e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活 - [こちらハイレゾ商會]第63回 ハイレゾで一段とハードになったYMO
掲載日:2019年1月8日
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こちらハイレゾ商會
第63回 ハイレゾで一段とハードになったYMO
絵と文 / 牧野良幸
 イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)のハイレゾがリリースされた。まずはデビュー作の『イエロー・マジック・オーケストラ』、その米国版である『イエロー・マジック・オーケストラ〈US版〉』。そして人気を決定づけた『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』の3作。いずれもボブ・ラディックによるマスタリングがほどこされてのハイレゾ化である。FLAC 96kHz/24bitでの配信。
 YMOといえば“テクノ”である。“テクノ”といえば“あの頃”である。『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』が発売になった1979年だ。
 その年の春、僕は大学を卒業して実家のある岡崎に帰った。しかし就職せずに、絵描きを目指してバイト生活を始める。こういう人間は東京なら掃いて捨てるほどいるが、岡崎のような土地ではめずらしい。一時の失業者はいても、みずからブラブラしていることを選ぶ若者などまずいない。当然まわりは見て見ぬふりをする。家族も友だちも僕の将来のことについては触れないでおこう、というスタンスだったと思う。
 そんな時にYMOである。“TOKIO”(「TECHNOPOLIS」)という機械のような声とともに、それまで聴いたこともない音楽があらわれた。70年代のプログレや冨田勲とも違うシンセサイザーの音。2年前に喫茶店で100円玉を積み上げてのめり込んだインベーダー・ゲーム。あのあたりから音楽も変わりだしたのか。ディスコに通じる無機的なリズムも心地よい。“テクノ”の登場である。
 YMOの人気は瞬く間に広がり「TECHNOPOLIS」や「RYDEEN」は大ヒット。ラジオで耳にしない日はなかった。テレビの一般番組でも取り上げられた。というかこの時点で海外のほうが有名でワールド・ツアーもやっていたのだ。世界に通用する日本の音楽がついにあらわれたと興奮した。
 この時、僕が中学生か高校生だったら間違いなく家のステレオで『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』のレコードを聴き込んだはずだ。しかし男が22歳ともなると第一に揃えたいものはオーディオではなくクルマになる。社会人になった旧友はみんな車を買って乗り回していたし、僕も家のホンダ・アコードに乗っていた。ステレオは学生時代に壊れたも同然だったし、カーステレオの方が音量を出せるから気持ちいいのだ。
 というわけで僕の場合、YMOは車のオーディオで聴いた記憶が強い。YMOを聴きながら走る爽快感といったらなかった。といってもそれは友人の車で、夜の岡崎の街を目的もなく走っている時だ。または目の前を爆走する暴走族の車内から響く「RYDEEN」とか。ようするにあの時代、YMOの音楽はあらゆるところから増殖して、僕のモラトリアム的生活のBGMとなっていたのである。
 あれから38年。今や僕もイラストレーターとして身を落ち着けている。オーディオもB&Wのスピーカー、アキュフェーズのアンプを揃え、それなりのハイレゾ愛好家となっている(車のほうはとっくにペーパードライバー)。
 そこにYMO結成40周年としてハイレゾが配信された。クラシックやジャズ、ロックのハイレゾは高音質を経験ずみであるが、はたして“テクノ”がハイレゾでどんな音になるか興味深い。
 さっそくハイレゾを聴いてみると、“テクノ”という言葉、または“ピコピコ”といった電子音のイメージから抱く音とはかなり違うことに驚かされる。YMOのハイレゾは、ブルーノートのジャズ・コンボやパンク系ロックのようにぶ厚い音だった。
 まずシンセサイザーの音の厚さに驚かされる。「RYDEEN」の有名なメロディは豊かな音。メロディだけではない。「BEHIND THE MASK」「SOLID STATE SURVIVOR」では細かい刻み音にさえ弾力がある。この時代のシンセサイザーはまだアナログだったせいだろうか、電子音とは思えない温かみがある。低域は気持ちいいし広がりも十分だ。
 高橋幸宏のドラムも素晴らしい。タイトで力強いリズムがバシッと決まっているのがハイレゾで実感できる。そうなるとカーステレオやラジカセで聴いていた時に、コンピュータにそった無機的なドラミングと単純に思っていたものが、結構グルーヴィなうねりを生み出しているように感じるのだ。
 かつてYMOはレコード、カーステレオ、ラジカセ、ラジオ。いろいろオーディオで聴かれてファンを惹きつけた。それぞれに良さがあり、どのオーディオで聴いても衝撃はあっただろうが、ここにきてハイレゾで聴くYMOはまた一段とハードだ。ぜひ聴いてみてください。



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