[こちらハイレゾ商會]第66回 ハマるバディ・テイトのテナー・サックス、“何度も聴くハイレゾ”はこれ?
掲載日:2019年4月9日
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高音質放送i-dio HQ SELECTIONのランキング紹介番組『「NOW」supported by e-onkyo music』(毎日 22:00〜23:00)にて、この連載で取り上げたアルバムから牧野さんが選んだ1曲を放送します。今月の放送は4月16日(火)の「JAZZ NOW」から。

こちらハイレゾ商會
第66回 ハマるバディ・テイトのテナー・サックス、“何度も聴くハイレゾ”はこれ?
絵と文 / 牧野良幸
 今回はテナー・サックス奏者バディ・テイトの『I Cried for You』である。オランダのスヘフェニンゲンのニューオーリンズ・ジャズ・クラブでの1975年の録音。
 バディ・テイトは1913年、テキサス生まれのテナー・サックス奏者。コンボ時代のカウント・ベイシー・グループを経て、1939年にカウント・ベイシー楽団に入り、第二次世界大戦をはさんで1948年まで在籍した。一般にはスウィング・ジャズ全盛と言われる時期だ。
 その後もバディ・テイトは自身のグループで活動を続けた。その間にジャズは50年代のビ・バップ、モード、フリー、60年代の新主流派、70年代のフュージョンと目まぐるしく流れが変わるのであるが、バディ・テイトの活動は続き、1990年代まで録音が残っているようだ。バディ・テイトがこの世を去ったのは2001年である。
 バディ・テイトはいわゆる“テキサス・テナー”と呼ばれているサックス奏者だ。“テキサス・テナー”とは、テキサス出身のサックス奏者に太く豪快に吹く人が多いことから生まれた呼び名らしい。もちろんバディ・テイトもテキサス出身である。
 ただ本作はバラード集なので、ムーディなブローを聴かせてくれるところが特徴だ。アルバムは双頭リーダーということだろうか、同じくカウント・ベイシー楽団のトランペット奏者だったハリー・エディソンの名前もクレジットされている。
 ハイレゾの配信は2xHDレーベルから。2xHDはカナダの高音質レーベルで、クラシックからジャズまで貴重な音源を独自のリマスタリングでハイレゾ化している。今回のハイレゾもマスターテープをNAGRAのテープ・デッキで再生し、真空管アンプを経て制作されたようだ。
 高音質レーベルらしく、配信はWAV、flac、DSFの3種類が揃っている。各ファイルにはさらに複数のスペックが用意されるという念の入りよう。とくにDSFは11.2MHzまで用意されているからコアなファンには申し分ないラインナップだろう。
 残念ながら僕の環境ではDSF5.6MHzしか聴けないので、今回はDSF5.6MHzでのリスニングとなったが、それでもかなりアナログ・ライクな音を聴くことができた。高音のキラキラ感が控え目なせいか、とてもウォームな音だ。解像度を追求するというより、あくまで音楽として聴きやすい音質に仕上げることを最優先した音作りに思える。これが2xHDのこだわりなのかもしれない。温泉に入ったみたいに脳がリラックスするのがわかる。DSFだから余計に染み入り度は高い。
 もっともオーディオ以前の話として、バディ・テイトのサックスの音色が相当にウォームであることも書いておくべきだろう。
 やはり“テキサス・テナー”のサックスは聴いていて非常に気持ちがいい。普段は、やれモダン・ジャズだ、フュージョンだと言っているくせに、この年齢になって落ち着くジャズは“昔ながらのジャズだったのか”と自分でも呆れるが、本心なのだから仕方がない。
 どの曲もゆったりとしたテンポである。そこにバディのテナーが登場する。シュ〜という半分息の混じったタンギング奏法だ。マウスピースには唾がたまっているのだろう、ジュルジュルというノイズも含まれる。つまるところムード・ミュージック的というか、スウィング時代のバラード演奏のスタイルだと思うのだが、これがなかなかいい。
 バディ・テイトのソロがひととおり終わると、ハリー・エディソンのミュート・トランペットにバトン・タッチされる。ハリー・エディソンもカウント・ベイシー楽団出身だけあって、これまたスウィング時代の気持ちのいいミュート奏法。別名ハリー“スウィーツ”エディソンと呼ばれるだけあって、甘いミュート音で、アドリブもあぶなげなくワンコーラスを演奏する。そのあとにまたバディ・テイトのテナーに戻って曲は終わる。ピアノとベースのソロはない。これがアルバムのほぼ全曲でのパターンだ。
 粛々とテナーがムードあるメロディを奏で、そこにミュート・トランペットが一輪の花を添える。なんだか日本の伝統演芸でも見ているような流れであるが、これがハマるのである。やめられない。トンがったモダン・ジャズやエキサイトするフュージョンもいいけれど、昔ながらのこういうジャズのほうが疲れないのだ。ベースがズンズンと響かないから、夜のリスニングにもピッタリである。“何度も聴くハイレゾ”とは案外こういう音楽なのではないかと思う。



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