったけど、〈グッディガール〉もそのひとつでしたね。すっごく盛り上がった。歌も2〜3回録り直しました。歌い終わった後で“歌詞こっちのほうが面白いんじゃないすか?”ってアイディアがまた返ってくるんですよ。ひとりソウルツアー中だったんでもうヘトヘトなんだけど、面白いもんだから“しょうがない、もう一回歌い直すよ”みたいな(笑)。リズム隊は佐野くんと小松だったので、オケを録った時点でそうとうかっこよくて、“これはきたぞ”と思ってたんです。そこにラップが入ったことでさらに広がりを持った、面白い展開を見せた曲になりましたね」
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――盛り上がった体験って、他に例えばどんなことがありました?
 「えーっとね、僕は一昨年ぐらいからまたアナログ・レコードばっかり聴くようになったんです。70年代までのレコード。何がいいかっていうと、歌が同録されてるから。一発録りなんですよ。それがバラバラに録ったのとどう違うか、なかなか説明しづらいんですけど、すべての演奏が歌と密接に絡んでるんですね。アレサ・フランクリンの演奏がなんですごいか、なんでいまあれを超えられないかって、同録してるからなんですね。アレサはピアノを弾きながら歌って、一発で録音してます。それぐらいうまかったんですよ。演奏者も歌とピアノを聴いて演奏してる。しかもアレサは資料を読んだら全部2〜3テイクでやってるらしいと。ミュージシャンが集まって2〜3テイクっていうのはいちばんいい状態なんですよ、演奏的に。それがなされていたのが70年代の中盤ぐらいまでで、以後は録音機器が発達して、あとから“この部分だけ修正します”みたいな発想になっていって、いまはその極限までいってますよね。だから僕も、いまのエディットしまくりの状態と逆のことをやりたかったんです。そういう意味合いも込めて、ツアーで新曲をやっちゃおう、うまくいったら同録をしよう、と。〈アクロバットたちよ〉って、ギター弾きながら歌うのがものすごく難しいんですよ。イントロがジャズ・ギターで、あのコードを弾きながら歌って、Bメロはハードロックのリフですから、ジミー・ペイジが歌うようなもんですよ。しかも歌ったあとカチャッとエフェクターのセッティングを変えて、ギターのピックアップを換えて弾いて、サビでまた瞬時に戻す。歌いながらこれをやるのがすごく難しくて、ツアーでも全然できなかったんですけど、最後のほうでようやくできるようになってきて、レコーディングの前日もものすごく練習をして、本チャンは完璧だったんです。最後、ピックアップをフロントからリアに換える“カターン”って音が入っちゃったんで、そこはさすがにミュートしましたけど(笑)」
――そこに注意しながらもう一度聴いてみます。
 「〈ゼロセット〉を録ったときも盛り上がりました。曲ができたデモの段階から“久しぶりにめちゃくちゃいい曲できちゃったな!”って思って、スタッフまで含めて全員力が入っちゃって、“歌詞もっといいの書けますよね”“そうだよな”みたいな(笑)。なかなか決まらなかったんだけど、ツアーをやる前に、これは本心を書くのがいちばんしっくりくるな、と思って、最終的にこうなりました。あと今回は久しぶりに生のストリングスが入ってるんですよ。20年ぶりぐらいじゃないかな」
――「空気-抵抗」には渡辺香津美さんが参加されていますね。
 「それもむっちゃくちゃ盛り上がりました。リズム録りの時点でまず興奮したんですよ。小松秀行、佐野康夫、あとオルガンの河合代介。ハモンド弾きでは日本一で、日本のジミー・スミスって呼ばれてる人です。その3人と僕なんですけど、あれもほとんど直してないんです。ジャズのコードをいっぱい使ってて難しいんで、僕と河合さんの間であらかじめ打ち合わせを綿密にして、僕が作った譜面とかMIDIデータをほとんどコピーした上で彼のアイディアも入れてくれて。小松と佐野くんは、変拍子が入ってトリッキーな曲なんで難しかったと思うんですけど、さすがでしたね。だからもう演奏に関しては完璧で、自分の演奏のファンになっちゃって(笑)。で、最後に香津美さんのソロを入れましょうと。去年お誘いいただいて名古屋でジャズのイベントをやったんです(NAGOYA JAZZ WEEK 2018 渡辺香津美 X 田島貴男 / 2018年9月)。僕と香津美さんとパーカッションのヤヒロトモヒロさんと、ベースの川村 竜くんと。その流れもあってね。で、僕のスタジオに来てもらって弾いてもらったんだけど、4テイクでしたね。10分で終了。やっぱりね、ミュージシャンとしての技量がダントツ。全然レベルが違う。“こんな感じで考えてきたんだけど”とか言ってサラサラッと弾いてくれたのがむちゃくちゃよくて、“早く録らなきゃ!”ってすぐ録り始めました(笑)。僕はYMOのライヴで弾いていた香津美さんのソロが大好きだったので、最初はノーマル・トーンで考えてくれてたんだけど、“あの歪んだ音色でお願いできますか?”って言ったら“いいよ”って言ってすぐあの音色になった。だから4回しか回してなくて、4テイク目が完璧だったので。非常に難しいソロなんですよ、あれ。さすがジャズ・ギタリストのトップの人です。あまりにもよくできてるから、何回聴いてもほれぼれします。ジャズは難しい音楽なんで、ポップスやロックとは別ジャンルで。そうとうハードルが高いんですね。ギター演奏に馴染みがない人にはサラサラッと聞こえちゃうかもしれないけど、聴く人が聴いたら驚くと思います。あれを即興でやってしまうのは本当にすごい。そんじょそこらのギタリストにはできない、渡辺香津美印がガツーンと押されてるソロだと思いますよ」
――「ハッピーバースデイソング」のソロを弾いている岡安芳明さんは、田島さんのジャズ・ギターの先生ですよね。
 「あれも素晴らしかったです。〈ハッピーバースデイソング〉はスティーヴィー・ワンダーみたいな曲だと思うんですけど、全部打ち込みなので、ソロはジャズ・ギターを入れたくて、3〜4年前から教えていただいている先生にお願いしたんです。すっごく岡安さんらしいソロですね。ジョージ・ベンソンケニー・バレルのフレーバーを感じさせます」
――これまでになくジャズ色が濃いアルバムですね。
 「ジャズのアルバムではないけど、濃いですね。ジャズ・ギターを本格的に習うようになってから、理解が深まったんで、それが曲作りに生かされてきました。前作でも、例えば〈今夜はおやすみ〉はジャズのコードが入ってますけど、ここではさらに進化していて、要所要所マニアックなアルバムだと思います。ポップスの人がジャズの要素を取り入れて曲を作って、ジャズのアレンジャーを呼んでサウンドを作っていくんじゃなくて自らそれをやってるのは、ちょっと珍しいんじゃないかな。まだ理論が完全にわかったわけではないんですけど、それをどういうときに使えばいいのか、どういう使い方ができるかがちょっとずつ見えてきたので、実践してみました。ジャズがわかるようになってから、例えば70年代のスティーヴィー・ワンダーのアルバムを聴くと、すでにやっていたんだ、と思うし、マイケル・ジャクソンクインシー・ジョーンズのアレンジでやってる曲も、こういう和音の使い方をしてたんだ、ってようやく見えてきた。やっぱりアメリカのポピュラーミュージックは深いですよ。ジャズとかポップスとかソウルとかロックとか、みんなすごくクロスオーヴァーしてるので。日本の音楽はジャンルが分かれちゃってるけど、でも最近はちょっとリンクしてきてますね。スティーヴィーの音楽って、70年代のソウルをいろいろ聴いてても、やっぱり独特なんですよ。彼はもともと子供のシンガー、ハーモニカ吹きで、ちゃんとしたシンガー・ソングライターになるために自分で音楽学校に行って、マジで勉強したんだと思いますよ。あの時代の新しいジャズをちゃんと理解して取り入れてる。そういうことをやってるソウル・アーティストってあんまりいないし。ダニー・ハサウェイはクラシックのテクニックを取り入れてますけど。でも、それはわからないですよね、ふつうに気持ちよく聴き流すぶんには。いいってことはわかるけど、じゃあ何がいいのかが。僕はジャズ・ギターのレッスンに通うようになって、何がいいのかが見えてきたところがあって、そのわかった部分で曲を作り始めたんです。そこがひと味違ってるかな、今回のアルバムは」
――何気ないようでいて、実はすごく技巧が凝らされていると。
 「そうそう。凝らしてますね。かと思えば〈逆行〉みたいにパワーコードしか使ってない曲もあるし。だからORIGINAL LOVEの音楽としてはなかなかの応用編なんだけど、これ見よがしな感じにはしてないので、聴く人の趣味とか機会に応じて、いろんな楽しみ方ができると思います。とにかく自信作です。持ちがいいっていうか、何度も聴けるアルバムができたんじゃないかなって思いますね」
――田島さんは前から「わかりづらいポップスを作りたい」とおっしゃっていますが、「持ちがいい」というのはそれに通じることですか?
 「わかりづらいって言うとわかりづらくなっちゃうんだけど(笑)、さっきスティーヴィーを例に出したじゃないですか。ジャズの和音が入ってるって知らなくても楽しめるでしょ。でも実はそうとう深いよ、っていう。音楽を志す者としての夢なんですよ、そういうものを作りたいっていうのは。アーティスト性ってスキャンダラスな部分だけで語られちゃうこともあるし、イメージだけで語られちゃうこともあるけど、音楽っていうのはもっと本質的に素晴らしいものがいっぱいある。そういうものを作っていきたいんですよ。今回はいままで作ってきたアルバムの中でも最高のものができたと思ってます。と僕がいくら言っても、感じてくれる人の問題なんで、聴いてくれる人がそういうふうに感じてくれたら超ラッキーだと思います(笑)」
――最後に田島さんが撮られたジャケット写真にお訊きします。資料だと小さくてよくわからないんですが、これはどういうシーンを撮った写真なんでしょうか?
 「見たまんまで、シャボン玉をやってるおじさんがいて、それを子供たちが追ってるシーンを偶然見かけたんです。一昨年からカメラをやり始めて、常に持ち歩いてるんですけど、いちばんいいシーンでした。慌ててピントを合わせる暇もないぐらいの勢いでシャッターを切りました。10枚ぐらい撮った中で、ちゃんとシャボン玉まで写ってたのが2〜3枚で、その中の1枚がこれです。大好きなアンリ・カルティエ=ブレッソンっぽい写真が撮れたなと思って、すごい手応えがあったんです。ジャケットデザイン案を出すときに“一応、田島さんが撮った写真も見せてください”って言われて出して、デザインが上がってきたらこれだった(笑)。自分が撮った中でいちばん好きな写真だったからうれしかったし、アルバムの内容とも不思議なくらいに一致してるんですよね。同じ人間が撮ると、音楽とヴィジュアルがリンクしていくんだなと。先日のLove Jamでも〈冗談〉のときに自分の撮った写真を映し出してやったんですけど、ものすごく合うんですよ、自分の曲と自分の写真って。考えたこともなかったんですけど。そうするとまた面白くなってきちゃって、ますますカメラに興味が出てきてます」
――忙しくなっちゃいそうですね。
 「すっごい忙しいです。いつも荷物が多くて大変ですよ(笑)」
取材・文 / 高岡洋詞(2019年1月)
Live Schedule
ORIGINAL LOVE“bless You!”Tour

2019年6月8日(土)
神奈川 関内ホール 大ホール(横浜市市民文化会館)
開場 17:30 / 開演 18:00
全席指定 6,480円(税込)
※お問い合わせ: ディスクガレージ 050-5533-0888
(平日12:00〜19:00)

2019年6月16日(日)
新潟 LOTS
開場 16:30 / 開演 17:00
スタンディング 6,480円(税込 / 整理番号付き / 別途ドリンク代)
※お問い合わせ: FOB新潟 025-229-5000
(平日11:00〜18:00)

2019年6月22日(土)
福岡国際会議場 メインホール
開場 16:30 / 開演 17:00
全席指定 6,480円(税込)
※お問い合わせ: BEA 092-712-4221
(平日 11:00〜18:00 / 第2・第4土 11:00〜15:00)

2019年6月29日(土)
岩手 盛岡 CLUB CHANGE WAVE
開場 17:30 / 開演 18:00
スタンディング 6,480円(税込 / 整理番号付き / 別途ドリンク代)
※お問い合わせ: ジー・アイ・ピー 022-222-9999

2019年7月6日(土)
北海道 Zepp Sapporo
開場 17:30 / 開演 18:00
全席指定 6,480円(税込 / 別途ドリンク代)
※お問い合わせ: MORROW 011-532-8044

2019年7月13日(土)
愛知 名古屋 ダイアモンドホール
開場 17:00 / 開演 17:30
全席指定 6,480円(税込 / 別途ドリンク代)
※お問い合わせ: サンデーフォークプロモーション 052-320-9100
(全日10:00〜18:00)

2019年7月14日(日)
大阪 Zepp Namba
開場 16:00 / 開演 17:00
全席指定 6,480円(税込 / 別途ドリンク代)
※お問い合わせ: サウンドクリエーター 06-6357-4400
(平日12:00〜18:00)

2019年7月20日(土)
東京 中野 サンプラザホール
開場 17:00 / 開演 18:00
全席指定 6,480円(税込)
※お問い合わせ: ディスクガレージ 050-5533-0888
(平日12:00〜19:00)

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