[こちらハイレゾ商會]第69回 実力派シンガーが新たに誕生したかのような、高橋真梨子のセルフ・カヴァー・アルバム
掲載日:2019年7月9日
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高音質放送i-dio HQ SELECTIONのランキング紹介番組『「NOW」supported by e-onkyo music』(毎日 22:00〜23:00)にて、この連載で取り上げたアルバムから牧野さんが選んだ1曲を放送します。今月の放送は7月15日(月)の「J-POP NOW」から。

こちらハイレゾ商會
第69回 実力派シンガーが新たに誕生したかのような、高橋真梨子のセルフ・カヴァー・アルバム
絵と文 / 牧野良幸
僕にとって、高橋真梨子は昔から“実力派シンガー”の代名詞的な存在だった。高橋真梨子をジャンル分けするならば、歌謡曲でもニューミュージックでもない。“実力派シンガー”、この言い方が僕には一番しっくりくる。
そう思うきっかけとなったのは、多分大方の人がそうであるように、ペドロ&カプリシャスの「ジョニィへの伝言」であった。高橋真梨子がグループの2代目ヴォーカルとして歌った1973年の大ヒット曲である。
当時ロングヘアーの高橋真梨子は若く瑞々しかった。同時に円熟した歌手のような歌唱力も備えていた。この一曲だけで僕は高橋真梨子を“実力派シンガー”のジャンルに入れたのだった。その後ペドロ&カプリシャスを離れ、ソロになった後も高橋真梨子は実力派シンガーとして第一線で活躍を続けた。
『MariCovers』は、そんな高橋真梨子がソロデビュー40周年を迎えて制作した初のセルフ・カヴァー・アルバムである。ソロ第1作『ひとりあるき』(1979年)から9作目の『トライアード』(1984年)までのアルバムから11曲を選び、アレンジを変えて再レコーディングした。
さっそく聴いてみよう。flac(96kHz/24bit)でのリスニングである。
1曲目の「MY CITY LIGHTS」から大人のアレンジが全開である。ストリングスが広がり、スネアドラムのきざむゆったりとしたビートが心地良い。続く「サンライズ・サンセット」は一転してアップテンポの曲であるが、こちらも整ったアレンジだ。
話はそれるが、個人的に僕は女性ヴォーカルを聴く楽しみの一つにアレンジがあると思っている。ギター・サウンドのロックと違って、ヴォーカル曲ではアレンジがキモになる。木管楽器やストリングスなどの使い方次第では、ロックと同じくらいカッコいい音楽になることが多い。
この『MariCovers』もそんなアレンジばかりで、高橋真梨子の歌声が映える。特にハイレゾだと掘り出された彫刻のように浮かび上がり、微妙なニュアンスを目視できるかのように聴ける。女性ヴォーカル好きにはたまらないハイレゾだ。
曲を進めよう。
この後もラテン風のリズムでシットリと歌う「訪れ」、雄大な「アフロディーテ」、ボクシングをしている恋人を歌った「BAD BOY」、明るいオールディーズ風の「この気分が好きよ」とさまざまなタイプの曲を高橋真梨子は歌い上げていく。特に僕が好きなのはハイトーンで歌い上げるところで、嬉しいことにそれはアルバムの全曲で味わえる。
「小さなわたし」は生ギターをバックに歌い出す曲。スポットライトに浮かび上がる高橋真梨子を、客席で息を止めて聴いているかのように引き込まれる。「祭りばやしが終わるまで」はタイトルとは裏腹に都会的なアレンジ、「黄昏の街から」はいかにも80年代初頭、昭和の匂いが香るバラード。
これらを聴いて思うのは、日本語を丁寧に音符にのせて歌うことがいかに素晴らしいかということだ。それは続く「忘れない」、そしてラストの高橋真梨子の作詞作曲による「Mary's Song」まで変わらない。アルバム全体で感じたことである。
『MariCovers』はセルフ・カヴァー・アルバムであるが、昔を振り返るものでもなければ、繰り返すものでもない。今年70歳の“実力派シンガー”が新たに誕生したかのような新鮮なアルバムだ。



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