音楽・ファッション・カルチャーのすべてにおいて世界的影響力を持ち、14度のグラミー賞受賞誇るアーティスト、
レディー・ガガが約3年4か月ぶりに来日。各国で完売続出のワールド・ツアー〈The MAYHEM Ball〉が遂に日本に上陸しました。
現在、グラミー賞「年間最優秀アルバム賞」にノミネートされている、ガガのポップ・ミュージックのルーツに迫る最新アルバム『
MAYHEM』を携えて行われた本公演。“芸術”と称されるその世界観と、観る者すべてを虜にする圧倒的パフォーマンスを記録したライヴ・レポートが到着しています。
[ライヴ・レポート] 最新アルバム『MAYHEM』(読み:メイヘム)を携えてのワールド・ツアー『The MAYHEM Ball』の一環として、レディー・ガガが約3年半ぶりのジャパン・ツアーを敢行。キャリア最大規模となる6夜の日本ドーム公演(大阪ドームで1月21&22日、東京ドームで1月25、26、29、30日)を即日ソールドアウトにし、絶大な人気を見せつけた。
このうち東京初日の1月25日の東京ドーム公演は、いつものようにガガの“Ball(舞踏会)”を楽しむべく思い思いに着飾ったリトル・モンスターたちが見守る中で開幕。今回のショウは過去のツアーと同じく章立てで、『Of Velvet and Vice(ベルベットと悪について)』『And She Fell into a Gothic Dream(そして彼女はゴシックな夢に没入する)』『The Beautiful Nightmare That Knows Her Name(彼女の名を知る美しい悪夢)』『Every Chessboard Has Two Queens(どのチェス盤にもクイーンはふたりいる)』の4幕と、フィナーレ『Eternal Aria of the Monster Heart(モンスターのハートの永遠のアリア)』で構成。彼女自身がディレクションを担当し、壮大なヴィジョンを具現化するにあたってステージ・パフォーマンスのトップ・クリエイタたちー――ショウ・ディレクションにベン・ダルグリーシュ(ポスト・マローン、ドレイク)、プロダクション・デザインにエス・デヴリン(U2、アデル)、振り付けにパリス・ゲーベル(リアーナ、ドージャ・キャット)――を起用。ドームの一端を広く切り取るオペラハウスを模したステージに、20人近いダンサー(日本人ダンサーのAmi Takashimaも参加)とバンドを従えて立ったガガは、ポップ・ミュージックとオペラ、ヴィジュアル、ダンス、シアターをミックスし、無数のコスチュームを身に付け、彼女ならではの過剰主義をさらに推し進めてゴシックな様式美で貫いたスペクタクルを展開したのである。そのかつてなく壮大なスケールに、隅々に満ち渡る美意識に、一瞬たりともブレない圧巻の歌に、常に変わり続けるマジカルなヴィジュアルにただただ圧倒されているオーディエンスは、一幕終わるごとにふと呪縛から解けたかのように拍手喝采を送るしかなかった。
そこに描かれたストーリーを要約するならば、冒頭で左右のスクリーンに映し出されるライトとダーク、ブロンドとブルネットの、ガガが内に持つふたつのペルソナの闘いだ。つまり『MAYHEM』で彼女が向き合った内なるカオスの表出であり、「Abracadabra」と「Disease」のMVのテーマとモチーフを数十倍にスケールアップしたとも言えるのかもしれない。ダークサイドが主役を務める第1幕の終盤になってふたりのガガは初めて対面し、以後彼女はふたりを演じ分け、全キャリアから広くセレクトした曲を巧みにストーリーに落とし込んでいく。その数は計30曲。『MAYHEM』からはほぼ全ての収録曲が含まれている。
第1幕のトーンを方向付けたのも、『MAYHEM』からの1曲「Abracadabra」だ。ここでガガが口にする“The category is, Dance or Die”こそ、この曲のMVにもフィーチャーされていた『The MAYHEM Ball』のキーワードであり、今宵は「踊るか、死ぬか」と日本語で選択を迫る。もちろん彼女が選ぶのは前者だ。
次いで第2幕はライトサイドのガガの独り舞台。墓地で幕を開ける殊にゴシック色が濃厚なこの章では、『MAYHEM』で鳴っていたインダストリアル・ロックサウンドが前面に押し出されており、あの「Paparazzi」も「LoveGame」もダーク&ヘヴィにアレンジが刷新されている。しかし第3幕では一転して、ステージ上の巨大な頭蓋骨がゴシック色を引き継ぎながらも、ファンキー&レトロな路線にシフト。「Zombieboy」「Applause」「Just Dance」と、華のあるポップ・ソングが並ぶ。また第4幕にも「Shadow Of A Man」を筆頭にラヴとエンパワーメントのダンス・アンセムが詰め込まれ、中でもドームを揺るがさんばかりの歓声に迎えられたのはほかでもなく、クィア・コミュニティに捧げた「Born This Way」だ。「あなたたちは私にとって本当にスペシャルな存在。世界にとっても。でもそんなこと、わざわざ私が言う必要はないよね。あなたたちは、自分がスペシャルな存在だと百も承知なんだから!」と付け加えて。
ではふたりのガガのストーリーはどうなったのか?第4幕の後半で彼女たちの関係は、自他に重要な決断を迫る「Million Reasons」と「Shallow」の2曲で転機を迎える。そして本編を締め括る「Vanish Into You」に至って、ふたつのペルソナは手を取り合って共存する道を見出すのだ。そう、まさに“あなたの中に溶け込む(=vanish into you)”ようにして。
第4幕の見どころはそれだけではない。ガガはオーディエンスと対話をしながらじっくり歌を聞かせる、ピアノ弾き語りのコーナーを用意してくれていた。朗らかに笑い声を立てながらこちらに手を振って、「フォーマルな言い方しか知らないんだけど」と前置きし、まずは「愛してます!」と日本語で挨拶。ここで登場する曲は毎晩異なり、今夜は「The Edge Glory」と、オーディエンスにリクエストされたという「Always Remember Us This Way」を聞かせる。たっぷり歌ったあとだけに少しざらついた、一層深みが増した声で、歌い出しの“That Arizona sky”をさりげなく“That Tokyo sky”に変えて。ご存知の通り、「Shallow」と同じく映画『アリー/スター誕生』のサントラに収められていた後者について、「アリーのための曲だけど、みんなのために書いたとも言えるのかも」と彼女は語ったが、“今の私たちを記憶に刻みたい”という歌詞は、まさに今ここにいるオーディエンスと彼女の絆を讃えているようでもあった。また絆と言えば「The Edge of Glory」を歌った際に、20年近く続いている自分と聞き手の関係について話しながら、涙ぐんでいたことにも触れておきたい。「今世界で起きていることを思うと圧倒されてしまって、息をすることも、微笑みを浮かべることも辛くなったりする。でもこの曲は、私たちにはお互いを支え合うコミュニティがあることを思い出させてくれる。微笑む方法を思い出させてくれる。だから私のコミュニティでいてくれてありがとう」と感謝の言葉を伝えながら。
続くフィナーレでは、タイトル通りにモンスターの姿で「Bad Romance」を披露したガガ。一旦ステージを後にし、ここで終わりかと思いきや、しばらくするとスクリーンには楽屋でメイクを落としながら「How Bad Do U Want Me」を歌う彼女の映像が映し出され、ほどなくして彼女は、リラックスした晴れやかな表情でステージに帰ってきた。シアトリカルな非日常性を極めたゴシック・ドリームから我々の目を覚まし、リアリティに引き戻す、素顔でのアンコールだ。そして最後は独りで「Disco Heaven」に乗せて、まるでランウェイのスーパーモデルのように颯爽とステージを歩くと、指先を少し丸めてモンスターの手に見立てた“Paws Up”――マザー・モンスターからリトル・モンスターたちへの愛情を込めたポーズをクールにキメたのだった。
これほどまでに日本を愛し、その想いがファンに真っ直ぐ伝わってくるアーティストは、世界を見渡してもそう多くはない。
そんなガガは第68回グラミー賞主要部門を含む7部門にノミネートされ、「今年度最も多くノミネートされた女性アーティスト」となっており、受賞に期待が高まる。第68回グラミー賞授賞式は、現地時間2026年2月1日(日)、ロサンゼルスのクリプト・ドットコム・アリーナにて開催予定。