e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活 - [注目タイトル Pick Up] Sony Music Studios Tokyoで録音された2枚のアルバムに聞く抜群の空気感 / パーヴォ・ヤルヴィとN響の、いちばん聴きたかったバルトーク
掲載日:2019年6月25日
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高音質放送i-dio HQ SELECTIONのランキング紹介番組『「NOW」supported by e-onkyo music』(毎日 22:00〜23:00)にて、この連載で取り上げたアルバムから國枝さんが選んだ1曲を放送します。今月の放送は7月9日(火)の「JAZZ NOW」から。

注目タイトル Pick Up
Sony Music Studios Tokyoで録音された2枚のアルバムに聞く抜群の空気感
文/國枝志郎

 今、ハイレゾにもっとも意識的、意欲的に取り組んでいるアーティストといえば、ここでとりあげるニューヨーク在住のジャズ・ギタリスト、吉田次郎をおいてほかにはいないと言っても過言ではないだろう。2015年にリリースしたソロ・アルバム『a pastel shade』もハイレゾ配信(DSD2.8およびPCM96kHz/24bit)されていたが、このアルバムはおもに吉田のプライベート・スタジオで録音されたもので、もともとはPCM(Pro Toolsシステム)で録音されたものをDSDマスタリングしたものだった。もちろんだからといって音が悪いわけではまったくない。『a pastel shade』は、クラシックも好きな吉田が、ラヴェルやドビュッシーのような印象派的なサウンドを目指して制作したもので、その淡色系の色合いは十分に聴き取ることができた。が、吉田のあくなき欲求はさらなるハイクオリティ・サウンドを目指し、自身が所属するSONY MUSICが誇る乃木坂のSony Music Studios Tokyoを目指した。ここには素晴らしいヴィンテージを含むマイクロフォン、マイクプリが多数存在する。その素晴らしいスタジオのポテンシャルをまずはマリーン(vo)、クリヤ・マコト(p)と吉田のトリオTHREESOMEの2枚のアルバム……『Cubic Magic』(2016年)と『Whatever!』(2017年)……の録音で確認したあと、吉田はついに自身の4年ぶりとなるソロ・アルバムの制作をこのスタジオで行なうことを決意、満を持して吉田の地元ニューヨークの凄腕ミュージシャンを乃木坂のスタジオに集結させたのだった。吉田のほか、ピアノにヴァーナー・ギリッグ、ベースにカール・カーター、ヴォーカルにマーロン・サンダースという超ド級のメンバーに加え、今や世界にもその名をとどろかせている日本の若手ナンバーワン・ドラマー(この録音時はまだ大学在学中だった!)、川口千里が録音に参加。ジャズの名曲から「チェンジ・ザ・ワールド」や「スモーク・オン・ザ・ウォーター」といったロックの名曲、そして吉田のオリジナル作を、修正なしのDSD2chダイレクト・レコーディング。その高い音楽性が、今考えられる最高の音質で届けられたのだ。SACDハイブリッド・ディスクの音質も最高だが、3種類のハイレゾ配信(DSD11.2および2.8、PCM96kHz/24bit)は、それぞれが特徴のある音質を聞かせていて、全部試す価値が十分にあると言える。個人的にはSonomaシステムによるDSD2.8の濃密な空気感の再現が印象に残った。気が早いが、次の吉田のチャレンジが気になってしかたがない。


 クラシックからテクノまで、ジャンルを横断するルクセンブルク出身のコンポーザー/ピアニスト、フランチェスコ・トリスターノの『ピアノ・サークル・ソングス』(2017年)に続くソニー・クラシカルからのセカンド作『東京ストーリーズ』。東京という都市に魅せられ、すでに40回以上訪れているというトリスターノが愛するこの都市にインスパイアされ、オマージュとして制作したこのアルバムは、ゲスト陣も東京にちなむアーティストが多数参加。“ボーカロイド・オペラ”や“アンドロイド・オペラ”で世界中に話題を提供している渋谷慶一郎、トリスターノとはデトロイト・テクノの殿堂Transmatでのレーベルメイトであるヒロシ ワタナベ、坂本龍一との交流でも知られるタブラ奏者ユザーン、そしてこちらはフランス人であるが、かつて大島渚監督の映画の音楽を手がけていたことでも知られるサクソフォン/クラリネット奏者の巨匠ミシェル・ポルタルなどが参加し、タイトルも「ホテル目黒」「中目黒第三橋」「代々木リセット」「赤坂リプライズ」など、そのものずばりな東京スタイルで、そのあたりにリスナーの視点も向くに違いない。だが待ってくれ。実はこのアルバムのもうひとつの重要なポイントは、これが吉田次郎の作品と同じく、乃木坂Sony Music Studios Tokyoで録音されたということなのだ。奇しくも吉田次郎のアルバムと同じ2018年10月に、これまたまったく同じスタジオで録音されているというのも不思議な縁を感じたりもしたり……。もちろんDSD2ch一発録音の吉田次郎のアルバムに対して、トリスターノのアルバムは、このスタジオで素材を録音後、パリとバルセロナのスタジオで綿密なポスト・プロダクションが施されているからそのまま比べても意味はないのかもしれないし、使用しているマイクロフォンの種類も同じとはかぎらないのでこれまた比べてもどうなのかということはたしかに言えるのだが、しかしここで聴けるピアノのサウンドは、楽器の種類が違う(吉田次郎のアルバムではスタインウェイが、トリスターノのアルバムではヤマハが使われている)といったことを超えて、ハイレゾ的な見地からすると響きかたに共通点を見出すことが可能だと思う。吉田のアルバムに聴けるアンサンブルの妙味は、トリスターノのアルバムでもピアノとシンセサイザー、ゲストのエレクトロニクスや生楽器であるタブラによる対話と同じ味わいが感じられるのだ。どちらもいつまでもひたっていたくなる抜群の空気感を感じさせる楽園のような音響だ。


 ナスカ・カー。このけったいな名前を持つ(失礼)ユニットは中屋浩市を中心として1994年大阪で結成された。かつては“西の電気グルーヴ”と呼ばれていたこともあるこのユニットは『電波潮流』(1997年)、『電子水母』(1999年)というとんでもないタイトル(とくに後者)という2枚のアルバムを発表したが、その後メンバーは流動的になり、オリジナル・メンバーは中屋のみに。大阪を拠点とするだけではなく、東京在住のメンバーが加入したことで21世紀に入ってからは東京と大阪で異なるメンバーで活動していたという不思議っぷりも(笑)。その後もなにかと編成を変えつつも現在までなにやら怪しげな活動を続けているユニットである。しかしまあ、いろいろなハイレゾが出てくる時代ではあるけれど……まさかこのナスカ・カーがハイレゾで登場とは、正直今年いちばんの衝撃でしたわ。いや、実はこのハイレゾ配信に先立って2019年4月、ナスカ・カー(正確にはナスカ・カー featuring ホカダナオミ)の10年ぶりのニュー・アルバム『ウィー・アー・アンダー・アレスト』がリリースされていたので、ナスカ・カーのハイレゾ=最新作! と勝手に勘違いしていて、聞いてびっくりしたというわけなのだが……。まあしかし、タイトルが『最新録音盤』ですからね……間違えるでしょ、ふつうに(苦笑)。CDは2013年にリリースされ、このユニット単独のものとしては4枚目にあたるものにして、新作が出るまでは彼らの代表的な一枚であったもの。こうしてまさかのナスカ・カーをハイレゾ(48kHz/24bit)で聴けるとは夢にも思わないことだったので素直に喜んでおきたいのだが、当の中屋のブログによると、CDの在庫がなくなったので配信したということが真相らしい(笑)。なら、最新作『ウィー・アー・アンダー・アレスト』のハイレゾ配信はいったいいつになるのやら……。まあ、期待せずに待ってます中屋さん。しかしながらこの古い『最新録音盤』(爆笑)、さすがに前作から10年ぶり、熟成に熟成を重ねて作られた(いや、この言葉がほんとに似つかわしくないんだが……)アルバムは、中屋のSFマニアっぷりが随所に感じられ(1曲目「ドアを開けろ」と2曲目「無限へのパスポート」はどう見ても円谷プロのウルトラシリーズへのオマージュでしょ)、テクノパンクとでも呼びたい不思議かっこいい音響工作だ。CDとは一部ミックスが変えてあるというのもこだわり。くせになるサウンド。

Hizuru
『飛鶴』


(2019年)

 Jazztronikの野崎良太が2017年にMusilogue(ムジログ)という音楽プロジェクトを始めていたのは知っていた。Musilogueは、“様々なジャンルで活躍するミュージシャンや作曲家、クリエイター等が集まり、音楽を制作。それを必要としている全ての方々に提供していくという目的のもと始まり、現在は約100名もの音楽家が参加”(HPより)しているという。実際ライヴ活動や音源リリース(デジタル/フィジカル)も活発に行なわれていたのは知っていたのだが、そのクオリティの高さはハイレゾとの親和性が間違いなく高いと思っていただけに、こうして音源のハイレゾ版が配信サイトに登場してきたのはとてもうれしいニュースだ。Musilogueからのリリースはすでに10枚以上を数えているが、今回の配信スタートにあたっては、その中から5作品が選ばれている。個人的にはアコーディオン奏者の田ノ岡三郎のソロ・アルバム『SOLO ACCORDION STANDARDS』のCDはとても気に入っていてすでに私の愛聴盤となっているし、ほかにもベーシストで、野崎良太とのコラボレーションも行なっている西嶋徹のソロ『Phenomenology』、田ノ岡三郎のアコーディオンに紅雪の箏、高橋弥歩のサクソフォンが加わったトリオ編成による『秘色の雨』、ギタリスト越田太郎丸によるブラジル音楽の美しいカヴァー・アルバム『Twenty Years』も、すべて96kHz/24bitというハイレゾスペックを十分に堪能できる素晴らしいサウンドだが、今回ここで取り上げるのはHizuruの『飛鶴』というアルバムだ。“Hizuruとは、野崎良太(Jazztronik)の提案により始まった「純邦楽と現代の音楽との融合により新しい音楽を創造する」音楽プロジェクト”(HPより)であるとのことだが、もちろん邦楽と現代の音楽の融合といってもそう簡単にできるものではない。その難題を野崎は見事に新しい音楽として昇華させた。それがこのアルバムである。野崎と西嶋を核として、田辺しおり(尺八)、明日佳(箏)、木村俊介(三味線)という和楽器が加わり、さらにそこにJazztronikやSoil & Pimp Sessions、Kyoto Jazz Sextetなどで活躍する栗原健のサクソフォンの参加も仰いで、なつかしさもありながらこれまでに聴いたことのない音楽が出来上がったのだ。このアマルガムなサウンドをハイレゾで聴ける喜びは大きい。Musilogueからの今後のハイレゾ・リリースが待ち遠しい。


 2019年3月に東京のすみだトリフォニーホールで行われた“マックス・リヒター・プロジェクト”において、日本初演となったリヒターの「メモリーハウス」のソリストを務めたのがこのマリ・サムエルセン。2015年には数多くの映画音楽を作曲したジェームズ・ホーナーが初めて手掛けたクラシック作品「パ・ド・ドゥ」(ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲)を、兄であるホーコン・サムエルセンとともに演奏、その録音が彼女のデビュー作となったことからもうかがえるように、彼女はもともと“クラシックだけ”をレパートリーとするタイプの音楽家ではなかった。1984年ノルウェー生まれのマリは、多くの素晴らしいヴァイオリニストを育てた名教師ザハール・ブロンに師事した正統派のヴァイオリニストではあるのだが、彼女の興味はメンデルスゾーンやチャイコフスキーの協奏曲にはなく、J.S.バッハ、フィリップ・グラス、マックス・リヒターこそが自分の弾くべき音楽であると断言する。まさにポスト・クラシカルの申し子ともいうべきヴァイオリニストなのだ。近年ポスト・クラシカルに意欲的な名門レーベル、ドイツ・グラモフォンからの第一作となるアルバム『Mari』は、まさにそんな彼女の主張がいっぱいにつまった素晴らしい作品集である。全部で21曲も収録しているというところにもマリの意欲を感じるが、その作曲家名を書き出してみると、あらためて圧巻だ。マルティノフに始まり、マックス・リヒター、フィリップ・グラス、ペトリス・ヴァスクス、ブライアン・イーノ、ヨハン・ヨハンソン、J.S.バッハ……前半だけでこれだけの作家陣である。21曲のオムニバスというと全体の印象がバラバラになりかねないところだが、ちょうどアルバムの中間にバッハの「シャコンヌ」を入れ、鏡のような構造として全体を引き締めているところにも意欲を感じる。アルバムに先立ってリヒターの「ノヴェンバー」、クリスティアン・バズーラの「847」が先行配信されているが、もうひとつ先行配信されたアンビエント・ミュージックの先駆者として知られるブライアン・イーノの「バイ・ディス・リヴァー」が素晴らしすぎるし、アルバムとしてもマルティノフの「カム・イン」で始まり、グレッグソンの「ララバイ」でしっとりと終わる構成も完璧。これをハイレゾ(96kHz/24bit)で聴き始めたら、おそらく何度もリピートしてしまうこと間違いなし。最高。

パーヴォ・ヤルヴィとNHK交響楽団の、いちばん聴きたかったバルトーク
文/長谷川教通

 パーヴォ・ヤルヴィとNHK交響楽団の相性の良さは、誰もが納得するのではないだろうか。音楽の勢いを導き出す俊敏でドラマティックな指揮と、それに食らいつくN響の意気込みが相乗効果を生む。R.シュトラウスでの統一された切れ味鋭いアンサンブルもすばらしかったし、パワフルで緊密な響きと燃焼度の高いマーラーも良かった。そしてバルトーク。そう、今いちばん聴きたいのがバルトークなのだ。
 待ってました! 2017年9月にサントリー・ホールで行なわれた定期公演のライヴ録音が96kHz/24bitでハイレゾ配信された。プログラムは「弦楽のためのディヴェルティメント」「舞踏組曲」「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽(弦チェレ)」。バルトークによるオーケストラのための名作は、まずオーケストラが巧くなければいけない。だからこそヤルヴィ / N響へ期待。彼らだったら最高の成果が出るに違いない。ヤルヴィだって絶対に“このオケと演奏したい”と思っていたはず。高度に統率された合奏力ではワールドレベルと評されるN響。あとは指揮者次第なのだ。
 「弦チェレ」のスコアには楽器位置や各楽章の演奏時間までも指定されている。緊張感と音楽の推進力をどう融合させるか。弦楽器群は2つに分けられ、指揮者の左右に配置。そのほかの楽器が中央に配置される。ヤルヴィの指揮により、オケはきわめて精緻にコントロールされ、洗練された響きが交錯する。第1楽章では弦楽器群が重なり合うように流れ出す。この響き合いを再生する醍醐味。実演で聴くのはもちろんだが、この作品、じつはオーディオで再生するときの面白さが半端ないのだ。終楽章の弦楽器群によるステレオ音場の再現、そして各楽器の位置関係とステージ上の空間表現など、オーディオ的なチェックポイントが次々と現れる。オケはきわめてダイナミックだが、けっして粗野になることはないし、無機的に鳴ることもない。1936年に完成した作品だが、多彩に変化する響きや鋭いリズムから不穏なヨーロッパを映し出す時代の残滓が聴こえてくるような気がする。



 多くの音楽ファンから“スタンダード”と支持され、愛されてきたバックハウスによるベートーヴェンのソナタ全集が、待望のハイレゾ配信だ。アナログ・マスターからリマスターされたDSD2.8音源。1958年の「ワルトシュタイン」「熱情」からスタートしたバックハウス2回目の全曲録音は、彼が85歳で亡くなる1969年まで続けられた。残念ながら彼は6月26、28日に行われたオーストリア南部オシアッハ教会での演奏会で倒れ、7日後にこの世を去った。第29番の「ハンマークラフィーア」の再録音はかなわなかった。今回の全集でも、第29番だけは1952年のモノラル録音が収録されている。
 バックハウスの1回目のベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集は1950〜1954年にモノラル録音されていて、こちらを評価する声もあるが、あらためてステレオ録音のDSDリマスター音源を聴いて、録音メディアにとって音質の良さがいかに表現に関わっているかを再認識させられる。
 まずバックハウス特有の硬質で艶やかな音色に強靱なタッチ。中音域から高音域にかけて、とくに後期の30〜32番での濁りのない音色は聴き手を射貫くような強靱さも兼ね備えている。彼の弾き方には、情緒たっぷりのタメとかルバートなどはいっさいなく、テンポの揺らぎも聴き手に意識させないくらいの使い方。フッと歩を緩めたかと思うと、わずかに前のめりになる感じで音楽に推進力を与える。少々大げさな言い方かもしれないが、後年のピリオド奏法にも通じる感覚があって、それがバックハウスを半世紀以上を経てもなお色褪せることのないピアニストにさせているのかもしれない。さりげなく、あるいは無愛想に弾いている様に感じられるのに、よく聴くと彼のピアノには深々として心に沁みるような味わいがある。この気高さはまさにオンリー・ワンの世界だろう。
 50年代の後半から60年代はアナログ録音が飛躍的に進化した時期。“よくぞ、これほどの音質で録音していてくれた”と思う。バックハウスはベーゼンドルファーを好んで弾いたが、その艶やかな音とダイナミックレンジの広さ、低音域の伸び、さらに和音の多彩さがみごとにとらえられている。アナログLPの時代には聴きとれなかったし、CDをもはるかに超えている。第32番の終楽章で高音域の細かくころがるような音の連なりと響き合いのなんと美しいことだろうか。これが、聴力を失ったベートーヴェンの心の中で鳴っていた音……。


 1990年に古楽アンサンブル「エウローパ・ガランテ」を結成したバロック・ヴァイオリンの雄、ファビオ・ビオンディ。翌1991年に録音したヴィヴァルディの「四季」は、それまでの常識を覆すような斬新な解釈で、食傷気味だった音楽ファンにも衝撃を与え、以後古楽演奏のトップランナーとして走り続けている。ヴァイオリニストに加え、指揮者として合奏曲や協奏曲、オペラと精力的に活動し、最近ではスペインのGLOSSAレーベルに次々と話題作を録音している。その最新アルバムがストラディヴァリウス1690年製タスカンを弾いた18世紀イタリアのヴァイオリン・ソナタ集。2019年1月、ローマでの収録だ。
収録曲は以下のとおり。
01.ヴェラチーニ:ヴァイオリン・ソナタ ニ短調 Op.2〜12より「シャコンヌ」
02〜05.ジェミニアーニ:ヴァイオリン・ソナタ ニ短調 Op.4〜8
06〜09.コレッリ:ヴァイオリン・ソナタ イ長調 Op.5〜9
10〜12.タルティーニ:ヴァイオリン・ソナタ ト短調 Op.1〜10「Didone abbandonata」
13〜16.ロカテッリ:ヴァイオリン・ソナタ ト短調「Leufsta」
17〜20.ヴィヴァルディ:ヴァイオリン・ソナタ 変ロ長調 RV.34
 まさに18世紀イタリアで名を馳せた作曲家たちがズラリ。これをビオンディが弾く。演奏はもちろんバロック弓。ノンヴィヴラートでアクセントの強いバロック奏法だが、尖ってばかりの演奏とは違って、伸びやかさや穏やかさもあって、とくにコレッリのソナタで聴かせる明るさと陰りを合わせ持つ成熟した表現はすばらしい。ハッとさせる工夫も随所に聴きとれ、さすがビオンディだ。これぞイタリア&ストラディヴァリウス! 惚れ惚れとするほど輝かしい音色が空間を包み込む。チェロやテオルボ、チェンバロとの息の合ったアンサンブルもいい。録音が優れているので、弦楽器好きのライブラリーには外せないアルバムだろう。
 タスカンというヴァイオリンの名称はトスカーナの名門メディチ家が所有したことに由来し、ヴァイオリン2挺、ヴィオラ2挺、チェロ1挺のクインテットとして製作された楽器の一つで、サンタ・チェチーリア国立アカデミーが所有している。名器揃いのストラディヴァリウスの中でも最高の1挺とされていて、2018年に東京で開催された展覧会〈TOKYO STRADIVARIUS FESTIVAL 2018〉にも出展された。ワンピースの裏板の杢が美しい名器だ。


 「ゴルトベルク変奏曲」を弦楽三重奏で聴く。これは愉しそうだ。しかも、e-onkyo musicのサイトには96kHz/24bitの5ch音源がアップされている。「ソロとか室内楽をマルチchで聴かなくても……ステレオでいいじゃなか」と言われそうだが、そんなことはない。フロント3chで再生されるヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの音像感は、ステレオ再生のヴァーチャルな定位感とはあきらかに異なる。さらにリアの2chが加わることで、奥行き感や空間の表現がリアルに再現される。5chを使って何か特別のことを意図的に仕掛けた録音ではないので、楽器が背後から聴こえたりするわけではない。録音会場となったドイツの聖オスターク教会の空間が感じられる。それが素敵なのだ。
 演奏はヴァイオリンのフランク・ペーター・ツィンマーマンを中心としたトリオ・ツィンマーマンで、ここで演奏される弦楽三重奏版の編曲も行なっている。ヴィオラはアントワン・タメステイ、チェロはクリスチャン・ポルテラ。いずれもソリストとしてのキャリアがすごい。長年ベストなアンブルができる演奏者を探していたツィンマーマンが、タメステイのヴィオラ演奏に惚れ込み直々に弦楽トリオの結成を持ちかけ、タメスティは「それなら……」と、信頼するチェリストのポルテラを誘ってトリオ・ツィンマーマンが結成されたのだという。まさにスーパー弦楽トリオ。結成以来12年、いよいよ「ゴルトベルク変奏曲」の録音だ。これだけ腕利きのメンバーなら、互いに自己主張が……などと心配する必要なし。とくにツィンマーマンのヴァイオリンが協奏曲のときとはかなり違って、出るところ、支えるところ、響きを作るところを巧みに制御して、極上のアンサンブルを作り出している。すごい。
 しかも、3人はそれぞれストラディヴァリウスを弾いているのだから、何というぜいたくさ。各変奏ごとにテンポを変え、強弱を変え、音色感も大切にして、互いに息を合わせながら演奏という時間を共有することの何と愉しげなことだろうか。その温かみのある音楽を聴きながら過ごす時間の何と幸せなことだろうか。



 ジョアン・ファレッタ指揮バッファロー・フィルハーモニー管弦楽団の最新録音。2018年5、6月のニューヨーク州バッファロー、クライン・ミュージック・ホールでの収録だ。ファレッタは1954年生まれだから還暦だなんて言ったら、きっとファレッタは怒り出すだろう。まったく年齢とは関係なく、じつにエネルギッシュな仕事ぶり。2歳ほど年下のマリン・オールソップとともに女性指揮者の草分け的存在で、アメリカの近現代音楽のスペシャリストとして知られている。1991年にヴァージニア交響楽団の音楽監督、そして1999年からバッファロー・フィルの音楽監督を務めている。バッファロー・フィルとはもう20年の付き合いだけに、オケと指揮者のコミュニケーションや音楽的な指向もピッタリなのだろう。
 「ローマの祭」の冒頭からエネルギー全開のサウンドが弾けるように飛んでくる。ブラスも華やかに鳴って、パワフルな打楽器の迫力に圧倒されそう。こんなふうに書くと“大味なんじゃ?”なんてイメージを持つかもしれないが、そんな心配を吹き飛ばすエネルギーの噴出がファレッタらしい。それに「ローマの噴水」奏でる木管や金管の歌わせ方がじつに巧い。美しい旋律はことさら美しく艶やかに、パワーで迫るところではいっきにスロットを全開にする。その対比の妙が彼女の魅力に違いない。「トレビの噴水」では管楽器と打楽器の華麗な乱舞をすばらしい。「カタコンブの松」では50〜100Hzの低音が静かに鳴り続け、後半では圧倒的な重低音。「アッピア街道の松」では50Hz〜20kHz超までのワイドレンジなサウンドが炸裂する。これはパワフル大好きな大好きなオーディオ・ファンなら超の字が付くほど嬉しい音源だ。数多い「ローマ三部作」の録音の中でも、オーディオ的な面白さナンバー・ワン!

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