e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活 - [こちらハイレゾ商會]第65回 リチャードの“ドヤ顔”が浮かぶ、カーペンターズのトータル・アルバム
掲載日:2019年3月12日
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こちらハイレゾ商會
第65回 リチャードの“ドヤ顔”が浮かぶ、カーペンターズのトータル・アルバム
絵と文 / 牧野良幸
 カーペンターズの曲をリチャード・カーペンター自身が再アレンジし、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団と録音した『カーペンターズ・ウィズ・ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団』がハイレゾで配信された。それもflac192kHz/24bitという高音質である。
 まず誤解されぬように書くと、本作はオーケストラによるインストゥルメンタル作品ではない。ちゃんとオリジナルどおりカレンが歌いバンドの演奏も入っている。ソロをとる楽器やキメとなるアレンジも昔のままである。再アレンジと言っても二枚絵のようにオリジナルと重なるのだ。
 ではリチャードが今回何をしたのかといえば、原曲がさらにチャーミングになるよう、一部にオーケストラを追加したのである。それもリチャードらしく抑制の効いた再アレンジである。古いオーケストラ・パートを新しい録音に差し替えたところもありそうだが、はっきりと断言できないほどだから、昔聴き込んだ人にも違和感がない。追加と同時に削除した部分もあるが、それは後で述べるメドレー化の処理なので、これも気にならない。
 ということで本作は、僕にとってはオーケストラとの共演作という以上に、カーペンターズのトータル・アルバムという印象が強い。再アレンジは曲の化粧直しであると同時に、アルバム全体がメドレーで流れるためのアレンジだし、曲と曲の間に間奏曲のような部分を書き加えたのもそのためだ。リチャードもそのつもりでこのアルバムを制作したと思う。
 思うに僕らの世代はトータル・アルバムに思い入れがある。カーペンターズが活躍した60年代末から70年代のロック/ポップス界ではトータル・アルバムが流行っていた。それを強く印象づける方法としてメドレーも使用された。ただメドレーならなんでもいいというわけではない。そこは才能とセンスが必要とされる。カッコいいメドレーを聴くと、アーティストの“ドヤ顔”が浮かんだものである。
 もちろんカーペンターズにも見事なメドレーがあった。71年の3作目『カーペンターズ』での「バカラック・メドレー」はカッコよかったなあ。そして何といっても73年の『ナウ・アンド・ゼン』のB面全部を使った“オールディーズ・メドレー”が素晴らしかった。これはいまだに僕のなかではビートルズの『アビイ・ロード』B面と並ぶベスト・メドレーである。
 ただ、なまじ『ナウ・アンド・ゼン』のB面で完成度の高いメドレーを聴いてしまったものだから、アルバム全部がメドレー、そんなトータル・アルバムを聴きたいという欲求が生まれてしまったのは困ったものだった。それはずっと僕の胸の奥にあった。
 ということで今回の『カーペンターズ・ウィズ・ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団』は僕の夢がかなったアルバムだ。これは、どうせオーケストラを加えて再アレンジするならトータル・アルバムにしたい、というリチャードの今もなお衰えぬ創作意欲が作り上げたものだろう。
 実際リチャードの手腕は「バカラック・メドレー」や“オールディーズ・メドレー”からいささかも衰えておらず、あらためて彼の才能を感じた次第である。収録曲はほとんどベスト盤と同じなのに、ベスト盤とはまったく違う世界に導いてくれる。リチャードの“ドヤ顔”が浮かぶようだ。
 新しいアレンジの部分を聴くのも楽しいが、やはり曲のつなぎに注目だ。僕がいちばん好きなのは「メリー・クリスマス・ダーリン」から「ベイビー・イッツ・ユー」への溶け込むような流れだ。「ベイビー・イッツ・ユー」はシュレルズのカヴァーだけれど、こういう箸休め的な曲をカーペンターズの超名曲の間に差し込んでくるところがまたカッコいい。箸休めと言っても再アレンジでずいぶん立派な曲になっているのだが。
 ハイレゾについて書くスペースがほとんどなくなってしまったのが恐縮だが、特徴としてはまずベースが力強いこと、カレンの声がさらに艶やかになったといったところか。新たに録ったオーケストラがいい音なのは予想どおり。ハイレゾももはや日常のインフラになりつつあるのかもしれない。それだけに『カーペンターズ・ウィズ・ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団』のようなグッとくる作品が登場したことは喜ばしい。



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